12話 おっぱいを狙われるカオスなドッジボール
4時間目は体育で、1階の体育館に移動した。
今日やるのはA組B組のクラス合同によるドッジボールらしい。その前に準備運動として体育館を3周している最中なのだが、
「ぜぇっ……はぁっ……⁉」
肺が苦しい。2周目に入った途中から息切れをし始めた。き、きつい⁉
これは多分、単純に女の子の体だから体力がないんだろう。元の男の体だったらこんなすぐに息切れを起こすなんてありえない。それにしても、これは体力がなさすぎじゃないか? 他の女子生徒は皆平気そうなのに。
けど、平気じゃない人がもう一人いた。
ようやくの思いで3周走り終え、僕は仰向けになって倒れると、その横で真倉が同じように仰向けに倒れる。
「に、にゃはは……体力、ないよ、蓮ちゃ……ぐふっ」
真倉はわざとらしく吐血する仕草を見せる。体力ないのは真倉もじゃん。
そういえば、真倉は勉強だけでなく、運動もダメだったっけか。直接見たことはないけど。
しかし、いくら女の子でも中身は男なため、体力勝負で女子生徒たちに負けるのは何か悔しいな。
(体力、少しはつけないとな……)
息も徐々に落ち着き、僕は上体を起こす。隣ではまだ真倉が胸を上下させている。それを見ないように視線を逸らすと、今度は真倉が履いている紺のブルマを見てしまった。
うちの学校は体育の時間用に、体操服ではなくブルマを採用している。教師をしていた時も思っていたけど、ブルマって男の目には毒だよ。びっちりとしたブルマが肌にピタリと張り付き、下着のように小さく短いながらも女の子の絶対領域を守っている。それがどこか男の性を刺激してしまう。
そんな刺激物と呼べるようなものを、僕も今履いている。見る分にはいいんだけど、履くとなると下着のようにぴっちりと張り付いているせいかもどかしい。
寧に相談して普通の体操服に変えてもらえないかな……。
そんな淡い期待を抱きつつ、いよいよ男子女子分かれてのクラス対抗のドッジボールが始まった。
コートの反対側には、A組の女子生徒がいる。僕は傍目に隣のコート、その片側にいるA組の男子生徒を見た。
――A組の生徒の雰囲気も、変わってるな。
B組の皆を見た時にも感じたことだけど、両クラスともに雰囲気が明るくなってる。やっぱり、クソ上司らが消えたことによって、生徒たちの雰囲気も変わったのかな?
理由はわからないにしても、明るくなったのならいいことだ。少なくとも、以前までの雰囲気だったら皆に悪影響しか及ばさない。
「それじゃあ始めるぞ!」
いかにも体育教師らしい強面の熱血男がそう言い、『ピー―!』と笛を鳴らした。
最初のボールの所有権は向こうだ。せっかくやるなら、本気でやろう。何よりドッジボールをやるのなんて数年ぶりだから、少しワクワクしてる。
「まずは憎らしげな胸を持つあなたからよ!」
おかっぱ髪の女子生徒(貧乳)が、僕(というより僕の胸)目掛けてボールを投げてきた。何でみんなして僕のおっぱいばかり見てくるの⁉ 本当にトラウマになりそうだよ⁉ でも、貧乳の彼女からしたら、僕のおっぱいはさぞ憎らしげに映っただろう。そこは本当にごめんなさい!
ボールの勢いはさほど速くはなかったが、受け止めれるかは微妙だったため避けることにした。
――ゴキッ。
……ん? 何か今変な音しなかった?
しかし、避けたせいで白線の外にいるA組の生徒にボールが渡ってしまった。すぐに僕目掛けボールを振りかぶってくる。また僕かよ⁉
今度は避けずに受け止めようと構えたけど、そんな僕の前に真倉が飛び出してきた。
「蓮ちゃん(おっぱい)ばかり狙うなんて卑怯だよ⁉」
しっかりカッコの中まで言いつつボールを受け止めた。カッコの中は言わなくていいよ⁉
真倉はボールを抱え、相手に余裕を持たせる前にボールを投げた。
「ていっ」
ボールは一人の生徒に飛んでいき、見事命中した。
これで一人目。けど、ボールは再度相手のコートに渡ってしまった。
「よくもやってくれたわねっ」
おかっぱ髪女子は、相変わらず僕のおっぱいを睨めつけつつ、真倉を睨んだ。多分その目も、真倉のおっぱいを見てる気がする。
開始してまだ数分しか経っていないのに、何か殺伐としてきたんだけど、ドッジボールってそんなスポーツじゃないよね?
おかっぱ髪女子は真倉目掛けボールを投げようとする。しかし、寸でのところでボールをその場に置くように手放した。空中に浮いたそのボールを、後ろから現れた別の女子生徒が掴み、そのまま僕に向かって投げた。
ちょっ! 何そのただ者じゃないような動き⁉
いくらなんでもそんな動きをしてくるとは思わなかったため反応が遅れた。避けることはできずに、ボールは僕の右肩に当たった。
――バキッ。
耳元で骨が折れるような聞きたくもない音が聞こえた。
…………え?
ボールは肩に当たった衝撃で跳ね返り真倉がキャッチしたけど、僕の視線は自分の右肩に釘付けだった。
僕の右肩、というより右腕は、まるで振り子のようにプラプラと揺れていた。
「……っ」
僕は咄嗟に肩を押さえた。すぐに周りを見るも、誰も僕の肩の異常には気づいていないようだった。真倉は「よくも蓮ちゃんを……⁉」と向こうコートを睨んでいる。
僕は違和感に気づかれないよう、そそくさと白線の外側に出た。
ドッジボールのことなんか忘れ、僕は自分の右肩を見た。血は出ていないし、痛いは痛いけど我慢できないほどではない。
ドッジボールの玉で肩が外れた? いやいや、いくらドッジボールの玉でも女の子が投げる玉だぞ?
…………もしかしてこの体、ものすごく脆い?
「危ない、水城さん⁉」
笹倉の焦った声に顔を上げるも、それがいけなかった。眼前にドッジボールの玉が迫ってくるのが、一瞬スローモーションで見えた。直後に痛みが走ったかと思えば、僕はそのまま意識を失ってしまった。
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