童話調




 常磐色をしたその目は、彼を包んでいる茨と同じ色をしております。彼の髪の毛は、目の前の濡れたカラスの羽にそっくりでございました。頭の上をカラスが通って、彼の髪を濡らします。


「こらカラス、何をするんだ」


 思わず怒った声を上げると、カラスは笑い声をあげました。王子はぱちりと瞳を瞬かせ、次の瞬間、叫びました。

 だって、カラスが人間と同じように笑い声をあげたのです。それの不気味なことったら!


「『こらカラス、何をするんだ』だって? おかしなことを聞く!」


「どうしてカラスが人間の言葉を喋るんだ!」


「こりゃあ、おかしいおかしい。とてもおかしいぞ!」


「何がおかしいんだ!」


 カラスは王子の言葉にカラカラと笑って、そのあとにもう一度おかしいと呟くと、羽を広げ、羽ばたいてみせました。

 ああもう。水があちこちに飛んで、王子は全身を濡らしてしまいました。気持ち悪いったらありません。

 王子が眉を顰め、カラスに文句を言おうとしたときです。

 カッとまばゆい光が辺りを包み込み、王子は思わず目を伏せました。キュポンと不思議な音がして、カラスの馬鹿にしたような笑いが聞こえてきます。

 王子はまた、何がおかしいんだと怒鳴りつけようとして、やっぱり叫び声を上げました。そこには、にんまり笑った少年が立っていたのです。

 腰を抜かす王子に、少年は指を折りながら言いました。


「まず初めに、何をするんだと聞いたね? 君の目が覚めたから、君から見えやすい位置に移動したんだ。次の質問はカラスが人間の言葉を喋る理由? 違うよ、逆だ! カラスが人間の言葉を喋るわけじゃない!」


 少年はそこで言葉を区切ると、ぱちんと指を鳴らしました。するとどこからか黒いシルクハットが出てきます。

 王子はもう驚いて、今度は声すら上げることが出来ませんでした。

 そのシルクハットを被ると、少年は素早く片目を瞑ってみせます。


「人間の僕がカラスに化けていたんだ。僕は偉大なる魔法使いだからね!」


「魔法、使い……?」


「そうさ! そしてここは君の夢の中! 君は、自分の意思でここに来た! 僕に頼んでね!」


「覚えてない」


「それをこれから思い出すのさ、マヌケな王子様! ペンダントは持っているね? それがここを出る鍵になる」


 胸を指されて、王子が自分の胸元を確認すると、彼の言う通り、ずいぶんと質素な、銀色に光るペンダントがぶら下がっています。


「さあ行こう! 自分を見つけに!」


 手を差し伸べられ、王子はおそるおそる自分の手を重ねました。にっこり笑った少年は、手を握ると揚々と歩き始めます。

 これが、王子の旅の始まりでございました。



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