よく分かんない




 頬を生暖かい何かがツツ……と伝い、乾いた地面に落ちてじんわりと広がっていく。


「……あれ、雨でも降ってきたのかな」


 少女はそれを見ると頬に手を当て、ボソッと呟いた。

 どうして傘を持ってきてない日に限って雨が降ってくるのだらうか。

 ムウッと頬を膨らませ、拗ねたように口を尖らせると目の前で寝ている少年の体を揺する。


「……ねぇ」


 ──傘、持ってる?

 小首を傾げて問いかけるが、少年からの返事が返ってくる様子はない。


「……ねぇ、ねぇってば」


「……お嬢ちゃん、」


「はい、どうかしました?」


 無視か。良い度胸じゃないかと諦めずに何度も呼んでいると、後ろから声を掛けられた。

 少女が振り向くと、気まずそうに視線をあちこちにさ迷わせている老人が立っていた。

 表情は、暗い。


「……どうしましたか?何か悲しいことでもありました?」


「……い、いえ…あの……」


 少女の問いかけに、老人はますます表情を曇らせるとバツが悪そうな顔をした。

 少女は再び首を傾げる。老人は今にも泣きそうなくらいに顔を歪め、口を開こうとした。


「──うわ、なにこの騒ぎ」


 しかし老人の口が開く前に、少女の耳に五月蝿い音がいっぱい入ってきて、老人の言葉は聞き取れなかった。


「事故が、あったんだって……」


「事故?」


「……高校生の男の子が、車ではねられたって」


「ええ、ほんとですか?怖いなあ……気を付けないと」


「……そうだね」


「……あれ、なんで泣いてるんですか?大丈夫ですか?」


「……大、丈夫……っ」


 老人の瞳から絶えずボロボロと溢れてくる涙を見つめ、少女はそれが雨みたいだと、思った。


 ふと見上げた空は、嫌になるくらいに澄んだ蒼が広がっていた。



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