第118話:狂焔帝フレイリッグ2
俺たちの前にあるフレイリッグが作った巨大な岩の壁は、そのまま残り続けていてフレイリッグに近寄ることができないが、フレイリッグの背後の壁は半壊している。その半壊した隙間からフレイリッグが飛び出していって、銃撃部隊の陣地へと向かっていく。そこへ向かうフレイリッグにウィンダイムが上から攻撃をしかけるが、それを物ともせずにフレイリッグは陣地に突っ込んで壁を破壊しながら蹂躙し始めて、悲鳴が上がる。
岩の隙間からその惨状を見て迂回できる場所を探すが、相当距離がある。雨で足場も悪く、岩をよじ登るのは困難だ。
「ウィンちゃん! こっちきて!」
ウィンダイムが移動しようとしたところにフレイリッグが襲いかかって、フレイリッグがウィンダイムを組み敷いて乗り上げる。ウィンダイムがフレイリッグに応戦するが、元々の強さが違うのと属性の相性もあるので分が悪い。
「レオさん!」
セーレが俺の近くまで走ってくる。
「失礼します」
そして、俺を担いで多少低くなっている岩のところを飛び越える。飛び越えた先も砕けた岩がごろごろしていて足場が相当悪いが、セーレは気にした様子もなく最短距離を駆け抜けていく。
「サ、サンキュー」
「他の人も運んでくるから、どうにかして」
俺を平らなところに下ろすと、すぐさまセーレは岩壁の向こうに戻っていく。
「どうにかって……」
セーレにしては、雑な言葉を反芻する。セーレも余裕がないのだろう。
どうにもならないかもしれないが、とりあえずフレイリッグに向けて駆け寄っていって、スキルを放つ。
フレイリッグの注意がこっちに向いた瞬間を見計らって、ウィンダイムがフレイリッグの下から抜け出して上空へと逃げる。
後方からは、アキレウスとディミオスがタケミカヅチに運ばれてきて、俺に合流する。
「誰かスキル何か上がってます?」
「いや」
「まだだね」
「じゃ、離れて順番に」
散開してフレイリッグにスキルを使い始める。
フレイリッグが前足を振り上げて、俺を踏みつぶす。
「ぐあっ……! ……がっ」
骨の折れる嫌な音が自分の身体からする。POTを使えるようにはしていたが、当然回復が間に合うわけもない。そして、そのまま爪で鎧ごと引き裂かれ、その引き裂かれた箇所に爪を突き立てられる。
「あ……、っぐ」
全身引き裂かれるような痛みに意識が飛びそうになった後に、ふっと痛みが消えて世界が灰色になる。
ああ、死んだ。
灰色の世界をフレイリッグの巨体が横切るのが見える。俺以外の誰かを標的にして、また他の人を標的にしているようだ。
意識だけあって何もできずに、焦りでその光景がスローモーションに見える。
早く、早く、生き返らせてくれ。そう思っていると、少ししてから視界に色が戻って生き返る。
しかし、見計らったようにフレイリッグの範囲攻撃が飛んできて吹き飛ばされる。
バフが消えているところへの攻撃に耐えきれずに再び倒れて、世界が灰色になる。
死ぬ前に一瞬見えたが、アキレウスもディミオスも倒れていた。
これはやばい。
次に生き返ったらすぐさま退避しなくては。
しばらくすると、また視界に色が戻る。
しかし、フレイリッグの足が目の前にある。
「逃げて―!」
シオンが俺を突き飛ばして、フレイリッグに踏みつけられ、シオンのHPが尽きる。
セーレがフレイリッグの頭に飛び乗って、攻撃を仕掛けているが、フレイリッグが頭を勢いよく振って、吹き飛ばされていく。
ダメだ、見ていては。
ここは、退かなくては。
後方に走りだすとフレイリッグが追いかけてきて、俺とすれ違いにクッキーとマリンが走っていく。
そのしばらく後に、背後からフレイリッグがドンと地面を踏みつける音とマリンの悲鳴が聞こえきた。
俺が守るべきはずの人たちが俺を庇って倒れていく。
ギリっと歯を食いしばって、後衛がいるところに走って行くと、前方にいたバルテルからバフが届く。
「人少ないところ行きます! 支援パーティーは距離取ってついてきて!」
そうは言ったものの、俺一人だけだとフレイリッグのヘイトを維持できずに俺を無視してフレイリッグが暴れだす。
「動けるパラの人! フレイリッグ引き付けるのしばらく協力してください!」
俺の言葉に、パラディンがばらばらと集まってきて、フレイリッグにスキルを使いだすが、レベルの低いパラディンは範囲攻撃でなぎ倒されて、すぐに数が減っていく。
「少しだけ……持ちこたえて……!」
フレイリッグが鬱陶しそうに、ぶんぶんと尻尾を振り回して周囲のプレイヤーを弾き飛ばすが、強制的にターゲットを引き付けるスキルによってその場からは移動しなくなる。
「待たせた!」
アキレウスが走ってきて、俺から少し離れた位置へとつき、そのしばらく後からディミオスも走ってくる。
「あちらの方に引きましょう」
また、近くにプレイヤーの死体が増えたことで、空いている場所を指さして二人と距離を取りつつ走っていく。
他のギルドメンバーがどうなったか確認することもできないが、少なくともヒールするモカの声は聞こえてきている。
「雨更新します」
セーレの声が聞こえる。まだ三十分は経っていないとは思うが、時間を気にする余裕もなく、途切れさせるよりはよほどいい。
「全く小癪なやつらよ」
フレイリッグが叫ぶと、周囲に赤いクリスタルが出現して、フレイリッグの眷属の魔物が大量に出てくる。
「雑魚処理、当初のパーティーで! 配置は気にしなくていいから、パーティー毎に固まって処理お願いします! フレイリッグ担当以外のパラディン、雑魚引いてください!」
いくらかの魔物は、俺やアキレウスたちにも襲い掛かってくる。
混乱に乗じて上空へ飛び去ろうとするフレイリッグにウィンダイムが上から襲い掛かって、飛び立つのを阻止する。
「無敵上がってるから、雑魚受けます! イージス!」
アキレウスとディミオスに伝えて、無敵スキルを使って範囲スキルを使うと近くの魔物が俺に襲い掛かってくる。しばらくここらの魔物は処理されることもないだろうから、無敵が切れたら集中攻撃を受けて俺は死ぬだろう。
「レオさん!」
セーレの声がなぜか上からして、見上げればウィンダイムに乗って近づいてきて、無敵が切れる直前に俺をウィンダイムの上に引き上げる。
「しばらくここで引き付けていてください。余裕あったら他のも」
ウィンダイムの背に乗って上空へと飛び立つと、下にいる魔物はまだ俺をターゲットした状態で、俺に攻撃をできないにもかかわらずウィンダイムに乗った俺に向かって走ってきている。
完全に無力化できている。
「こりゃいい」
「オレは下行きますね」
飛んでいるウィンダイムの背中から躊躇なく、セーレが飛び降りていく。
少々雨が邪魔だが、上空からだと戦況がよく見える。
「ウィンちゃん、右手の方。雑魚いっぱいいるところに行って少し高度下げて」
魔物が多いエリアに行ってスキルを使って、ターゲットを奪って、すぐさま浮上する。
「ヒーラー優先でリザしてください!」
結構な数のプレイヤーが倒れている。ギルドメンバーの様子が気にはなるが、今は個を見ている場合ではない。
使うことはないだろうと思っていた銃に持ち変えて、たまに上から攻撃をしつつ様子を見る。
フレイリッグは、アキレウスとディミオスが人のいないところに移動させていってくれている。
その間に徐々に立て直しされていって、しばらくすれば魔物はほぼ片付いてクリスタルも壊されていく。
「壁、再度構築してください! セーレ、場所の指示お願い」
俺の言葉に、セーレが他プレイヤーを招集し始める。
「ウィンちゃん、フレイリッグの近く下ろして」
「このままの方がよくない?」
「ディレイ毎にスキル使いたいから、下で」
「う、うん」
「ありがとうね」
武器を銃から持ち替えて、再び地上へと降りる。雨足が強く足元はぬかるみ始めている。
「モカ! ヒールお願い!」
「うっす!」
下に戻ったことをモカに知らせて、フレイリッグに向かって泥水を跳ねさせて走っていく。
「お帰り。そのまま飛んでいればよかったのに」
俺に気付いたアキレウスが、雨に濡れた額を拭いながら言う。
「上からだと、スキルの間が空いてしまうので」
「全く、セーレ君みたいなことを……」
フレイリッグを挟んで反対側に壁が構築されていくので、それに合わせて位置を少し移動すると、ヒーラーたちも射線に入らないように移動していく。
フレイリッグが忌々しそうに唸る。
「悪いな、トカゲ」
フレイリッグにそう言ってから、討伐隊に指示を出す。
「攻撃再開!」
山頂に大砲と銃の音が響き渡って、再びフレイリッグのHPが減り始める。
しばらくして、セーレがウィンダイムに乗ってこちらに戻ってくる。
「向こうは、まだ余裕ありそう?」
「よいのですか? フレイリッグの前で状況ペラペラ喋って」
「そう言われるとなぁ」
事前にその辺も相談はしてあるものの、指示は出さないとどうしようもない。
「まぁ、あと五回くらいは壁壊されても問題ないので、このペースなら余裕でしょう」
セーレがフレイリッグにもよく聞こえるように、わざわざ大きな声で銃を撃ちながら言う。
「セーレ君、いい性格してるよね」
「誤射していいですか?」
「君のそういうとこ好きだよ。っと」
アキレウスが、フレイリッグの攻撃を後ろに飛んで避ける。
慣れてくれば、いくらかは避けられる攻撃はあって、多少は被ダメージを抑えられる。
集中砲火を浴びて動くことのできないフレイリッグのHPはみるみる減っていって、残り半分を切って、フレイリッグの頭の角は所々欠け、鱗は剥げていく。
このまま何事もなければいのだが……。というわけには、いかなかった。
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