第65話:海戦1

 手紙の返信があった翌日には、イーリアスのメンバーと色即是空の残りのメンバー。さらに、メロンたちが声をかけてきたギルドも集まってなんだかんだで総勢七十名ほどになった。

「えーっと、宿がいっぱいみたいだから、ターハイズのギルドがいくつか部屋かしてくれるって」

「マリンさま~。私、お船でもいいですよ~」

「あー。あの船、あんまり寝るところなくって」

「そうなのですか?」

「そうなの。あっ、セーレ。編成お願い」

「オレ?」

「最初に、あんたが討伐したいって言ったんだからやりなさいよ」

「そうだっけ」

「そうよー! 指揮もやんなさいよ」

「はいはい。クッキーさん、名簿ください」

「はっ。こちらに」

 クッキーが、セーレに名簿をすっと差し出す。

「メロンさん、アンネさん、クッキーさん、編成の相談したいから一緒に部屋来てください」

「はーい」

「あいよ」

「かしこまりました」

 部屋に消えて行く四人を見送ってからマリンに話しかける。

「俺、何かやることある?」

「あっ、ボクも何かあったら手伝うっす」

「そうだなぁ……。うーん……。ないかも?」

「じゃあ、決起会しようぜ!」

 話を聞いていたタケミカヅチが身を乗り出してくる。

「そうねー。懇親会的な感じでやるのもいいね。レオくんとモカちゃん、ターハイズのギルドの人声かけてきてもらっていい?」

「おっす」

「はいっす」


 懇親会は宿の食堂では手狭だったので、船の甲板で行うことになった。冬の季節で海風は少々寒いが、晴れた空の下で皆は物珍し気に船を散策している。ターハイズのプレイヤーを集め終わる頃には、セーレたちも部屋から出てきて混ざっていたので、セーレに話しかける。

「編成組めたの?」

「まぁ、だいたい」

「おつかれ」

「どういたしまして。面倒でした」

「人数多いもんな」

「いえ、そこはいいのですが……」

 セーレが声のトーンを少し落とす。

「ギルド内でもプレイヤー同士の仲がいい悪いとか、動きの良し悪しや、向いているポジション違いますからね……。その辺考えると面倒です」

「お前、そういう配慮できたの……」

「ひどいですね」

「ごめん」

「ふふっ、怒ってはいませんよ」

「そう?」

 セーレと話していると、モカとシオンがやってくる。

「タケさんが肉焼こうって言ってるっす」

「バーベキューセット持ってきたんだって」

「おお。行きます」

「バーベキューか。いいね」

 タケミカヅチの元に行くと、木炭の入ったバーベキュー用の設備が十個ほど置かれている。

「おう。来たか」

「これ、どこで買ったんですか?」

 疑問に思ってコンロを指さす。

「スッチーが作ったやつだから売ってないぜ」

「なるほど」

「製作のレシピあるよ~。どぞ。木炭は製作用の素材でいけます」

 スチュアートがバーベキューコンロのレシピをトレードで渡してくる。

「どうも」

「ミミちゃんにもあげるね」

 スチュアートは、隣にいたミミにもトレードで渡している。

「わー。ありがとう!」

「そいじゃ焼くか!」

 タケミカヅチが肉を並べる。

「これが牛肉、ここが豚肉で、ここは焼き鳥、ここはソーセージな。こっちマイルドでこっち辛いやつ」

「肉以外はないんっすか……?」

「おう。サザエとエビあるぜ」

 たぶん、モカが聞きたかったのはそういうことではない。

「こら、タケ~。野菜も置けってば」

 タケミカヅチの行動に気付いたアンネリーゼが横から口を挟む。

「持ってきてねぇ」

「はーい。じゃあ、私が置くね」

 スチュアートがタマネギやピーマンを並べ始める。

「バーベキューとか久しぶり~!」

 皿と箸を手にもってマリンがウキウキとしている。

「お肉と聞いて!」

 メロンが後ろからひょこっと顔を出す。メロンの後ろにはミストラルの姿もあった。他のイーリアスのメンバーと談笑していて、どうやらだいぶ馴染んでいるようだ。

「おう。食ってけ食ってけ。タレはそこな」

「はーい」

「他のギルドのやつも遠慮なく食ってってくれ」

 タケミカヅチの言葉に、他のギルドのプレイヤーもわらわらと集まってくる。

 皆、バーベキューは久しぶりだの初めてだの口にしている。


「タケさんありがとねー」

「はっはっはっ。いいってことよ。焼きたいものあったらじゃんじゃん乗せてくれ」

 タケミカヅチが大きく口を開けて笑う。

「はーい。って、あっそうだ。乾杯しまーす! 各自飲み物用意してください!」

 マリンの言葉に、皆わらわらと飲み物を取り出す。

「それじゃー、クラーケン討伐がんばるぞー! かんぱーい!」

「乾杯!」

 様々なグラスが空に掲げられて、グラスの重なる音が響き渡る。

「外で飲むビールは格別じゃな」

 バルテルがぷはーっとビールを飲み干して言う。

「賑やかでよいことです」

 クッキーが湯呑で緑茶を啜っている。犬の口ではあるが器用に中に入って行く。

「ク、クッキーさん!」

 クッキーにヴァンピールの女性が話しかけている姿が見える。

「なんでしょう?」

 ヴァンピールの名前は犬まっしぐら。以前、フレイリッグを討伐した際に一緒のパーティーにいたアサシンだ。

「顔触ってもいいですか……?」

「どうぞどうぞ」

「わ、わぁ~。ありがとうございます」

 名前の通り犬が好きらしい。犬まっしぐらは、やや遠慮がちにクッキーの頭を撫でている。

「子どもの頃コーギー飼ってたんですよね」

「奇遇ですね。わたくしも昔飼っておりましたよ。この名前もそこから」

「今も何か犬飼ってるんですか?」

「シェパード二頭の世話をしておりますよ。元気だとよいのですが……」

 などと会話をしている。

「犬かぁ……。昔飼ってたなぁ……」

 実家にいた犬を思い出す。妹がどうしても飼いたいと言って飼い始めたシベリアンハスキー。目つきは悪かったが、性格は愛嬌があって可愛らしかった。

「いいなー。うちはペット飼ったことないっす」

「私も~。あっ、でもおばあちゃんちに猫いっぱいいたなー」

「動物園とかないんっすかね?」

「ないだろうなぁ」

「あーでも、動物園より遊園地の方がいいっす!」

「そうだね~。ジェットコースターいっぱいほしい」

「その話はやめて」

 モカとシオンの言葉に、俺は嫌な出来事を思い出す。



 懇親会の翌日は、さっそく討伐に向かうことになり船の前でセーレが挨拶をしている。

「本日指揮を務めさせていただくセーレと申します」

 自己紹介せずとも、この場にいるプレイヤーはほぼセーレのことを把握しているだろう。皆、しっかり耳を傾けて聞く姿勢だ。

「各パーティーリーダーに編成表を渡していますので、まずそちらで集まってください。レオさん、モカさん、バルテルさん、シオンさん、タケさん、犬さんはオレのパーティーです。こちらに」

 顔ぶれ的には近接パーティーのようだ。セーレが俺に編成の紙を三枚渡してきたので内容を確認する。編成は近接、遠距離、砲撃、混成、その他操舵や船内の伝令など役割が書かれている。砲撃にはターハイズのギルド所属のメンバーの名前が多い。安全面や戦闘経験が加味されているのだろう。操舵はギルドメンバーが行わないといけないため、クッキーの名前が記載されている。

 二枚目は、各パーティーの初期配置を記した紙だ。

 三枚目は、もし無人島に漂着してしまったら。という紙が入っていた。昨日モカとシオンが作っていた。

「未知の敵ですので、ぶっちゃけ今は敵について説明できることはほぼありません。戦闘中随時指示という形になります。こちらは事前に説明していますが、敵は水属性かと思われますので属性で対応できる方は準備しておいてください」

 その後で、セーレが俺を手招きするので隣に立つ。

「メインタンクはオレのパーティーのレオンハルトになります。ヒーラーの数が少ないので、指示があった場合は支援お願いします」

 まぁ、想定の範囲内だ。軽くお辞儀だけしておく。

「見張り台に関しては、弓パーティーから一名相談して出してください。戦闘慣れている人がいいかな」

 それからもう少し説明と質疑応答があって、昼食を済ませてから再集合ということになった。


 セーレは他のパーティーのリーダーとまだ打ち合わせをしているので、俺はモカと一緒に倉庫を訪れる。

「セーレさんって、ああやって人前で喋ってると、落ち着いてるし頭よさそうに見えるっすよね」

「いや……あいつ、頭はいいと思うぜ……」

 思考回路は時々壊れているところがあるとは思うけれど。

「あーうん。それはそうなんっすけど……。あっ、そういえばレオさんこれどうぞっす」

「何?」

 トレードで差し出されたのは焚火というアイテムだった。

 きっと無人島で役に立つ。

「……縁起悪いな!?」

「狼煙の代わりにもなるから、いざという時のためのっす! レオさん盾だから海中引き込まれるかもしれないっすし……」

「おやめ」

 カーリスよりは南にあるため寒さはマシだが、それでも季節は冬だ。冬の海に落ちたら、無人島に流れ着く前に死んでしまいそうだ。

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