第41話:サプライズ

 9月になると、モカが話しかけてくる。少し前からカレンダーが置かれていて、日付を把握しやすくなった。

「レオさんレオさん」

「何?」

「明日シオンさんの誕生日なんすよ」

「あ、そうなんだ? よく知ってるな」

「レオさんの誕生日の時についでに聞いたっす!」

「なるほど」

 この辺り、モカはなかなか抜かりがない。

「マリンさんは7月で、もう過ぎてたっす」

「マリンさん、騒ぐの好きなのに自分の誕生日は言わないんだなー」

 まぁ、二十台後半になってくると、誕生日でそんなにテンション上がらないので、そういうものかもしれない。

「そうっすねぇ。あーでも、セーレさんがなんかマリンさんにプレゼントしてる日があった気がするっすね。ちなみに、セーレさんの誕生日は、どうでもいいでしょう。って教えてもらえなかったっす」

「興味なさそうだよな。あいつ」

「で」

「ああ、シオンさんの誕生日ね」

 モカと話していると、マリンとセーレが部屋にやってくる。

「何こそこそ話してるのー?」

 モカがマリンの背後にいるのがセーレだけなのを確認して、モカが口を開く。

「明日、シオンさんの誕生日なんで、何かお祝いできないかなーって、相談しようとしてたとこっす」

「おっ。サプライズ。いいね。その辺のカフェで打ち合わせしよっか」

「うっす」

 俺とモカが立ち上がって、皆でギルドハウスを出て行こうとすると、背後から声がかかる。

「あれ、皆おでかけー?」

 シオンだ。

「う、うん。ちょっと」

 マリンがあからさまに挙動不審になって、上ずった声で返事をする。

 四人で出かけるのに、シオンを誘わないのは不自然だ。どうしよう、と隣のモカを見るが、モカもオロオロした表情をしている。

「マリンはメロンさんのところ行く予定で、レオさんとモカさんは買い物だそうです。オレは狩り行く予定だったのですが、シオンさん一緒に狩り行きますか?」

 セーレがごく自然な様子で、さらっと嘘をつく。

「うん! あ、でも先に倉庫寄っていいかなぁ?」

「はい」


 街の途中で二人と別れて、マリンとモカと一緒にカフェに入る。

「あ、危なかったっす」

「だね……」

「それで、どうする? シオンさん何が好きだろう」

「お酒っすかね」

「まぁ、それは出すとして。シオンちゃんメンズの制服とかスーツ好きだよねー」

「そういえば、前にレオさんたちにも着せてたっすねぇ」

 そんなこともあった。

「あと、歴史物好きって言ってたっすねぇ」

「なんだっけ、あのドイツの……ロンメル……? 違うな、急降下爆撃の人好きって言ってた気がするわ」

「あと、戦艦の……えーっと、なんか……。あんま興味ないから思い出せないっす」

 俺が知らない間に、二人はシオンの趣味趣向に詳しくなっている。よく女子会をしているので、その辺りだろう。

「じゃー……」


 モカたちと打ち合わせをした翌日、シオンの誕生日の日。

 セーレにシオンを少し狩りに連れていってもらって、その間に他の皆でギルドハウスの大部屋を模様替えする。

「でっかい地図どこ飾るっすかね?」

「うーんと、そっちの壁」

 部屋を皆で軍人の作戦会議室のような部屋に作り替えていく。

 家具配置は明治から昭和初期の洋館イメージで、中央には長い机を配置する。それほど詳しい人がいるわけではないので雰囲気だけれど。

 皆は、所々赤いアクセントの入った黒い軍服を着ていて、バルテルだけ飾緒や勲章を多めにしていて、貫禄を出している。

「わくわくしますね」

 クッキーの軍服姿は可愛らしい。軍人というよりは犬のおまわりさんのような雰囲気だ。

 マリンとモカはパンツスタイルの男装で、髪を後ろで纏めている。普段と違った魅力があって、大変よろしい。

「レオくん、そういう衣装似合うよね~」

「ありがとう。でも、なんかスーツみたいでちょっと窮屈かなーって」

「へー。仕事ではスーツ?」

「うん。しがない会社員なので……」

「リアルのレオさんのスーツ姿見たいっす~」

「なんも面白くないと思うぞ」


 話している間に、時間が近づいてきて皆が玄関の前に整列する。約束の時間ぴったりに帰ってくるとは思っていなかったが、ほぼ時間通りに玄関のドアノブが動く。

「ただいまー……って? え?」

「司令官、お待ちしておりました」

 俺の敬礼に合わせて、後ろで整列していた皆も敬礼をしている。

「えっ、えっ。何?」

 シオンが振り返ってセーレを見る。セーレもシオンがギルドハウスに入ったすぐ後に着替えていたので軍服姿だ。

「どうぞ、こちらをお召しになってください」

 セーレがシオンに軍服を渡している。

「は、はわわっ」

 シオンは、まだ訳が分からない様子でいたものの、マリンたちと同じデザインの軍服には着替える。

「え、えーっと?」

 シオンが皆を困惑した表情で見ている。

「お誕生日おめでとうございます」

「おめでとうございます」

 俺の言葉の後に、皆が唱和してクラッカーが飛ぶ。

「あ、ああー! 誕生日……! あ、ありがと~」

「それでは、皆様席に」

 クッキーの案内でシオンが上座に座って、皆が他の椅子に座ると、ショートケーキと紅茶が並べられていく。

「も、もー! びっくりした!」

「サプライズっす~」

「びっくりしたけど……。モカちゃんとマリンちゃん男装すごくいいね! バルテルさんも貫禄あっていいし、クッキーさんも可愛いし、レオさんも似合ってるし、セーレさん相変わらず……うっ」

 セーレを見て、シオンが胸を抑える。

「司令、いかがされましたか?」

 セーレが追い打ちをかけるように、首を傾げてシオンに微笑みかける。

 絶対に、わざとやっている。

「ううぅ……。み、皆さんありがとうございます。30かーって思うと憂鬱だったけど……」

「ようこそこちら側へ」


「いやー! やっぱりいやー!」


 俺の言葉にシオンが両手で耳を塞ぐ。俺もまだ複雑な気持ちではあるけれど、仲間がいると嬉しい。

 一風変わったシオンの誕生日祝いは、賑やかに過ぎていった。


 それにしても、この世界は果たして歳を取るのだろうか?

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