第22話:襲われた村
俺の提案で、馬車は交互に使うことになった。
「今日のところは譲るっす」
そのモカの発言で、セーレが購入したチャリオットと呼ばれる馬車で駆けていく。馬車は馬のように呼び出せるようで、手動とオートがあって、目的地をマップで指定すればオートで街道を走っていけるらしく今はオートモードだ。
「結構射程ありますね。弓職なら補正あるのでしょうか」
馬車の前方でセーレが街道沿いのモンスターをバリスタで倒している。
「セーレ、それ俺も使ってみたい」
「ちょっと待ってください。クラスチェンジして試したいので」
「弓職も鍛えてるの?」
このゲームでは職業は何にでもなれる。下級職をマスターして上級職を取得していくシステムだが、いかんせんレベルを上げるのにも時間がかかるし、装備を揃えるのにも金がかかるので、だいたいのプレイヤーはメインともう一つくらいしか育てない。
「サブは全部91ですよ」
「なんて?」
「おお、やはり補正ありますね」
「きゃっ!?」
シオンの身体が光る。レベルアップの光だ。
「攻撃力も上がるので移動中はホークでいくのはありですね。はい、どうぞ」
珍しく楽しそうに笑顔を浮かべているセーレから場所を譲ってもらってバリスタを使用する。
「おっ、当たった」
照準はなんとなくでも、距離が足りれば勝手に対象に向かっていくらしい。しかし、連発はできないため、走行中なら同じ対象に複数回当てるのは難しく、二発目が当たればラッキーくらいだ。
「へーっ、シューティングみたいだな」
敵との距離があるためか攻撃の緊張感も薄く、倒した生々しさも直に感じないため、ゲーム感覚の方が勝る。
「わ、私もちょっと触ってみてもいい?」
遠慮がちにシオンが声をかけてくるので、場所を譲る。モカをちらりと見るが、モカは興味なさそうに欠伸をしている。
「ありがとうございます。お、おー……あれ?」
シオンが顔を上げてバリスタから離れる。
「どうかしましたか?」
「あれは煙? 狼煙?」
シオンが指した方向を見ると微かに黒い煙が上がっている。
「マップでは村がありますね」
「通り道だけど……。何が起こるかわからないし、まずは遠目に様子見しようか。馬車の速度落とせる?」
「うーん、走行中にそういった操作はできないみたいで……。それなら、馬の方が融通ききますし、馬車下りて馬にしたほうがいいですね」
というわけで、各々馬に乗って街道を進んでいく。
「先行して見てきますね」
「あっ、セーレあまり一人で……」
しかし、もう声は届かない。
「はぁ……」
「まぁ、セーレさんなら大丈夫じゃないっすか」
「それはそうだけど……」
オークと戦った時のように怪我はさせたくない。
「俺もちょっと先行ってくるわ」
馬の速度を速めて、村の方へ向かえばセーレが馬に乗ったまま大剣を振り回して、魔獣の群れと戦っている。いや、戦っているというよりは一方的に蹂躙していると言った方が正しいが。
「セーレ! 敵いたなら戻ってこい」
「戻ろうかとは思ったのですが……」
セーレが、あちらを見ろという風に指をさすので、木陰に視線をやるとそこには小柄なヒューマンの少年がいる。服装から見るにプレイヤーだろう。怪我をして蹲っている。
「む。そういうことなら……」
近くにいた敵はあらかた片付け終わっているようなので、馬から降りて少年のところに行く。
「大丈夫ですか? もうすぐヒーラー来ます」
「あ、ありがとうございます」
「一人?」
「いえ……。あの……仲間が二人まだ村にいるので助けてくれませんか? 先に行けって言われて……それから、待ってるけど……来なくて……」
村の方を見ると、家屋がいくつか燃えて煙が出ている。
「敵はこの辺にいたものと同じものですか?」
敵を処理し終わったセーレが傍らに来る。
「いえ、もっと強いです……。ここにいたのは敵が召喚したやつで……」
「あなたと、お仲間の方はレベルいくつですか?」
「皆91です」
91と言えば上位層だ。その三人で分が悪いというのなら、相当厄介に思える。
「もう一つお聞きしたいのですが、襲われてからどれくらい時間経ってます?」
「えっと、わかんないけど……結構待ってるから一時間か、もっとか……。別の方から逃げたのかな……」
「おーい、レオさん、セーレさん。なんかあったっすか?」
モカとシオンが馬で駆け寄ってくる。
「怪我人、ヒールお願い」
「う、うっす!」
馬から降りたモカが少年にヒールをかける。
「大丈夫っすか? もう痛くないっすか?」
「はい。ありがとうございます」
「えーっと、まだ村の方にこの人の仲間がいるらしくって」
「とりあえず偵察に行ってきま……」
「セーレ! ステイ」
「オレ犬じゃないですよ」
「狂犬じゃなかったら猪だな。俺も行く。偵察したらすぐ戻ってくるからモカたちはここで待ってて」
街道の横の木の影を進みながら村に向かう。
「いいか。偵察したらすぐ戻るぞ」
「そんなに念押ししなくても大丈夫です。オレも危機感くらいは持ち合わせていますよ」
「じゃあ、なんで一人で行こうとしたの」
「……うーん、お仲間の人死んでるんじゃないかと思って」
「まぁ、一時間って言ったら可能性は高いが……」
「で、死んだらニ十分か、三十分で最寄りのセーフゾーンに移動はするらしいじゃないですか」
「死んで他のエリアにいっちゃったかもってこと?」
「いえ、村が近ければ村で復活しますよね。まぁ、ここがそのままセーフゾーン扱いであればの話ですけど」
「……つまり、ここで死んだら敵で溢れた村で復活して、また蛸殴りにあって……っていう可能性があるのか」
「ええ。ですから、あまり気分のいいものは見れないと思いますし、オレたちもそうなる可能性ありますよね」
「……そうだな」
「というわけで、攻略が難しそうであれば、言い方は悪いですが一旦見捨てて応援を呼びに行った方がいいと思います。……なんて、モカさんの前で言うとまた拗れそうですけど」
「そうだな。わかっているなら言う前に思いとどまってくれると、お兄さん嬉しいな」
話している間に、村の中が見える位置にくる。
「うーん、ちょっと……見えないな」
小声で話しながら村の中を覗き込むと、家の周りを先ほどの魔獣と、さらに少し大きめの魔獣がうろついているのが見える。どちらも毛の長い黒ヒョウのようなシルエットだが、顔面は醜悪に歪んでいる。
「よっと」
セーレが大きな木の幹を掴んで、ひょいと木に登っていき、しばらく村の様子を眺めたあとで降りてくる。
「どうだった?」
「はい。敵は魔獣がほとんどで、一体だけ悪魔型のモンスターがいました。魔獣の数は確認できる範囲で三十程度。悪魔型のモンスターが魔獣を召喚しているようなので、倒したところで増える可能性はあります」
「それは厄介だな……。さっきの子の仲間はいた?」
「ええ。先ほどの方の仲間らしき方のうちの一人は死んでいるのが確認できました。もう一人は見える範囲にはいませんでしたね。それから、NPCの人間や家畜がゴロゴロと倒れていたり食べられていたりで……、凄惨な有様といったところでしょうか」
セーレは涼しそうな顔をしているが、本心は伺い知れない。
「……報告ありがとう。で、どうするかな。正直あまり見たい光景じゃないし、モカたちにはもっとアレだけど……。とりあえず、勝算はあると思う?」
「レベル91のプレイヤーが太刀打ちできないとなると、悪魔型のモンスターは先日のオークと同等かそれ以上の強さと見積もった方がいいでしょう。それに雑魚を召喚してくるとなると、こちらの人数が少ないので分が悪いですね。オレやレオさんにタゲが行くぶんには構いませんけど」
「そこはもうちょっと構って。しかし、応援を呼びに行くとすると……」
マップを見ても近いのは直前にいた小さな街で、プレイヤーはあまりいなかったので応援は期待できそうにない。他の街だと行って帰ってをしていたら早くても二日はかかりそうだ。
その間に村で倒れているプレイヤーは死に続けることになる。
「雑魚処理して二人をリザして連れ帰って逃げる……か?」
「一人はレイドの近くで倒れていたので、近づいたら恐らくレイドが襲ってくるでしょう」
「となると、追いかけられ続ける可能性がある……か」
「先ほどの方と、中の二人が戦力になればよいのですが、あまり当てにするものではありませんね」
「うーん、どうするか……。そうだ」
モカたちのいるところに戻ると、少年が駆け寄ってくる。
「あ、あの。二人は……」
「言い辛いんですけど……、死んでるみたい」
「そ……そうです……か」
「でも、生き返らせることはできるから、そこはリザでなんとかしよう」
「はい……」
「中、どうだったっすか?」
セーレが見た光景を包み隠さずに伝えると、シオンは眉をハの字にさせて、モカと少年は青ざめる。
「敵の数は多いし下手したら増えるから、この人数で相手にするのはきつい。かと言って応援を呼びに行っていたら二日はかかると思う……のと、村で死んだ際に時間経過で復活しても、おそらくあそこの村で復活するから、中の二人の精神的によくないだろうな」
「じゃ、じゃあ戦うっすか?」
「それなんだが……。とりあえず、俺とセーレが突撃して進行方向にいる敵を倒すだろ。それで、お連れさんがいたらリザして、レイドをひっかけたら俺がタゲとって逃げる」
「そっか、ある程度逃げたら元の位置戻るっすもんね」
「いや……先日、レイドが長距離を追いかけてきていたから、元の位置に戻るかどうかはわからない」
「じゃー、どうするんすか……?」
「チャリオットで引き狩りする」
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