にゅうめん乱用防止キャンペーン(4)
《どうしようかな》
にゅうめんマンは考えた。このキャンペーンを容認するわけにはいかないが、力づくで敷地内に押し入って、また騒ぎになっても厄介だ。
「――気が変わったよ。せっかく来たから俺もそのライブを聴いて行きたい」
にゅうめんマンは警備員兼案内係に言った。
「急に気が変わるんだな。まあいい。それじゃあ、ここで当日券を売ってるから1枚買ってくれ」
「いくら?」
「2000円」
「高いな。啓発キャンペーンでやってるんだから、ただで入れてくれたらいいのに」
「イベントをやるのも金がかかるんだ。買うの?買わないの?」
「買うよ。買えばいいんでしょ」
にゅうめんマンはジャケットのポケットから財布を取り出し、しぶしぶ2000円を差し出した。
「まいど。楽しんでいけよ。もう始まってるけどな!」
* * *
「にゅうめん乱用防止キャンペーン・ライブ」は、講堂という名前のついた、本館の次に大きな建物で行われていた。実に立派な施設で、宗教法人六地蔵の豊富な資金力を物語っていた。
ガラス扉から中へ入り、赤い絨毯(じゅうたん)の敷かれた屋内をちょっと歩いて大ホールの前まで来ると、数人の係員が立っていたので、にゅうめんマンは大金をはたいて購入したチケットをこれ見よがしに呈示した。それで入場を許されたので、ホール入口まで進んで、にぎやかな音楽のもれ聞こえる防音扉を開いた。
その瞬間、強烈な熱気がにゅうめんマンを包んだ。そこでは、普通の服を着た一般人と袈裟(けさ)を着た宗教法人六地蔵の信者たちが入り混じり、膨大な数の男女が声を上げたり手を振ったりしてエキサイトしていた。朝っぱらから何という元気な連中だろうか。
この施設は講堂という名称になっているが、実際には現代的な音楽ホールであり、数千の座席が棚田状に配置されていた。多分クラシック音楽などの演奏に適した構造になっているのだろう。
盛り上がりまくっている観客たちの向こう、奥のステージの上では、シフォン生地の黒いブラウス、同色の膝丈スカート、グレーのタイツを履いたホーネットがマイクを握って、明るくキャッチーな歌を歌っていた。
♪ああ、私の心はとりこ
あなたのすることは
何でも許してしまいそう
だけど1つだけ約束して
にゅうめんだけは ダメ。ゼッタイ♡
予想してはいたものの、実際に曲を聞いたにゅうめんマンは、そのひどさにショックを受けた。だが、曲の内容以上にショックだったのは眼の前に広がるこの光景だ。――にゅうめんをバカにするような歌をアイドル(?)が公然と歌い、大勢の人々がそれをとがめるどころか、一緒になって楽しんでいる。日本はいつの間にこんな最低の国になってしまったのだろう。
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