にゅうめん乱用防止キャンペーン(3)

「あいつら。三輪さんをたぶらかしただけでは飽き足らず、国民からにゅうめんまで取り上げようというのか!!」


にゅうめんマンは激怒した。必ず、あの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の六地蔵を除かねばならぬと決意した。にゅうめんマンには政治は分からないが、邪悪に対しては人一倍に敏感であった。


「落ち着け。にゅうめんマン。」

 電話の向こうのシャカムニが言った。

「これが落ち着いていられますか。僕はこれから六地蔵を全滅させるつもりです」

「あまり物騒なことを言うものではない。もしかすると信者たちは洗脳されているだけなのかもしれないし、そのように怒りにとらわれてはならない」

「でも……」

「仏の道において、人の心に最悪の影響を及ぼすものが3つある。何か分かるか」

「……寝不足と、二日酔いと…………信号待ちかな?」

「全然違う。3つのものとは、平たく言うと、貪欲(どんよく)と怒りと無知だ。つまり、心安らかに暮らすためには、むやみに怒ってはならないのだ」

「なるほど――」

にゅうめんマンは一旦話すのをやめ、シャカムニの言ったことをじっくり考えた。


「――分かりました。本音を言えば六地蔵のしていることは腹立たしいですが、全滅させるのはやめて、管長に抗議しに行きます。ひょっとしたら、その過程でまた取っ組み合いになるかもしれませんが」

「そのくらいならいいだろう。これまでも市民の平和を守るために六地蔵の坊主たちと戦ってきたのだから。気を付けていくのだぞ」

「はい」


   *   *   *


次の日の朝、寒さをしのぐために、シャカムニ特製の「にゅうメン・ジャケット」をいつもの服の上に羽織(はお)ったにゅうめんマンは、「にゅうめん禁止法」に抗議するため、数ヶ月ぶりに六地蔵の本拠地を訪ねた。


現地へやって来ると、前に来たときとは何となく様子が違う気がした。思い過ごしかとも思ったが、正門の所まで行くと、それが間違いではなかったことが分かった。屋根付きの大きな門の脇に「にゅうめん乱用防止キャンペーン・ライブ」と書かれた、カラフルなポスターが何枚も貼ってあったからだ。ポスターの中では、この間会った宗教法人六地蔵の仮面副管長が、おしゃれな服を着てポーズをとっていた。


このような悪徳キャンペーンは放っておけない。そのことを問い詰めようと思ってにゅうめんマンは、門に併設してある詰め所の警備員兼案内係に言った。


「やい。『にゅうめん乱用防止キャンペーン』とはどういうことだ」

「お前は、この前うちで大暴れした覆面の男じゃないか!今日は何の用だ」

 警備員は言い返した。

「別に暴れに来たわけじゃない。ただ、このけしからんキャンペーンは何なのかときいているんだ」

「見れば分かるだろう。法律で禁止されている、にゅうめんの乱用を防止するためのキャンペーンだ」

「今日ここで、その悪徳キャンペーンをやっているのか」

「悪徳とは何だ。今日は、うちのホーネット副管長が『にゅうめん乱用防止キャンペーン・ライブ』をやってるんだ。用がないなら帰れ」

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