にゅうめん乱用防止キャンペーン(2)
季節が秋から冬に変わっても、にゅうめんマンは相変わらずいじけた生活を送っていた。ある日の夕方、家でうじうじしていると部屋の隅の黒電話が鳴ったので、にゅうめんマンは受話器を取った。
「もしもし」
「私だ」
電話をかけてきたのは、もちろんシャカムニだ。
「これはシャカムニ様。こんばんは」
「うむ。――にゅうめんマンよ、正義の味方としての活動がはかどっていないようだが、まだいじけているのか」
「はい……」
「辛いのは分かるが、もう少しシャキっとしたらどうか」
「いいんです。僕の幸せな時代はもう終わりました。これからは、にゅうめんとシャカムニ様だけを友として、静かに暮らしていくつもりです」
「私は友達だったのか……それはともかく、宗教法人六地蔵が良からぬことをしているようだな」
「良からぬこと?何の話ですか」
「『にゅうめん禁止法』の話だ」
「にゅうめん禁止法!?」
「知らないのか。君は思った以上に世の中の事にうといようだ」
にゅうめんマンがいじけている間に世間では大変なことが起こっていたのだ。シャカムニは、にゅうめんマンのためにそのことを説明した。
まず、宗教法人六地蔵が、シャカムニ特製にゅうめんの成分を分析することによって、必ず髪が生える育毛剤を量産することに成功した。実はシャカムニ本人の力がなくても、やり方さえ分かれば「特製にゅうめん」を作ることができ、それを材料に育毛剤も製造できるのだ。そして六地蔵は日本に住むすべての希望者に無料でそれを配り始めた。
ここで厄介(やっかい)なのは、この育毛剤の性質だ。以前シャカムニがにゅうめんマンに話したとおり、無理やり髪を生やすことはできなくはないが、これを行った者は精神の正常な働きを失い、欲望にとりつかれたようになってしまう。六地蔵の管長が日本を支配するなどと言い出したのも、そのせいだった。元々髪を生やす以上の望みは持っていなかったのだが、欲望が暴走した結果、そのようなことを考え始めたのだ。
育毛剤を使った国民たちの心も、同じようにおかしくなった。髪の毛に対する抗しがたい欲望に取りつかれた人々は、もはや、頭がフサフサではない生活を考えることができなくなった。髪を維持するためには、六地蔵から配られるにゅうめんを定期的に食べ続ける必要がある。つまり、完全に六地蔵に弱みを握られたのであり、この国民たちはもはや言いなりだった。
育毛剤を希望する国民は実に全体の半数に及んだ。六地蔵はこれらの国民を支配した上で国政に進出し、やすやすと日本をのっとった。
――だが、にゅうめんマン的には、ここまではまあ許容範囲だと言えなくもなかった。真の問題はその後で六地蔵が実施した政策だ。にゅうめんから育毛剤を作れることに誰かが気づいて、育毛剤の独占状態が崩れることを恐れた六地蔵は、適当な理由をつけて、にゅうめんの所持、譲渡、譲受、製造および輸出入を法律で禁止したのだ。違反者は無期懲役(むきちょうえき)の刑に処せられることになった。
「なんて奴らだ――」
いくらいじけていてもヒーローはヒーローだ。このような不当な法律には、にゅうめんマンの正義の心が黙っていなかった。
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