にゅうめんマン vs 理科系の男(3)

「愚かな男だ。大人しくにゅうめんをこちらへ渡せば、金も手に入るし、痛い目に合うこともないのに」

 羽沙林は言った。

「痛い目だと」

「どうしても嫌だというなら力ずくで差し出させる他に手はない」

「こう言っちゃ悪いが、お前のようなひょろひょろの理科系坊主がそんなことを言っても全然説得力がないぞ」

 しばらく前まで海辺の研究所に通う学生だった、細身の理科系ヒーローにゅうめんマンは言った。

「ところが私は腕力で君を組み伏せることができる。――先ほど話したように、私たちはまだ研究を完成させられてはいないが、君から拝借したにゅうめんの有効成分を抽出・増幅する研究を行う過程で、とんでもない副産物ができあがったんだ。あのにゅうめんに秘められた力には本当に驚いたよ」

「副産物?」

「ああ。私に限りないパワーを与える副産物だ」


そう言うなり、羽沙林は白衣のポケットから錠剤のようなものを取り出してポイッと口に放り込んだ。するとたちまち坊主の体に変化が現れた。

「むむむ…ぬぬ…ぬおおぉ……ぬおおおおおお!……ぐうぅぅおおおおぉぉぁぁぁああああ!!!!」

 ひょろひょろだった理科系坊主の全身で、みるみるうちに人間離れした隆々たる筋肉が盛り上がった。ついで背丈も伸びて、坊主は、アーノルド・シュワルツェネッガーとドウェイン・ジョンソンを足して2でかけたような、とんでもない筋肉魔神へと変身した。身長は190cmくらい、体重は200キロくらいありそうだ。衣服は、大きめで伸縮性のあるものを着て来たらしく破れたりはしなかった。変身が済むと坊主は戦いに備えて眼鏡を外した。


その劇的な光景にはにゅうめんマンも度肝を抜かれた。中背の細身であるにゅうめんマンと、この筋肉魔神の体格差は圧倒的だ。

「どうだ。今からでも大人しくにゅうめんを渡せば手荒なまねはしないぞ」

 筋肉は言った。

「断る。俺だって正義の味方だ。それで言いなりになるようじゃシャカムニに合わせる顔がない」

「強情なやつだ。ならば気の済むまで痛めつけて、にゅうめんのある所へ案内させてやる!」


マッスル坊主はにゅうめんマンに飛びかかるようにして猛烈なパンチを放った。すでに身構えていたにゅうめんマンはパッと飛びすさってこれをかわし、反撃のパンチを相手の腹に打ち込んだ。

「そんなパンチでは虫も殺せんぞ」

 羽沙林はまったくこたえていなかった。続いて、にゅうめんマンは相手の腹に連続パンチをお見舞いした。

「だああぁぁーっ!!」

 にゅうめんマンの打撃は速くて重い。力士だってこれを受けて立ってはいられないだろう。だが、羽沙林は相変わらずけろりとしていた。恐ろしく丈夫な腹筋だ。


「超人的な強さだと聞いていたが、大したことはないじゃないか。次はこちらからいくぞ。そりゃっ!」

 羽沙林はにゅうめんマンを見下ろすように距離を詰めつつ、続けざまにパンチを放った。にゅうめんマンはそれをかわしたり手で受け止めたりしてやり過ごしたが、すねに不意打ちのローキックを受けてすっ転んだ。羽沙林はそこに素早く蹴りを放った。にゅうめんマンは即座に身をひねって起き上がり、際どいところでこれをかわしたが、羽沙林は敵にいとまを与えず、怪物じみた剛腕から再びパンチを繰り出した。にゅうめんマンはよけ切れずに腕をかざして受け止めたものの、殴られた腕が痛んだ。

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