にゅうめんマン vs 理科系の男(2)
「布教だ!布教だ!」
「わっしょい!わっしょい!」
「布教だ!布教だ!」
「わっしょい!わっしょい!」
宗教法人六地蔵の坊主たちは、相変わらず集団で街に繰り出しては、名状しがたいダンスを踊りまくって善良な市民の暮らしをおびやかしていた。にゅうめんマンもそのような情報が入り次第現場に駆けつけてそれを撃退していた。
「こら、お前ら!また踊ってるな!市民に迷惑をかけるなと何度言ったら分かるんだ!」
坊主たちはにゅうめんマンにかなわないことが分かっているので、そんなふうに注意を受けると
「にゅうめんマンが来たぞ!退散!!」
とか言って逃げ出すのが常だった。だが、そのようなやり取りを何度か繰り返すうちに、いつもと違うことが起こった。
まだまだ暑さの残る秋口のある日のこと。街の商店街で布教ダンスを踊っていた坊主たちに向かって
「こら、お前ら!また踊ってるな!あんまりしつこいと1人ずつ鍋にぶちこんで、みそラーメンのだしにするぞ!」
と、にゅうめんマンが注意したところ、ほとんどの坊主は一目散に逃げ出したのだが、ひょろひょろの体に白衣を身につけた坊主が1人だけ後に残ったのである。白衣に眼鏡といういでたちではあるが、頭をつるつるにそっており、坊主であるには違いなかった。どういうわけかとにゅうめんマンが怪しんでいると
「私は宗教法人六地蔵の羽沙林という者だ。君がにゅうめんマンか」
と、その坊主が言った。(「羽沙林」は本名ではなく坊主としての名前(戒名))
「そうだけど」
にゅうめんマンはいぶかしげに答えた。
「ならば単刀直入に要件を言おう。君が持っているにゅうめんの材料、つまり、めんと汁をなるべくたくさん私たちにゆずってもらいたい」
「なぜ」
「理由は何だっていいじゃないか。もちろん対価は支払う」
「理由も分からないまま、そんな怪しげな話に応じるわけにはいかないな」
「では、訳を話せばゆずってもらえるかな?」
「それは聞いてみないことにはなんとも言えない」
「よろしい。では、話せる範囲で率直に事情を説明しよう。――この間茶髪の女と山に登っただろう。あれは実はうちの工作員だ。そのときに、六地蔵での研究に使うために、君が弁当として持参したにゅうめんを拝借したよ」
「なんだって」
ここで初めて、にゅうめんマンは自分が平群さんの罠にはめられたことを知った。
「俺をだましてにゅうめんを盗んだのか」
「すまなかった。組織を代表して謝罪する」
「なぜにゅうめんを盗んだ?」
「そのにゅうめんが、『シャカムニの使者』を名乗る君の超人力の源になっていると聞いたからだ。私たちはシャカムニの力に深い興味を持っている。シャカムニと関係があるかもしれないそのにゅうめんに込められた力を、研究のために使いたかった」
「なるほど」
つまり、平群さんににゅうめんの秘密を話したことで目をつけられたようだ。うかつだった。平群さんは始めから、にゅうめんマンのことを探るために三輪さん宅でのにゅうめんパーティに潜入したのだろう。
《でも、平群さんはなんで、三輪さんのアパートで俺たちがにゅうめんを食べることを知っていたんだろう。偶然だろうか》
にゅうめんマンは疑問に思ったが、すぐにその答えに思い至った。根子丹を相手に死闘を演じたとき、にゅうめんマンと三輪さんは坊主たちの目の前でその話をしたのだった。平群さんはその情報を基に三輪さんに近づいたのだろう。後から考えたらいろいろ間が抜けているが、こんなふうに一杯食わされたのは実に悔しい。
「ともかく、俺のにゅうめんを一体何の研究に使うんだ?」
にゅうめんマンは白衣の坊主、羽沙林にたずねた。
「それは研究が完成するまで誰にも話すなと上から言われている。だが、決して悪いことに使うわけじゃない。それどころか、人類全体の利益になる偉大な研究に使うんだ」
「ほぉぉん……」
むっちゃ怪しい。
「人類の利益になるなら、なぜ盗んだりせず、最初からゆずってくれと普通に頼まなかった?」
「その工作員が、『六地蔵での研究に使うからゆずってくれ』と普通に頼んでもダメだろうと判断したんだ」
その判断は妥当だ。多分、そうやって頼まれてもにゅうめんマンはゆずらなかっただろう。
「それは分かった。でも、そちらにはすでに俺から盗んだにゅうめんがあるじゃないか。なんで新たに手に入れる必要があるんだ」
「実は、研究は完成の一歩手前まで進んだんだが、どうしても素材が足らないんだ。君がにゅうめんをゆずってくれれば、我々の目的も達成されるし、人類も幸せになる」
「なるほどね」
「どうだ。ゆずってもらえるか」
羽沙林はにこやかに頼んだ。
「断る。宗教法人六地蔵は信用できない」
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