にゅうめんマンの過去(14)

ゆでためんと、いくつか見つくろった具を器に入れ、台所の蛇口から出る汁を注げば、それでにゅうめんはできあがった。なんて便利なんだろう。鶴彦は居間の真ん中のちゃぶ台ににゅうめんを置き、畳に座っておごそかに手を合わせた。

「いただきます」

 にゅうめんに飢えていた鶴彦は喜び勇んで食べ始めた。

《うまい……!》

 少し食べただけではっきり分かった。たとえようもないうまさだ。単にこのとき、にゅうめんに飢えていたからではない。このにゅうめん自体の品質がずば抜けているのだ。さすがはシャカムニが用意したにゅうめん。これこそ悟りを開いた聖者、釈迦牟尼仏にふさわしい味だ。――インド人であるはずのシャカムニがなぜにゅうめんにこだわるのかは知らないが、この瞬間、鶴彦は仏道に(というかにゅうめんを極めたシャカムニ個人に)帰依(きえ)した。


もちろん、このにゅうめんは、ただおいしいだけの代物ではない。食べ始めて少したつと鶴彦の身に異変が起こった。体の奥から途方もない大きさのニューメニティが湧き上がって来たのだ。鶴彦は突如として身内に満ちあふれるニューメニティの巨大さに圧倒され呆然となった。同時に、それまで感じたことのない不思議な力がじわじわと体を満たすのを感じた。これがシャカムニの言っていた超人的な力なのだろうか。(ニューメニティについては「にゅうめんマンの過去 (2)」をチェック!)


そうした異変に戸惑いながらも、鶴彦はめんが伸びないうちににゅうめんを食べ終えた。あまりにうまかったので、塩分のとりすぎが気になったが汁まで全部飲んでしまった。

「ごちそうさまでした」

 空になった器に向かって鶴彦は再び手を合わせた。


こうして鶴彦はこの家でシャカムニ特製のにゅうめんを食べ続ける生活を送り、その作用によって、全盛期のジャイアント馬場とマイク・タイソンと朝青龍関と松坂大輔とザンギエフとブリトニー・スピアーズが束になってもかなわないほどの圧倒的なパワーを手に入れ、「正義の味方にゅうめんマン」として市民の平和を守ることになった。その後のめざましい活躍は読者の皆さんもご存知のとおりである。


では、過去の話はこのくらいにして、にゅうめんマンが平群さんからピクニックに誘われたところまで時間を戻そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る