第41話 双子のこれから
「やっぱり、お前たちは人喰い鬼のもとにいたのか!」
「それは否定しない。な、宵」
「ああ。……だけど、もう違う」
「違う? 確かにきみたちは人喰い鬼に殺されかけたようだけど、何があったんだ?」
温羅の問いに対し、晨が「それは……」と口ごもる。
「……それに答えるには、さっきの話の続きを話さなきゃいけない」
「いいぜ、話せよ。幾らでも聞いてやる」
須佐男を始め、阿曽たち全員が頷いた。晨と宵は顔を見合わせ、同時に深く息を吸い込み、吐いた。
「おれたちは、たぶん取り込まれかけた」
「おれたちが初めて地下へ行ったあの時、奴は作り出した
「まだ堕鬼人化して間もなく、力が弱かったから時間はかからなかった。すると消えた堕鬼人の残骸が、奴のもとへと集まっていったんだ」
堕鬼人の欠片は全て人喰い鬼に取り込まれ、彼の力が増強された。彼が放つ黒い波動が、二割ほど増幅したように感じられる。
思わずぶるりと身を震わせた双子に、男は不敵に微笑んだ。
「わかるか? 私は、己で創り出した堕鬼人が人を殺した分だけ、その堕鬼人が殺された時に強くなれるんだよ。だからお前たちには堕鬼人討伐を命じ、桃太郎には邪魔にしかならない始祖系の鬼の殺害を命じた」
堕鬼人がどれほどの人を殺したかも、人喰い鬼の強化率に関連する。より多くの人を殺している堕鬼人の方が、より男の力を強くするのだ。
「……おれたちを雇い入れたのは、自分を更に強くするためだったっていうのか!」
「その通り」
宵が
「時は来た。もう少し時間をかけたかった気もするが……止むおえまい」
男の前に、黒い渦が出現した。その渦は、ゆっくりと動き、ただそこにある。
「何をするつもりだ」
晨の問いに、男は微笑む。
「これを、お前たちの故郷の村に置こうかと思ってな」
「どういう、意味だ?」
「この渦は、私の力の一部だ。渦に取り込まれたら最期、私の力の源になるのだよ」
素晴らしいだろう? 男の回答は、至極簡単なものだった。だからこそ、その意味が重くのしかかる。
冷汗が双子の背を伝った。剣を手にしたまま、晨が震える唇を開く。
「おれたちがお前の目的を知った上で、この関係を破棄すれば……?」
「無論、この渦が村を消し去る。……あそこには、お前たちの守りたいものがいるのだろう?」
「「!?」」
双子の頭に同時に浮かんだのは、生まれて間もなくからきょうだいのように育ってきた一人の少女の姿。彼女がこの男に利用されるなど、許すことが出来るはずもなかった。
「……それからも、おれと宵はあの男の手駒として鬼を狩り続けた。剣は血を吸い上げる毎に硬さを増し、強さを増した」
「自分の強さを示すのは、嫌いじゃない。だが、本当にこれでいいのかと迷う日がなかったわけじゃないんだ」
言い訳に聞こえるだろうがな。宵は苦笑いを浮かべた。
「殺されかけたのは、あの男の力が十分に強くなっているからだろう。おれたち二人を殺して取り込むことで、更なる増強を図ったんだ。……未だ、奴の目的はわからない。ただ強さを追い求めるだけならば、自身で鍛錬を積めばいいのだからな」
双子の言葉が途切れる。室内は、しん、と音を失った。
誰もが彼らの境遇に驚き、人喰い鬼の目的がわからずに混乱していた。
「……改めて礼を言わせてほしい」
「え?」
双子は
「……命を助けてもらったんだ」
「おれたちは、数えきれない命を奪って来たのに」
「だから、本当ならこんな礼では足りない」
「でも、今出来るのはこれだけだ。……本当に、感謝している」
床につきそうなほど頭を低くした双子は、同時に立ち上がった。
そのまま出て行こうとする二人に、阿曽が思わず声をかける。
「何処に、行くんですか?」
「……何処だろうな」
「鬼を無差別に殺してきたおれたちが、父上に認めてもらえるはずもない。何処かでひっそりと暮らしていくだけだろうな」
酷く寂しげで無気力な言葉を聞き、阿曽は双子の服の裾を掴んだ。
「なら、来ればいい」
「「は……?」」
何を言い出すんだと双子に胡乱げな目で見られたが、阿曽の心は決まっていた。今度こそはっきりと、二人の目を見て言い放つ。
「俺たちと、一緒に来ればいいんです。共に、人喰い鬼を倒しましょう」
「―――はっ!?」
「何言って……」
「あ、それいい考えだね」
思いもかけない阿曽の提案に、晨と宵が目を見張る。反論を試みる二人の言葉に被せ、温羅がにこやかに阿曽に賛同した。
「須佐男、大蛇はどう思う?」
「オレも反対はしない。正直、いつ裏切るかって不安がないわけじゃねぇが。それ以上に人喰い鬼と対峙するにあたっての戦力は多い方が都合がいいからな」
「ぼくもかな。少しでも人喰い鬼を知る人物が加わってくれるのなら、心強いしね」
「「いや、誰か一人でも難色を示せよ!」」
とんとん拍子で進みかける阿曽たちとの共闘に、双子の盛大な突っ込みが入った。
「何でですか?」
「いや、何でってお前……」
きょとんとした阿曽に、晨が渋面を向ける。
「何度か殺し合いをした俺たちと、どうして共に戦おうなんて言えるんだ」
「どうしてって。俺は、あなたたちと約束しましたから」
「約束?」
首を同じ角度に傾げる晨と宵に、阿曽が頷く。
「俺、言いましたよね? 『堕鬼人を救う方法を見付けてみせる』って」
「「あ―――」」
「それは、天恵の酒を見付けないと叶わない。そして見付けるその時に、二人がいなければ誓いを果すことなんて出来ないんだ!」
阿曽の言葉に、双子はハッと顔を見合わせた。
彼らの様子を見ていた
「これで、断る理由はなくなりましたね」
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