第161話 どういうことだ?

「どういうことだ?」

「あの救急隊員も十七夜教の息のかかった奴らということだ!」

「一体どこに消えたんだ?」

「そんなの分かる訳ないだろ」

「警察に電話だ!」

 仕方キャンパスにある大学病院の待合室で声を荒げて問答を始めた俺たちは、すぐさま病院の警備員に病院から追い出されてしまった。

 そして、唯一、病院に顔の利く沢口さんが事務の人から聞いてきた話で大体の真相がわかっきた。

「あの救急車はここから出動したものじゃありません。それに、救急隊員からもそんな通報は受けていないということです」

「じゃあ、やはりあの救急隊員たちや救急車は偽物、十七夜教の者たちと考えていいわけですね」

「でも、あの救急車も救急隊員も偽物やったなんて?」

「ちょっと待て、俺たちは救急車も何も見てないぞ?!」

 沢口さんの言葉に、口々にした言葉の中に山岡さんが言った一言が引っかかった。

 確かに、俺たちは救急車を見ていない。そして、講堂から出ようとしたときには、人だかりに邪魔されて中々外に出られなかった。それに、出てからも人だかりが壁になって碌に状況が分からなかった。

 あの時、真っ黒いシールドが張られた2台のバンがあそこから走り出さなかったか?

 美優や留萌さんはあの車で連れ去られたんだ。だとしたら警察の捜査網にも引っかからない。せっかく岡島駅でお世話になった刑事さんたちにまでお願いして救急車の行方を捜してもらっているというのに……。


 最初から間違っていた……。

 すでに、美優たちが連れ去られてから一時間近く経過している。なんてことだ。不審な救急車を探してくれている警察の人たちにすぐに連絡を入れたが、そうなってしまうと逃走車を見つけることほとんど不可能に近いと返されたのだ。

 こうなると、あのフードの男が言った「野球で勝負、詳細については後で連絡する」の言葉だけが頼りだ。だが、それまで美優たちの無事が保障されているわけじゃない。

「麗さん、あなたはオムニス教授からなんて言われたんだ?」

 麗さんはあの時の状況を必死なって思い出しているようだ。

「オムニス教授が、私以外に袋を渡して、みんなに包装を外し始めた時、「あなたは、もう持っているからいいわよね」って言われて……、包みから出て来たのがハッカイだと分かった。すぐに仕込んだ神水を取り出そうとした。でも、あのハッカイの中に彼女たちの魂が取り込まれていくオーラが見えた。それで動けなくなって……」

「その時何か言われませんでしたか? 俺たちにどうしろとか?」

「それが良く分からないの……。「あの子の意思を尊重するって、この世に未練があるんだって。何度もこの世の終わりを見て来た私としては今更焦ることもないだろ?」って」

「なるほど、あの子と言うのはフードの男のことでしょう。しかし、こちらの持っている色欲のハッカイを寄こせとは言わなかったんですね」

「沢村君、お前はあのフードの男になんて言われたんだ?」

 部長が麗さんの話を聞いて俺に問いかけてくる。

「野球で勝負しようって、詳細については後で連絡するって。それから、これは十七教と岡島神社、強いては僕と麗の勝負なんだけど、僕の体と記憶が君との勝負を欲しているんだって言ってました」

「そうか……。岡島神社と十七夜教の過去の因縁を置いといて、フードの男は君と野球で勝負したいってことか……」

「たぶん岡島神社と十七夜教の争いは、そんなに重要なことじゃない」

「麗、確かにそやね。岡島神社だけやなく、他にもコトリバコはあるし、それを解除する神社もあったに違いないもんね」

「彩さんの言う通りだ。だけど沢登君とあのフードの男と勝負だっていっているってことは沢登君とフードの男には何か因縁があるということじゃないか?」

「うーん。記憶にない」

 麗さんは少し考え、はっきりと鈴木部長に宣言した。ということはここでも手掛かりは無しか? ということはあのフードの男から連絡を来るのを待つしかないわけだ。

 みんなもそう思ったのだろう。

「とりあえず、あのフードの男から連絡を待つしかないか……」

 鈴木部長の言葉に全員が頷いたのだった。

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