第150話 美優が大きく息を吐くと
美優が大きく息を吐くと、力が抜けたように俺にもたれかかってきた。どうやら力を使い果たしようだ。俺はとっさに美優を支えて耳元で囁いた。
「ありがとう。美優のおかげだ」
「さすがだな。俺が雷を操れると考えたのか?」
美優の瞳はいつもの青みががかった黒い瞳に戻っていた。
「閃いちゃった。天罰と言えば雷だものね。でも、今日は寝不足でテンションが上がっちゃたかな? いつもの私じゃないからできたんだよ」
謙遜なのか言い訳するように、俺の腕の中で微笑んでいる。
美優が元に戻ると霧が晴れだした。周りには、フードを被った人が折り重なるように倒れていたのだ。空気中の霧に電気を流し感電したのだ。
いやひとりだけ片膝を付き、倒れそうな体を必死に支えているフードの男がいた。
「まさか、こんなことができるなんて想定外だよ。なんなんだよ。その女の子は?」
「知らなかったのか、俺の女神だ!」
いや、この発言はベネトナッシュが俺の口を使って言ったんだからね。でも、美優は俺の腕にさらに力を入れてしがみ付いてきた。
女神が俺に力を貸してくれるなら、ここからは俺のターンだ!
「お前だけはここで倒す。そして、ハッカイを取り戻す!」
俺は虎杖丸を正眼に構える。
「いやあ、今回は僕の負けだ。だが、僕にはまだこいつがある」
そう云うと、印を素早く組み、懐から人型のお札を出してきた。
「夜叉鬼、召喚!!」
ボロボロの真っ黒な作務衣のようなものを身に纏い、そのはだけた胸からは筋骨隆々の筋肉が見え、その顔は人を喰らうおうとせんばかりの表情。そんな鬼から殺気が膨れ上がる。
夜叉鬼の周りで倒れていた人が、その殺気だけで吹っ飛ばされた。
なにより、その圧力が俺の体の中をとおり過ぎていく。明らかに美優はその殺気に怯えるようにガタガタと震えている。
美優を怖がらせた罪は死んで償ってもらう。何より俺が許せなかったのは……。
「お前、仲間が死んでもいいのか?!」
「信者が信仰のために死ぬ。こんな名誉なことはないんじゃないか?」
とぼけたように答えに俺の怒りは頂点に達した。そして、奴の方に踏み出そうとして、心の中で、ベネトナッシュに止められたのだ。
「冷静になれ、錬。ここで夜叉鬼とやり合ったら、戦いに巻き込まれて死人が出るぞ。それに、羅刹鬼といい夜叉鬼と言い地獄の猛者どもをこうも簡単に召喚するとは……」
「夜叉鬼って強いのか?」
「ああっ、この九星剣明王をやり合えば、周りの地形が確実に変わるな」
周りを見れば、折り重なったフードの人たちが、一面絨毯のように折り重なって倒れているのだ。
「くっ、なんとか場所を変えたいな……」
何とか打開策を考えている間にも、夜叉鬼は怒号を上げ、フードの人たちを踏みつぶしながらこちらに迫ってくる。
「虎爪牙斬!!」
夜叉鬼に斬撃を飛ばしたところで、俺は後悔することになった。なんと持っていた金棒で斬撃を弾き飛ばすと、その斬撃は倒れている人のすぐ近くの地面を抉っていく。
こうなれば、否応なくここから離れざる負えなくしてやる。俺は虎杖丸を橋に突き刺し、電光石火で夜叉鬼の懐に飛び込んだ。
「力比べかい?」
夜叉鬼の近くでうずくまっているフードの男が挑発気味に言葉を吐く。
「そんなわけあるかー!!」
掴みかかって来た夜叉鬼の腕を掴むと、掴みかかって来た勢いを利用して背中を向ける。
「一本背負い!!!」
俺は夜叉鬼を空に向かって投げ飛ばした。が、夜叉鬼の猛禽類のような足にはあのフードの男が掴まれている。
「な、なに!!」
「力ずくで場所を変えに来ると思ったよ。今回は引いてやる。色欲のハッカイ、しばらくはそちらに預ける。丁寧に扱わないとこちらにある七つのハッカイを発動させて、未曽有の厄災が人に襲い掛かると思うことだ」
空を飛んでいく夜叉鬼とフードの男。俺がこのまま逃がすはずがない。元々、投げ飛ばした後、すぐに後を追うつもりだったのだ。
しかし、結果から言うとそれはできなかった。夜叉鬼が口から火の塊をこちらに向かって吐いたのだ。
「こんなことが出来るのか?」
「ああっ、地獄の獄卒の中には火を吐く奴もいる」
「ちっ、雷爆天!!」
俺はすぐさま、虎杖丸を手に取ると、巨大な火の玉に向かって雷を放つ。凄まじい爆発音と烈風、そして閃光。それらが消えた後には、夜叉鬼の姿はどこにもなかったのだ。
「逃げられたか……」
「いや、死人が出なくて大正解だよ」
俺の肩を叩く鈴木部長に、俺たちの戦いで、踏みつぶされたり、飛ばされた人達の手当てを神水でしている彩さん。神水で傷が治っているところを見るとこの人たちは本当に人間なんだ。
「錬、早くハッカイの回収を」
麗さんに言われて、当初の目的を思い出した。
「騒ぎを聞きつけて人が集まってくる前にやっちまおうぜ」
山岡さんも早く早くと促している。確かにあのフードの男が消えた以上、結界が無くなって人が集まってくる可能性はある。
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