第149話 なんかまだ結構人通りがありますね
「なんかまだ結構人通りがありますね」
「全くだな。この辺は僕たちの大学周りと変わらないか」
そして四条通の突き当り、朱塗りの荘厳な門に到達した。この門は門前町を思い起こさせる作りで、祇園祭で有名な山が行き来するところだ。
なるほど、神社と云うには鳥居が無い。
俺たちは締められた門の横のくぐり戸から中に入った。
八坂神社に入った途端に、空気が陰湿なものに変わる。さすが元々は疫神の牛頭天王を祀っていた寺だ。毒を持って毒を制す。それも優秀な薬剤師がいてこそ可能なのに、明治政府は近代日本のためにそんな人たちをこの地から追い出してしまったのか……。
息を殺して本殿の所まで来たが、結局ここまでは何も起こらない。俺は声を潜めて部長に訊ねた。
「鈴木部長。何も起こりませんね」
「そうだな。でも、十七夜教の奴はここで会おうって云ったんだよな」
「確かに、人の気配が居ない境内、この辺り一帯に人払いの結界が張られているのは間違いないです」
「だったら、この奥の丸山公園に行ってみよう。江戸時代までは丸山公園も八坂神社の敷地だったそうだ」
「ですね」
「それより、美優の第三の目でハッカイを見つけた方が早いんちゃう?」
麗さんの発言になるほどと手を打った俺たち。でも、美優の第三の目はいつでも出せるという訳には行かないはず。
「大丈夫です。道すがらずーっと錬のことを考えていました。後は錬がギュッとしてくれたら行けます」
「美優、あんたキャラ変してない?」
「彩さん、キャラ変って?」
うん、オタク談義はこの際置いておこう。俺は彩さんの視線に押されて、躊躇しながら美優の後ろから優しく抱きしめるだけだ。シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐり、どうしょうもなく胸が高鳴る。
「あん……」
なんか色っぽい声が聞こえたが、これはあくまで第三の目のためだ。
美優は体の向きを変え、銀の瞳で正面から俺を上目使いで見上げてくる。
「このヘタレ……。でも今はこれで十分かな……」
甘い声で何を言われるかと身構えたところに……。 ヘタレって、どうしてほしかったの? 俺の混乱に拍車がかかる。
そんなことは当然無視して、当初の目的を思い出し、鈴木部長が美優に話しかけた。
「それでハッカイはどこに在りそうだ?」
「そうでした。うんとね。この奥、池の中に在るみたい」
「この奥ということはやはり丸山公園の方か」
美優が指し示す方向にみんな歩いていく。ここでも人払いの結界が張られているようだが……。おかしい? たくさんの人の気配がある。これはどういうことだ?
そして、美優に導かれて付いたところは、ひょうたん池と呼ばれる池の橋の上だった。
「この下にハッカイが?」
「結界が多重に張られている。美優がいなかったら、見つけることはできなかった」
ハッカイの場所は分かったが、解決しないといけない問題が、現在進行形で発生している。
美優も難しい顔から当然気が付いているみたいだが……。麗さんはどうなんだ?
「それで、麗さん気付いてますか? 周りを囲まれていること……」
「うん。これは人」
「やっぱ、そうか!! とりあえずこいつら死なない程度にぶちのめしてから、ハッカイを引き上げること考えましょう。いつものやつ、頼みます」
「うん」
麗さんは、印を何度も組み直し、何度も印の形を変えてそして叫ぶ。
「神魂降臨(かもすこうりん)!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は空っぽになる。そして、勝手に言葉が口から出てくる。
「我が体は、我が体に在らず。我が技は、我が技にあらず。天地人を貫く楔(くさび)の技。九星剣明王(ちゅうせいけんみょうおう)! 出陣!」
「よおっ、また変なことに首を突っ込んでいるな?」
高貴な霊力が俺の体に重なり、聞きなれた気さくな声が俺に向かって問いかけてくる。
「ベネトナッシュさん。今回はコトリバコなんです」
「ああっ、大体のことは錬に憑依して、記憶を共有することで分かった。天帝の罰を利用して、恐ろしいもんを作り上げるもんだな人間というやつは」
「天帝の罰?!」
「いや、こちらの話だ。それでどうする?」
「とりあえず、ハッカイを回収する邪魔をする十七夜教の奴らをまとめてぶっ飛ばした後、ハッカイを回収する」
「しかし、相手は人間だぞ」
「だから、殺さない程度にだ」
「難しいぞ、これだけの人数を無力化するのは」
俺とベネトナッシュとの脳内会議中に、俺たちの周りは黒いフードの人たちに囲まれ、橋の真ん中へと追い詰められていた。
「ひどいな、最初から神を降ろすなんて。おかげで計画が狂ってしまったよ。君たちが色欲のハッカイを引き上げてたから襲う計画だったのに」
昨日、ハッカイを持って逃げた奴と同じ声が聞こえる。当然だ。昨日の反省は今日に生かす。受験生の本分だぜ。
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