第114話 あははははっ、そりゃ我慢できんわ
「あははははっ、そりゃ我慢できんわ。アニオタの鈴木じゃリアル三次元のミミちゃんじゃ気持ち悪いだけやもんな」
鈴木部長は穴が在ったら入りたいという顔でしゅんとしている。一体全体、あれは何だったんだ。
「なんや錬君、淫魔って言うのは、見てる人によって姿形が変わるんや。それこそその人の理想を具現化して誘惑するんや」
「あっ、なるほど、でもその人の理想がアニメキャラだと具現化は難しいですよね。二次元だからこそ許される表現方法ってありますからね」
「そういうこと。あのアニメキャラの目とか髪型とか実在したら違和感ハンパやないで!」
「部長も言ってました。リアルうさ耳は許せないって。せめてバニーガールの付け耳ならよかったですよね。地獄もこれからは大変だ。そんな人が増えていますから。でも、そんな人は邪淫の罪をやりそうにないから、衆合地獄に落ちないですよね」
彩さんと話が盛り上がってしまって、気が付くと鈴木部長は、みんなにかなり遅れた場所で、しゃがみこんで地面にのの字を書いている。
「部長、いじけてないで早く来てくださいよ」
「くそ。沢村―!! お前のマネキンだってかなりディープな性癖だぞ!!」
「そうよ。錬、マネキンってなんなのよ。錬ってマネキン顔が理想なの?」
部長の大声に、美優が過剰に反応する。
「待ってよ。俺はそんな変態じゃないぞ。みんなだって見てただろう。俺がフラフラ誘惑されなかったところ」
「うーん。だったら、錬の理想の女の子ってどんな子なのよ」
「理想の女の子像? しいて言えば、俺が頑張っていることに不平不満がなく満足してくれるタイプ?」
「なんじゃそりゃ?!」
やっと追いついた鈴木部長が、俺の答えに意味が分からないと返してきた。
「ほら、女の子って男に色々期待するでしょ。期待されるのは悪い気分じゃないけど、期待通りにいかないと怒ったりするよね。でも無理だよ。期待に応え続けるのって。まあ、俺の努力を見て励まし、どんな結果になろうとも満足してくれる人が理想かな」
「なーる。杉沢村の時、美優が言ってたもんね。「どうせ死ぬんなら錬と一緒に居ればよかった」って。錬の理想は美優ちゃんちゅうわけや」
俺の答えに彩さんがちゃちゃを入れる。そして、真っ赤になって頭を横に振っている美優をみんなは暖かい眼で見ている。
まあ、野球の時がそうだったが、どんなに努力したって結果が出るとは限らない。むしろ結果がでないのが当たり前だ。そんな人生の当たり前を無視して攻める女の子が多すぎる。そんな女の子と一緒にいたら、それは将来、不幸な未来しか見えないんだ。そんなわけで容姿に凝りは無いのだ。
俺の理想が容姿にこだわらないということが分かってもらえて、おおむね女性陣には好感触で受け入れられたところで、留萌さんの含蓄のある発言が俺の胸を抉る。
「容姿の好みは無いわけね。でも逆にいうと、マネキンということは、ほら自分のタイプにどんどんコーディネートできるわけで、贅沢な理想だよね」
留萌さんに俺の心の奥底に潜んでいた願望を見破られて、俺も部長同様この場から消えてなくなりたくなった。
そんな俺の肩を無遠慮に叩き、屈託なく笑うのは彩さんだ。
「ええねん。男はやはり自分の色に染めるぐらいやないとな。美優ちゃん。結構錬君の理想ってハードルが高いで!」
「彩さん。そういうのはいいですから! それより錬あと二つ、灼熱地獄に大寒地獄、だいぶ疲れているようだけど大丈夫?」
「そうだな。やれるだけのことはやるよ。それより、熱い所と寒い所に交互に行くとダイエットによさそうだな」
「これ以上スタイルがようなったら、うちら困るなー」
「そうよね。彼氏がいないから見せる人もいないしねー。その点美優ちゃんが羨ましいわ」
俺の軽い冗談を受けて彩さんと留萌さんが冗談を飛ばしてくれる。しかし、みんな疲労の色は隠せないようで、笑い声にも元気がない。そういう俺だってここまで長くオーラを纏っていたことはない。いくら虎杖丸から霊力の供給を受けているとはいえ、すでに供給が需要に追い付いていない感じだ。俺自身の霊力がガリガリと削られている。本音はひっと風呂浴びて、ビールでも飲んで眠りたい。
そんなことを考えているうちに、次の扉にたどり着いた。
さっきから周りにただよう熱気。この熱気は扉の方から漏れ出てきている。
「この扉の向こうは灼熱地獄だ。みんな準備はいいか?」
俺は扉の取っ手に手を掛け、振り向いて全員の顔を見る。みんなサラシのゆるみがないか確認し、真剣な顔で頷き返してきた。
サラシには麗さん特性の防御結界が仕込んである。俺のオーラそれに結界がどこまで熱に耐えられるかだが……。俺は腹を決めて、取っ手を捻り、扉を押し広げていく。
顔に当たる熱風。目に飛び込んでくるこの世の絶望。焼けた岩と砂、大地のところどころに空いた穴からは炎が噴き出し、そこから流れでるマグマは大地を抉り流れ出し、川になっている。
そして、吸い込む空気は、熱せられて喉がヒリヒリと焼けつくようだ。
「これは凄い。こんなところに生身で放り出されたら、一瞬で全身が焼きただれ焼死するだろうな」
そう答えた沢口さんは、すでにサラシを少し解き、目だけ出して顔半分を覆っている。
「これは想像以上」
そう答えた麗さんも同様に顔半分を晒しで覆っている。それをみたみんなは同じようにサラシで顔を覆い始めた。部長、そのサラシはふんどしの一部ですよね。というツッコミはしない。
火災現場で最初にやられるのは喉と肺だ。
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