第91話 そして、俺は駅前のパチンコ屋の駐輪場に

 そして、俺は駅前のパチンコ屋の駐輪場にバイクを止め、東口の駐車場に小走りで向かう。赤信号を待っている間、周りにはまだ結構人がいる。もう一一時前だというのに、みんな遅くまでご苦労なことだ。それに酔っ払いも何人かいる。俺はその人たちの間を抜って駐車場の方にいく。

 そして、麗さんの車を見つけると、それに近づいていく。すると中からみんな出てきて俺の方に向かって歩いてきた。

「さて、これから地下通路に向かうわけやん。でも地下通路って不良のたまり場のわけやん。そやから、錬君と誰か一人が地下通路に行って、問題なければみんなを呼ぶちゅう作戦がええと思うねん」

「そうですね。私もそれに賛成です」

「俺もそれがいいと思う。別に不良が束になってきても負ける気はしないけど、あまり人を傷つけたくないと思うし」

「地元じゃない私もあまりいい噂は聞かないしね。じゃあ誰が沢村君と一緒にいく?」

「はい、私です。錬とは恋人同士です」

 留萌さんの発言に、美優が当然という感じで名乗りを上げる。でも、現場を見たとして美優には分からないだろう。霊感もないし。俺はそう考えたが特に異論もなく俺と一緒に行くのは美優に決まった。

「じゃあ、彩さんたちは取り敢えず地下の改札口のところで待っててもらえますか?」

「「うん」」

 一応作戦が決まって俺たちは地下街へと降りて行った。地下街もさすがに一〇時を超えるとほとんどの店が閉まっている。そして、駅に急ぐ人がちらほら。そして柄の悪そうな人たちもちらほら。終電近くの駅に来ることなんてないからちょっと緊張してしまう。それは美優も一緒だったみたいだ。さっきから俺の腕を強く掴んでいる。そして予定通り地下改札口のところで彩さん、麗さん、留萌さんは足を止める。ここなら危なくなったら駅員さんに助けを求めればいい。

 俺と美優は改札口の右手、地下通路の方へ歩みを進める。その入り口は高さ二メートルぐらい 幅三メートル、むき出しのコンクリートと薄暗い蛍光灯、不気味な入り口が口を開けてたたずんでいる。今のこの時代にこんな前近代的は物がまだ残っているなんてある意味骨とう品だなと考えている俺に対して美優の方は掴む腕にさらに力が入り、表情もこわばっている。

 そりゃそうか。ここはある意味、度胸試しみたいなものなんだろう。化け物を知らない人にとっては一番恐ろしいのは人間らしいから。周りを気にすると、やめとけという視線が背中に刺さってくるようだ。そんな無謀さに同情する視線に混じる鋭い視線。

 なんだこの感じ。所詮人はビビりなんだと心の中で微笑んでしまう。そんな視線に混じる鋭い視線に違和感を覚える。さあ、この先になにが居るのか、まあちょっと危ない人たちなんだろうけど。俺は意識してオーラを全身から強く出す。せめて相手がこちらの力量が分かって無視してくれれば、喧嘩にならずに助かるんだが……。

 そんなことを思いながら進んでいく。奥からは男たちの笑い声や怒鳴り声が聞こえてくる。十人ぐらいか? これはパシリを虐めているな。なにもこんなところでやらなくても……。

 俺はそんな声を聴きながらずんずん中に降りていく。この通路下り坂になっていて、五〇メートルほど進むと今度は上りになっているのだ。そして後ろから三人の気配が……。俺たちは挟み撃ちにあってしまったのか? 先ほど感じた違和感はこれが原因か。しかし、そんなことは無視して俺たちはさらに地下道を進む。

 そして二〇メートルほど進んだところで、地下通路の丁度中間点ぐらいのところに一二、三人の人影が見えた。ああっ確かに柄が悪そうなやつらだ。年の頃は一七、八ぐらいか? 金髪、銀髪、茶髪にメッシュ、ここは日本かと思わず笑ってしまう。

 細く剃られた眉に耳や唇に派手なピアス、センスの悪いドクロマークのTシャツの腕からは刺青が覗いている。この地下通路はやっぱり噂通りの不良のたまり場だった。そんな中、俺たちはスタスタとその集団に近づいていく。それに気が付いたのかさっきまで脅された奴が、ケリを入れられ通路に転がされた。

 ああっ、こいつが仲間からいじめに遭っていた奴か? 俺がそう考えていると、今まで壁に寄りかかりスマホをいじっていた奴らが立ち上がり、転がった奴の周りに立っていた奴らが俺たちの方を向いて壁をつくる。そして、後ろから付けていた三人も俺たちのすぐ後ろに壁を作った。

「へえっ、ここを通ろうっていう命知らずが今だにおるんや!」

「おい、お前、その度胸に免じて一〇万は払ろうたら通したるぞ!!」

 何がおかしいのか、そのセリフを聞いた男たちが大笑いを始めた。ここ声が響くからやかましいことこの上ない。

「その女を置いて行くのも有りやぞ!!」

 ますます周りの男たちの高笑いが地下通路に響く。本当にイラつく奴らだ。

 美優が怯えて、俺の背中に周りこんで張り付いた。そこで、背後にいた男が、美優を引き剥がそうと美優の肩を掴んだようだ。美優が短く悲鳴を上げる。

「きゃっ!!」

 俺はその声を聞いて反射的に振り返り、美優の肩を掴んでいる男の顔面に裏拳を叩きこんだ。その男は数メートル吹っ飛んで地面をのたうち回っている。

「コ・ロ・ス・ゾ」

 俺はどすの利いた低い声が無意識に口から出ていたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る