第90話 留萌さんがバックヤードに行って
留萌さんがバックヤードに行って売り場には俺一人になってしまった。もう俺も一人前とみなされたのか。シフトに穴が開いたせいでさっきまで店長が居たんだが、もう閉店まで30分ほど、お客もほとんど来なくなったので、数日閉店業務が続いていた店長が帰って行ったのだ。まったくお疲れ様です。もし留萌さんがバイトに復帰しなかったらあの店長、過労死とかになっていたんじゃないかと心配になる。
それで、レジで売り場に目を光らせていたんだけど、入口から見知った顔がぞろぞろ入って来て驚いた。
「彩さん、麗さん、それに美優も、こんな遅い時間にどうしたんです?」
「錬君、まだまだ暑いなー。アイス買いに来ったでー。ここアイス安いから」
「麗さんや美優もか?」
「うん。それもあるけど、昼間の話を電話で麗さんにしたら興味を持ったって」
「そう、錬、バイトが終わったら行く」
やっぱり美優は麗さんに昼間沢口さんから聞いた話を麗さんに電話したんだ。それにしても、行くってどこに?
「うちら、アイス食べながら、バイトが終わるのを駐車場で待ってるから」
「いやいや、行くってどこに行くんですか?」
「どこって、駅やがな、最終列車と地下通路を視にや!」
「それってマジですか? あそこはあんまり深夜になってから行くところじゃ……」
「だから、錬君と行くんやないか。頼りにしてるで、護衛係!」
そんなことを言われても、そんな会話をバックヤードから出て来た留萌さんが割って入って来た。
「私も一緒に行きたい。すごく興味がある」
「あっ、留萌さんも行きますか? 私、心強いです」
「いや、でももう遅いし。美優や麗さんは家にちゃんと言ってきているんですか?」
「大丈夫。麗さんの社務所に泊まるって言ってきたから。留萌さんもどうですか? 懐かしいでしょ」
「美優さん。確かに一か月ほどそこで寝泊まりしてたけど。ちょっと図々しくない?」
「大丈夫。問題ない」
「ほら、麗もこう言っているし、瑠衣ちゃんだってまだ下宿先片付いてないんやろ?」
「ええっ、とりあえず寝るとこだけは確保してきましたけど……」
「ほなら決まり! 今日は心霊スポット探訪の後は女子会や」
そんなことを彩さんは言って、アイスのほかにお酒も買い物カゴに入れてくる。
「分かりました。じゃあ行ってみましょう。何か新しいことが現地で分かればいんだけど……」
「期待できるで、麗が居るねんから」
彩さんはそう言って、俺にウインクをする。何か新しい遊びを思い付いたようなふざけた雰囲気だ。まったく彩さんには怖い物がないのか? すでに六人死んでいるし、不良のたまり場のうわさがあり、夜は若い女は絶対に近づかない場所にこれから行くには軽すぎる態度だ。
「あと、一〇分ほどで上がれると思いますから、待っていてください」
「ほな、よろしく」
「錬、瑠衣さんも後で」
「車は私が出す」
三人がデイリーマートから出て行った。それとほぼ同時に一〇時になった。俺はレジの清算を留萌さんに任せ。出入り口のカギを閉め、店内を見回る。よしどこも異常なし。俺は惣菜売り場で廃棄処分になる弁当や酒のあてになりそうな惣菜を見繕って、レジまで戻ってくる。
「留萌さん。店内誰もいませんし、冷蔵庫の温度もOKです。あと、酒のあてになりそうな物見繕ってきました」
「なつかしいな。私が麗さんのところで世話になっていた時、時々そうやって酒盛りをしましたね」
「そうですね。留萌さんはあまり楽しんでなかったみたいですけど」
「そんなことないよ。でも、今日はもっと楽しめるかな?」
あの時は一か月足らずで死ぬ運命にあったんだ。留萌さんにとっては思い出作りみたいに無理しているところがあった。
「大丈夫ですよ。今日の肝試しは大したことないですから」
「そうだね。美優さんの推理の正しさがどこまで分かるかしら? レジの締め終わったわよ。みんな待ってるから早く戸締りしましょ」
「はい」
夜間金庫持って、戸締りをして表に出ていくと、彩さんと麗さんそれに美優が車に乗って待っていた。
「錬は自分のバイクで行くでしょ」
「ああっ、ちょっと銀行に寄って、夜間金庫に投入してこないといけないから」
「分かった。東口の駐車場のところで待ってる。早く瑠衣さんも乗って」
「うん。それじゃあ沢村君、頼んだよ」
「ラジャー」
俺がそう言うと、麗さんの軽自動車が動き出す。俺はそれを見ながら、また、面倒臭いことに巻き込まれたと思いながら、口角が上がっていく。
「よし、行ってみるか!」
俺は独り言を呟き、バイクに跨るとセルを回しアクセルを吹かす。そして最寄りの銀行に夜間金庫を投函すると、一路駅の東口に向かうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます