第67話 、後れを取り戻そうと境内に上がる階段を
俺は、後れを取り戻そうと境内に上がる階段をバイクで駆け上がっていた。店じまいを始めている屋台や、参拝を終えて帰る人など人通りがまばらになった境内の参道をひたすら本堂に向かってアクセルを吹かす。
そして、異様な雰囲気を感じ取った俺は本堂のさらに裏にある宝物殿の方にハンドルを切った。そして、その先で見たものは……。異様な服装に全身あの刺青が浮かび上がった女二人とにらみ合っている麗さんだった。
「麗さん!! 」
俺は睨み合う三人の間にバイクを捩じり込んだ。
「錬、遅い」
そう冷静な声で言う麗さんは左腕の巫女服の袖が黒く焦げ、袖口からは痛々しいやけどが見えている。
「錬、こいつら強い。私の式神をあっという間に……。さらにその式神で私の結界防御を破壊した。こいつらの狙いはこの虎杖丸!!」
麗さんを、俺の大切な人たちをここまでに傷つけて……。
「てめえら、ふざけるな!! これがお前らの意思なのか? 俺はお前らの立場に同情さえしていたのに!!」
俺は怒りで頭の中で何かが切れた音がした。それと同時に体の奥底から湧き上がってくる力を感じていた。
「錬、オーラが凄い」
オーラ? この感覚がオーラを纏うということなのか? どうやら俺はこの女戦士たちにさえ同情していたみたいだ。でもそれも吹っ切れた。
「錬、これを使いなさい」
麗さんが差し出したのは、一振りの剣、黒い鞘に納められた片刃の刀は、刃渡り四〇センチほど、脇差より少し長いぐらいだ。
「これが、虎杖丸?」
「うん。今なら錬も使えると思う」
俺は麗さんから素早く虎杖丸を受け取ると、鞘から抜いて逆手で構える。忍者が使うような構えがこの刀には合っている。
「さあ、始めるか」
「お前が、なぜアイヌの神授の剣を使うのだ?」
「それはアイヌの宝であるぞ!」
二人の女戦士が何か言っているが……。天帝が授けたものなら俺にだって使えるはずだ! うおおおっ!!!!」
俺は気合と共に、自分のオーラを虎杖丸に流し込む。そして、刀身が赤く染まり陽炎のように表面の光沢が揺らいでいる。
再度、構えなおしって、相手の女戦士はすでに動いていた。目にもとまらぬ渾身の横薙ぎに辛うじて反応し、両腕をクロスに構え逆手で受け止める。がその破壊力は凄まじい。ゾンビどもの比ではなかった。俺は数メートル吹っ飛ばされて気が付けば地面に這いつくばっていた。
「よく、受け切ったものだ。だが、お前ではその虎杖丸は使いこなせん」
さらに殺気を放って踏み込んでくる。
今度こそやられる俺は目をつぶってしまった。
「錬、諦めちゃだめ」
そう叫ぶと麗さんは印を結びだした。何度も印の形を変えてそして叫ぶ。
「神魂降臨(かもすこうりん)!!」
そうだ俺はまだまだ自分を出し切っていない。やれるだけのことはやるんじゃなかったのか。俺は口から出てくるままに言葉を紡ぐ。
「我が体は、我が体に在らず。我が技は、我が技にあらず。天地人を貫く楔(くさび)の技。九星剣明王(ちゅうせいけんみょうおう)! 出陣!」
俺は九星剣明王(ベネトナッシュ)をわが身に憑依させる。
「よお、久しぶり。とんでもない奴らとやり合っているんだな」
「ベネトナッシュさん、力を貸してくれ」
そんな会話を頭の中でしながら、女戦士二人の太刀を軽くいなしている。さらに俺たちは反撃に出た。
一気に太刀を弾き返すと、距離を取ろうと後ろに飛び去る女戦士を、素早い踏み込みで追いつき一刀両断にする。
「ば、ばかな!!」
「バカとはなんだ。神に向かって! 明王とは悪神、悪霊を調服する神だぞ。お前らも年貢の納め時だ」
一刀両断にした女戦士が、断末魔を上げて霧散していく。こいつらゾンビと一緒で肉体はとっくに滅んでいるんだ。魂だけがこの世に縛り付けられているだけだ。
ベネトナッシュが俺の疑問に答えをくれる。残った女戦士はあと一人。
その女戦士が呟く声が耳に入ってくる。
「く、くそう。ひとりでは無理か? 仲間と合流して当たらねば」
残った女戦士はそう言うと踵を返し、神社の奥に走っていく。
「仲間? 仲間がいるのか?」
「錬、この奥にみんながいる。早く追っかけて」
この奥に美優や留萌さんやみんながいる? しかもあいつらの仲間がそこにいるだって。
俺は慌てて逃げた女戦士を追っかけた。
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