第65話 それでおみくじにはなんて書いてあったんだ?
「それでおみくじにはなんて書いてあったんだ?」
「吉凶未分(きっきょうみぶん)!」
「吉凶未分?」
「そう、私もさっぱり意味が分からないから、麗さんに聞いたの。だったら運勢占いの言葉の中にはあるのはあるんだって。でも、めったに出ることはないって。凄いレアものみたい」
「レアものってガチャを引いたみたいに。それで意味はなんなんだ。それだけレアってことは吉兆なんだよな?」
「吉凶の変動が大きいことを表す運勢だって。いいことと悪いことの振れ幅が大きいということらしいの」
「ちっ、苦労しそうだな!」
「だからその対処法も書かれていたよ。大切な人に自分が一番大切にしている物を託すといいんだって」
「ふーん。そうなんだ。麗さん他には何か言ってなかった?」
「そうだ。おみくじとは関係ないけど、麗さんが気になることを言ってたよ。神社の結界が綻び始めているんだって。祭りや初詣なんかは我欲に凝り固まった身勝手な人たちも沢山くるでしょ。そういう人たちの負のオーラが積もり積もって結界にダメージを与えるんだって」
「それって神社を参拝してお願いする時の作法だよな。まずは私利私欲を捨て世界平和を祈念してから、自分のことはお願いするんだよ。それから人を貶めるようなお願いはしないとか」
「そうそう、神社の正しいお参りの仕方という本に書いてあったような気がするね」
「それで結界が綻ぶとどうなるんだろう?」
「その隙間から魔が入り込みやすくなるって。結界の補修はするそうだけど、明日も祭りがあるし完全に修復できるのは明日以降だって」
俺はその話を聞きながら、背中に冷たい汗が流れていた。嫌な予感がひしひしとする。それでおみくじの予言の対処法について、具体的にどうするかを聞くのをすっかり忘れていた。他にもっと聞きたいことがあったからなんだ。
「美優、それであの神授の剣「虎杖丸」はどうなってるんだ?」
「あっ、それなら麗さんが奉納の舞で持って舞っていた。確か本堂の奥に奉られたようだったよ」
「本堂の奥か。本当に在ったんだな……。問題は本物かどうかなんだけど……」
「あっ、それなら麗さんが霊力の出力口がちゃんと有ったって。後は使い手の霊力の容量と相性次第なんだって」
「霊力の出力口?」
「そう、麗さんの話だとああいった神剣には使い手の霊力を刀身に纏わせるための霊力の入力口以外に神剣そのものの力を使い手に使わせるための出力口が有るらしいの。出力口は偽物には絶対ないんだって。後はどれだけの力が出せるかは、使い手がどれだけ神剣の力を受け取ることができるかっていう容量と相性次第って言ってたわ」
俺は、杉沢村で金属バットに自分のオーラを纏わせた時のことを思い出した。なるほど金属バットに俺のオーラを纏わすことはできた。でも俺が金属バットからなにか力を貰ったかというと何もなかった。力を与えられる? イマイチその感触が分からない。しいて言えばベネトナッシュさんが憑依した時の感覚なんだろうか? 人間の限界を超える感覚……。しかしあれ以来、俺はあの時のオーラをどうあがいても出すことができなくなっている。そこに一抹の不安を感じるのだ。
俺の意識は電話よりそちらの思考の方に行っていたみたいだ。
「錬、聞いてる。それでね、久しぶりにふわふわ綿あめも食べたんだよ。あれって口の周りがべたべたするよね。そしたら留萌さんって手で千切って食べていたの。上品よね。それ見て部長さんや山岡さんや大杉君にまで口を開けだしたから、あーんってあげてたし。錬がいたら私も錬にしたかったのにな」
「そうか? そりゃあ残念だったな。しかしそんなに食べておなかが痛くならなかったか?」
「大丈夫、後りんご飴で終わりにしたから」
「……ああそう……。お祭り楽しんだんだ」
「そうだよ。後は金魚すくいにヨーヨー釣りかな。彩さんも留萌さんも楽しんでたよ。留萌さんはどちらも戦果0だったけどね」
「まあ、あれは経験が物を言うからな」
「うん初めてだって言ってた。結局、金魚やヨーヨーを鈴木部長からもらってたよ。鈴木部長って見かけによらず器用なんだよね」
鈴木部長、昨日、留萌さんの話にも出たけど、結構点数を稼いでいるかな?
「留萌さんもよかったな」
「……うん。なんか一生懸命思い出作りしてるみたいで……。錬が何とかしてくれるのにね」
何とかする自信なんて全くないぞ。心霊スポット研究会の出会いの時に麗さんに言われた「オーラが凄い。霊媒体質」この言葉を信じて人外の化け物と戦う決心をしただけだ。
「みんなのことを守りたい! だからやれることはすべてやる!」
「うん。錬ならそういうと思ったよ」
少ししんみりしてしまったが、その後、雰囲気を変えようとまた祭りの話に戻り、美優は今まで以上にはしゃぎだしたのだった。
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