第41話 美優の告白は間接的だ
美優の告白は間接的だ。麗さんたちを通しながら相手に気持ちが伝わるのを待つ。相手がそれに気付いて向こうから告白してくれるまで……。それに対して俺はどうだ。彩さんたちに気持ちを伝えても、自分で行くしかないと肩を押されるだけだ。決して根回しなんて期待できない。
彩さんたちはその両方を兼ね備える。決して面白半分でけしかけているわけじゃない。振られたとしても慰めぐらいは言ってくれる。
俺はそこまで考えて腹を括った。俺は胡坐から正座に足を組み替えた。
「美優、俺は美優のことが好きだ。いつでも守りたいと思っている。付き合ってください」
俺は思いのたけを吐き出す。初めて見た時からドストライク。携帯の番号を初めて交換し、高校の席替えのようにクジではなく、向こうから望んで授業で隣に座ってくれた女の子。返事を待つ間、俺は美優との出会いから今までの走馬灯をみた。これは死亡フラグというやつなのか?
「はい。喜んで……」
美優が顔を上げ、ほほを真っ赤にしながら返事をしてくれた。俺たちはどうやら付き合うことになったみたいだ。ところで女の子と付き合うってどうするんだ? 俺はいままで女の子と付き合ったことがない。
「ありがとう美優。美優は俺とどんなふうに付き合いたい?」
俺は俺と付き合う美優を傷つけたくない。その思いで言ってみただけなのに……。
「錬、その言い方はあかんわ。美優は引くでー」
「その通り」
彩さんと麗さんからの強烈なダメ出しだ。そんなことを言われても分からないものは分からない。
「別に何でもええねん。一緒に茶飲んだり、映画やショッピングに行ったり、できるだけ一緒におったらええねん。それが女の子は一番うれしいんや」
そうなのか? 美優の方を見るとやっぱり赤くなって頷いている。
「それが女の子には一番」
「女の子は、それが一番落ち着くんや。でも、男はやるまでは緊張の連続やな。常にそこに行くまでのパターンをシミュレーションしとるからな」
「錬はそういう人じゃありません」
彩さんの言葉に美優が反論した。えっ、付き合うことが決まった途端に、そのことに頭が行っていましたけど……。
「錬、ちゅう訳や。男と女の考え方は大分違うから気を付けや。でないとすぐに別れることになるで」
「はい」
俺は彩さんの言葉に素直に頷く。自然のままでそれが一番だ。
「さて、二人が付き合うことになったんや。今日はお祝いやしっかり飲もうで! 錬あんたはノンアルコールやで。あんたを泊める気は、うちは無いから」
「あっ、はい」
それからは宴会が始まった。彩さんの恋愛講座に、麗さんの男女に係わる地獄の話。美優はいつにも増してにこにこ話を聞いている。それは普段の俺たちとどこも変わらない。
そうやって夜は更けていく。
しかし、美優が高校時代よくモテたとか、レオタード姿をよく写真に撮られたとか、イケメンと根も葉もないのに噂になって困ったとか、そんな普段よく聞く噂話を美優の口からきくたびに、俺の胸は少し痛みを感じていたのだった。
翌日から、とにかく俺と美優はよく一緒にいる所を目撃された。携帯で連絡を取り合い少しでも時間が空けば、教室の一角や喫茶部、食堂で待ち合わせをする。俺の友達や美優の友達にお互い紹介し合い、俺たちが付き合い始めたことは小さい世界だが俺たちと関係ある人達にはほとんど広がっている。
それで俺はと云うと、心に余裕があるというか、ギラギラしてないというか、これがいつでもやれる余裕と云うのか、連れにも丸くなったとよく指摘されるようになった。そりゃあモデルのような女の子が傍にいてギラギラする必要なんて全くない。そんなふうに日常を過ごしていたのだが……。
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