第35話 途中で麗さんが脱ぎ捨てたジャンパーを拾う
途中で麗さんが脱ぎ捨てたジャンパーを拾うと、俺たちが研究施設に戻った。防火扉が壊されて倒されている。慌てて地下室に降りると、地下室で心霊スポット研究会の面々は一か所に固まってじっとしていた。そして俺たちの姿をみると、美優が俺に飛びついてきた。
「無事だった? どこもケガしてない? 」
「うん。大丈夫。ところで皆さんは?」
「ああっ、なんとかな」
部長が返事を返してくる。なるほど、見たところ大丈夫そうだ。
俺は、ベネトナッシュさんと居た老人が黒幕だったこと、杉田のこと、木々に串刺しにされた死体の林のことを手っ取り早く説明すると、地下室の扉からトンネルへと出た。
「やっと出られた。ところで、杉田には気の毒なことをした」
「そのことで部長お願いが……」
俺は自分の考えを部長に伝えた。それに部長が答えてくれた。
「このまま、俺たちは、ここに行きつけず、何も見なかったことにするのか……」
「ええっ、警察に話しても信じてくれないだろうし、ここで生け贄になった人って邪悪な魂を持ったろくでもない人だったらしいし、行方不明になっても、周りの人たちはかえってホッとしているかもしれません。それに……」
「警察が、事件性有りと判断して、死んだ人間の人間関係を調査すると、その人たちに迷惑が及ぶかもしれないということか?」
「はい」
「確かになー。まあ、俺もこんな大量猟奇殺人事件に巻き込まれたくはない。警察が俺たちの話を信じないとなると、俺たちも被疑者になるかもしれないし、そうでなくともマスコミに追いかけまわされるは必至だ」
「分かってくれましたか?」
「ああっ、みんなも今日のことは他言無用だ。もっとも死体を見たのは沢村と沢登さんだけだから、みんなは憶測でものを言うんじゃないぞ」
「「「「はい」」」」
返事に力がないが、その表情は二度とこんなことに巻き込まれたくないと顔に書いてある。この様子だったら大丈夫そうだ。
そして、俺たちは車を止めていた場所まで戻って来た。
「よし、帰るぞ」
部長の言葉に俺は腕時計を見る。まだ、四時過ぎだ。俺たちがここに着いたのは一二時前、あれだけの出来事がたった四時間の間に起こったなんて。
俺はここまで押してきたバイクに跨り、エンジンを掛ける。よしかかった。エンジンにまで水は入っていなかったようだ。
みんなも疲れたように無言で車に乗り家路に向かう。
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