第30話 俺はバイクに跨ると
俺はバイクに跨ると、麗さんもしめ縄を入れたリュックを背負いバイクに跨った
「うちらの命がかかってるんや! あんじょう頼むで!」
「錬、麗さん。お願い生きて帰ってきて」
「ああっ」
声を掛けてくれた女神二人に、俺はサムズアップして見せた。
たしか、野球部のマネージャーに同じことをやった時はピーゴロだった。なんでこんな時にそんな昔のことを思い出すんだ。まさか、死亡フラグ? いやいや、今回は正真正銘、神の血脈を持つ女神たちだ。
不安になった俺はセルを回し、アクセルをふかす。それを見ていた麗さんが後ろに跨る。
そして、階段が正面に見えるようにスピンターンを決める。
俺は覚悟を決めて、ベネトナッシュの方をみて頷く
ベネトナッシュが軍刀を掲げ、階段を駆け上がり始めた。
ベネトナッシュに遅れないように、俺はさらにアクセルをふかし、前タイヤを浮かせてウイリーをすると、階段に前タイヤを引っ掛け、一気に登っていく。
シートから腰を浮かし、バイクの上下の揺れを膝で吸収する。麗さんも俺の背中に張り付くようにしがみつき、俺の動きに合わせてくれる。
「すごい、バイクで階段を上がっている。私初めて!」
心配するな。俺も初めてだ。こんな状態で喋ると舌を噛んじまうよ。心の中で思ったが、バイクの上下の振動で俺は話すことができなかった。
階下では、防火扉を閉じる派手な音が響いている。もう俺たちは引き戻せない。やるだけやったら、後は神のみぞ知るだ。
俺たちが一階に上がったところで、階段のエントラストから先をふさいでいた防火扉が、化け物たちの圧力に、ついに音を立てて倒れた。
「さあ、ここからだ! ベネトナッシュ!」
「ああっ、遅れずについて来いよ!」
ベネトナッシュの持つ軍刀が赤い輝きを帯びていく。
二メートルほどの広さの廊下を、化け物が両手を伸ばして埋め尽くしている。
その中に飛び込んでいくベネトナッシュ。赤く輝く軍刀を横薙ぎに一閃、軍刀に切られた化け物は、一拍おいて、崩れるように砂山に変わる。俺は化け物どもが、その姿を崩し、砂山に変わる絶妙のタイミングで、ベネトナッシュの後を付いていく。玄関までの距離およそ三〇メートル。ベネトナッシュが切り伏せた化け物が消滅した空間に、まるで津波のように、すぐさま後ろの化け物が押し寄せてくる。それでもベネトナッシュの剣戟はすさまじく、それら押し寄せる化け物を一体残らず切り伏せていく。
わずか十数秒で、廊下の化け物を消滅させ、玄関までの道を切り開いた。だが、玄関から表に出た瞬間、俺は息を飲んでしまった。
周り一八〇度を化け物に囲まれている。さあ、ここからが正面場だ。
ベルトナッシュが中央突破を仕掛ける。一瞬モーゼが海を割ったように、化け物は左右にわかれるんだが、すぐさま開けた希望に続く道も、両側から怒涛のように化け物が押し寄せその道が閉じられようする。
俺は、ベルトナッシュのすぐ後ろに陣取り、左右から伸びてくる手をかろうじて交わしているが、ななめ後ろから来る手は、もう少しで麗さんの背中を掴みそうだ。
それに俺たちの敵はその化け物だけではない。ベルトナッシュが切り伏せた死に損ないの化け物が砂山に帰るまでのタイムラグを使って俺たちに掴みかかってくる。俺は砂をかぶりながら左右に小さくバイクを振り、それもうまく躱しているが、左から伸びてくる手に気を取られた隙を突かれて、反対側から伸びてくる手が、俺のハンドルを握る右腕を掴んだ。
ハンドルを取られ、バランスを崩したバイク。俺はそれを振り払うため、一瞬アクセルから手を放してしまった。
振り払った化け物はそのまま砂山に帰っていったんだが、バイクのスピードが落ちたせいで、後ろに乗った麗さんのジャンパーが左右から伸びてきた腕に掴まってしまったようだ。
すぐさま、アクセルをふかすのだが、くっ、バイクが重い。まずい! このままだと引きずり倒される?!
「麗さん!!」
「大丈夫!!」
麗さんはそう叫ぶと早業でジャンパーを脱ぎ捨ててしまった。
「私、早着替えは得意」
麗さんはこともなげに言ったが、両手を一瞬放し、バイクが前に行くところを、相手が引っ張る力を利用してうまく脱がされたようだった。
「その技、どこで身に付けたんですか?」
いや、怖くて聞けない。俺が行きたいお店ナンバー1にリストアップしているマリアさんのお店でないことだけ祈っておこう。
ベルトナッシュと俺たちはやっと化け物たちの囲みを抜け切った。周りにまだ化け物がいるがこれくらいなら何とかなりそうだ。
「ベネトナッシュさん。もう大丈夫。早く建物に帰ってあげてくれ」
いまだ軍刀を縦横無尽に振るうベネトナッシュに声を掛けた。
「うおっしゃー!!」
振り返ったベネトナッシュは大声を上げて、今来た道をトンボ返りしていく。すでに、玄関から何匹もの化け物が建物の中に入って行くのが見えている。思ったよりも時間が掛かったことにベネトナッシュも焦りを感じているようだ。
俺は前を向く。ここまで五〇メートルほどしか進んでいない。ここから先は俺たちだけで切り開く。
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