第25話 あっけない一撃に
あっけない一撃に、俺は放心したように、美優たちの方を振り返る。
「それが、あなたの真のオーラ。今のオーラは燃え上がるような赤。そのオーラを纏えば、化け物に勝てる」
そんなことを言いながら、麗さんが俺に向かって頷いている。
「錬君、そんな化け物やっちゃえ!!」
彩さんが俺を応援してくれる。
俺は再度化け物の方に向き直り、そして、バットを構えて対峙する。
そして、再び、化け物に向かってバットを振るうが、今度はバットを弾かれ、俺の方がひっくり返る。そして、のし掛かられるように肩を掴まれた。化け物の指が肩に食い込む。
この野郎、やっと痛みがなくなって来た肩を、もう一度壊す気か! 再び怒りのオーラを纏うことができたみたいで、圧し掛かっていた化け物をバットで打ち据える。崩れて砂山になる化け物たち。このオーラってやつは、まだまだ自分でコントロールができない。
しかし、俺が一瞬化け物に動きを止められたため、他の化け物たちが、美優たちに襲いかかっていた。
「間に合わない!」
俺が電気に打たれたように身動きできない。目で化け物を追いかけるだけだ。
その時、美優たちの背後から、黒い影が飛びあがった。そして、化け物と美優たちの間に滑り込んだと思ったら、一閃二閃したかと思うと化け物たちは真っ二つになり、崩れて砂山になっている。
そして、動きを止めた影は、髪を一つに束ね軍服を着た男だった。
この男は、最近夢でよく見る男だ。俺は男を見ると夢の内容をほぼ思い出すことができた。
「油断するな!!」
男の声に、周りの気配を探る。まだ、俺の周りには数体の化け物がいる。俺は振り向きざま襲い掛かってくる化け物をバットで撲殺、さらに斜め前に踏み込み、バットを振り下ろす。
男の方も、動きが速い。すぐさま、化け物たちの前に躍りでて、軍刀を縦横無尽に振り下ろす。その動きにはまるで無駄がなく、剣舞を踊るように化け物どもを仕留めていく。
やがて、一〇体ほどいた化け物はすべて消え去っていた。
「ふう、何とか生き延びたか」
俺の言葉を、まだ青い顔をしている部長が受けた。
「全くだ。どこのどなたか存じませんが本当にありがとうございます」
「ほんま、かっこよかったわ」
「ありがとうごさいます」
「あなたのオーラ、神の領域」
そして、女性陣が口々にお礼を言っているが、麗さんの一言にはさすがにツッコミをいれたい。「あんた、神のオーラってみたことがあるんかい!」って。まあ、冗談はさておいて、この男一体何者なんだ。
夢の中のこの男と俺はどこかで出会っているのか? 俺はさっき思い出した内容をこの男相手と答え合わせをしないといけない。
「助けてもらってなんだけど、あんた何者なんだ? その軍服や軍刀といい、この施設で働いていた人間なのか? それともこの化け物どもの仲間なのか?」
「俺の名前は、ベネトナッシュ。それにお前の言ったことはすべてハズレだ。まあ、着るものに困って、ここに置いてあった服を拝借した」
「だったら、どうしてここにいる? なぜ俺たちを助けた? お前の目的はなんだ?」
俺は矢唾きに質問をする。
「まあ、まあ、沢村落ち着け。それに助けてもらった相手に失礼だろう」
「いや、部長、俺はこの人を知ってるんだ。ただし夢の中だけなんだけど。夢の中で、俺はこの景色の中に立っているこの男を何度もみた。そして、この男が呪いについてしゃべるのも」
「へえー、そうなんだ。大分、深層心理深くまで潜り込むことができるんだ。でもせいぜいその体に流れる血の記憶までだろうけどな。アカシックレコードまで読み解けるとすべての謎が解けるんだがな」
「アカシックレコード?」
「この世の出来事が、過去、現在、未来すべて書かれている記録媒体さ。しかし残念ながら君は俺の思念に同調できるだけのようだな」
「それで、ベルトナッシュ君はそのアカシックレコードとやらが読めるのか?」
部長が俺と男の話に割って入ってくる。部長に話させた方がいいか? 俺は彼の言うことはなかなか理解できないし。周りのメンバーもそう感じたらしい。この男との会話を部長に一任するようだ。部長の話を静かに聞いている。
「読めるわけではないが、この千年の間の出来事はほとんど見て来た」
「千年の間の出来事だって?」
「そうだ。特にわが身に起こった出来事は、昨日のことのように鮮明に覚えているぞ」
「だったら、聞いて良いか? ここはなんなんだ。一体ここでなにが起こったんだ?」
「話すと長くなるぞ、良いのか?」
「ああっ、構わない。俺たちはそのことを知るためにここまでやって来たんだ。ただし、手短に頼む。一階の防火扉が破られそうなんでな」
「あの扉か? 今は大丈夫だろう。あの黒龍の呪いを受けた者たちは、人の匂いを追いかける。今はちょうど玄関の上にいるから、奴らはみんなこの下の玄関で何とか登れないか思案中だ」
「なるほど、あの化け物どもは、人の匂いを追いかけ、最短距離で捕捉しようとするのか? だが黒龍の呪いを受けた者たちとはどういう意味だ?」
ああっ、そういう原理で奴らは動いていたのか。だから俺たちを追えたのは、俺たちを追っかけた一五,六体だけなんだ。外に集まっている化け物が中に入り込んできて、一階の防火扉も壊して、もっと多くの化け物が二階に殺到しなかったわけが今わかった。
それにしても黒龍の呪いとはなんだ? そう考えていると部長はまさに俺の考えていることを質問した。
「黒龍の呪いか……。千年ほど前、ここは杉沢村と呼ばれた杉と美しい沢のある小さな村だったんだ」
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