第23話 ゾンビ? なんだそれ?
「ゾンビ? なんだそれ?」
「沢村、ゾンビを知らないのか? あれは死人が蘇った者だ。死人が蘇って人を襲うんだ」
山岡さんが俺に向かって呆れたように叫んだ。
「……?……」
それで、死んだ人間が人を殺したり、死んだ人間をもう一度殺したりするのは法律的には殺人罪が成立するんですか? 山岡先輩、興奮を抑えてください。もっと具体的に言ってくれないと俺には何のことだか分かりません。どうでもいいことを考えてしまいます。
「でも、ゾンビなら動きも鈍いし、頭を潰せば倒すことができる。一五人程度ならなんとかここから脱出できないか?」
動きが鈍いのは、俺もさっき見たから同意だ。囲まれなければ何とかなりそうだ。それに頭が弱点なら、囲まれても一点突破で何とかなるか? そんなことを考えていると、麗さんが、ぼそりと声を発する。
「部長、あれはゾンビじゃない。死者が出すオーラと違う。あのオーラは大地のオーラ。それが呪いを受けて人型に縛り付けられている」
部長の問いに、麗が答える。それにさらに返す部長。
「大地から生まれた悪霊か? まるでホムンクルスだな?」
麗さんあの死者のオーラが見えたんですか? いやこの際だが、麗さんの言っていることも、部長の言っていることもよくわからない。
「で、どうやったら倒すことができる?」
俺が一番知りたいことを尋ねると、他のメンバーも部長と麗さんの顔を交互に見ている。ゾンビ改めホムンクルスが防火扉に体当たりをして頭を打ち付ける音が、この部屋にも響いてくる。
やつらもう二階まで上がって来たのか……。
「さあ、ホムンクルスなら、大地の気を吸って永遠に死ぬことはない」
「大地から供給される気を縛り付ける呪いを解かないとダメ」
それは、絶望的というやつですか? こういう時こそ部長、死ぬ気で考えろよ。
「ここに資料があるだろ。何とか、あいつらが生み出された経路を解き明かすしかないな」
部長はそういうと、机の上に投げ捨てられた資料を手に取った。
「これは日誌か。何かヒントでも書かれていればいいんだが……」
そういうと、部長は日誌のページをめくり読み始めた。その行動を見て、心霊スポット研究会の面々が同じように資料を探して読み始めた。俺も机の引き出しを開け資料を開くが……、なんだこれ漢文じゃないか! 漢字とカタカナの文章、こんなのは六法全書だけにしてください。
防火扉に打ち付ける音は相変わらず響いている。しかも、ギシギシという音まで鳴りだした。これは防火扉の枠がきしむ音だ。扉自身は鉄製だが、周りの壁に固定しているのはただのネジだ。しかも、この建物の古さからしてそうとう老朽化しているだろう。これは、防火扉が突破されるのも時間の問題か?
後は、この部屋のドアだが、それもいつまで持つか?
部長がいきなり声を上げた。
「ダメだ。この施設、予想通り旧日本軍の細菌兵器研究施設なんだが、今から百年前のだけのことはある。
赤痢やコレラ、それにチフスや狂犬病などの菌の培養、それらの菌に対するワクチンや駆除方法の研究だ。とても、あんな化け物を作り出すような研究とは思えない」
「だったら、あの化け物は自然発生したとでもいうのか……」
山岡が絶望的な言葉を吐く。よく考えれば当然だ。こんな生物兵器なんて、今の時代さえSFみたいな荒唐無稽な話だ。一〇〇年前の細菌兵器なら、せいぜい伝染病の菌を敵地でまき散らし、占領下においた後それらの菌を駆除するの関の山だ。
さらに絶望は重なるものだ。ついに大きな音が廊下に反響した。ついに防火扉が倒されたようだ。俺たちは室内にある家具をドアの前に積み上げバリケードを築くと、少しでもドアから距離を取ろうと、所長室の窓から屋上に出た。
屋上から見た景色は、俺たちの想像を絶するものだった。
直径二キロほどの円の内側はなだらかなすり鉢状になっており、周りは隆起し高さ二〇メートルの城壁のようになっている。さらに、俺たちが立っているこの建物の反対の直径線上に、半ばから折れているにも関わらず、一〇〇メートルはゆうにありそうな巨大な杉の木が立っている。そして、その手前には南の黒姫山の谷から集まってきた湧き水を湛えた清らかな流れの清流があり、大地全体には、雑木の低木がパラパラと立っていて、草などは、芝生ぐらいの丈の低い雑草が生えているだけだ。
「部長これは?」
思わず、震える声で美優が呟(つぶや)く。ここまで、信じられないことの連続で声が憔悴しきっている。
「ああっ、本当に在ったんだ。巨大杉。そして、沢も……。ここが伝説の杉沢村に違いない。グーグルマップは、この城壁のような外周に合わせて、写真を入れ替えたんだ。なるほどこの地形、城壁のようにせり上げっている外周のため、あの巨大杉は地上から見つけることはほとんど無理だろう。それに、まるで隕石か何かがここに落っこちたようだ。クレーターのようになっている」
「ここが杉沢村? しかし、部長、おかしくないですか。だって私たちを襲ってきたのは、軍服を着ていました。きっと、この建物の住人だった人たちです。杉沢村ってもっと大昔に滅んだはずです」
「沢井さん、だからその住民たちが目を覚ましたようなんだ。この建物の周りを見てごらん」
部長に言われて、俺たちは建物の周りに視線を移す。うっ、建物の周りには、直垂?なのか、平安時代の庶民の服装をした人間が何百と集まってきている。その中には、何かの伝染病のように体中に斑点が体にある者、前身ケロイドのように焼けただれた者もいる。
「きゃあー!!」
美優は気を失いそうになったのだろう。悲鳴を上げ、腰が抜けたようにへたり込もうとしているところを俺がやっと支えたのだった。
それだけではない。メンバー全員の顔はすでに顔色を失い真っ青だった。
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