第2話 はあっ、やっちまった
「はあっ、やっちまった。このけんかっ早い性格、何とかしなきゃあな……」
俺は学食で空いているテーブルに、カレーライスの乗ったトレーを置いて独り言を言ったようだった。
「あのここ空いてます?」
突然、女性から声を掛けられて顔を上げる俺。目の前には、先ほどのリア充が立っていた。
「はい?」
なんだ? さっきの続きを始めるつもりか? 食事はイライラしながら食べると消化に悪んだが……。しかも、俺は他人の彼女の前でワザと負けるような配慮はしないぞ。
彼女の前で、恰好が付けたいんなら相手が悪いぞ。
そう考えて、目の前の二人をじっくり観察する。
なんかさっきと男の方が雰囲気が違う。さっきの男はもっとチャラチャラしていたような気がする。声を掛けてきた男は、どこか冴えないメーカーのジャンパーにジーンズを履いて眼鏡をかけている。
いや、これはこの大学のどこにでもいるやつの服装だろう? もちろん、女性の方は間違ない。くっきりとした二重につぶらな瞳、つややかなストレートヘアーは俺の好みのドストライクだ。もちろん、誰にとっても美少女に違いなと思うんだけど。
それに先ほどと変わらず、この男はこの美少女の腕をつかんで離していないんだけど。この女、純情そうな顔に似合わず二股を掛けている?
俺が面食らって、対応に困っていると、別の方角から声を掛けられた。
「ちょっといいかな? 僕は心霊スポット研究会の鈴木隆って言うんだ」
そう自己紹介しながら、勝手に俺の前の席に座る。
「お前たちも座れよ。彼はなかなか有望だと思うよ」そうリア充に声を掛けて椅子に座らせている。
さっきは気が付かなかったけど、このリア充のカップルの隣には、ジャケットを着た七三分けの男が立っていた。この鈴木と名乗った男、黒縁の眼鏡を掛けて、雰囲気は、世紀末ごろにどこかの雑誌で連載されていて、やけに世紀末の人類滅亡を危惧してた男よく似ている。
「俺になにか用スか? さっきの続きなら飯食ってからにして欲しいんスけど」
俺は、内心ではビビりながらも、言葉には余裕をかまして見せている。大体地方の国立大学生、いきなり殴りかかってくることはないだろう。まずは話し合いのはずだ。そうでないのが一人ここにいることはいるんだけど……。
「まあまあ、まずはお礼が言いたいんだ。さっき君がぶつかって因縁をつけた男に掴まっていた彼女を助けてくれただろ。彼女はこのサークルの杉田の後輩で、うちのサークルも狙っていたんだ。君とのどさくさでうまく彼女を奪還できた」
眼鏡を右手の人差し指で押し上げながら言った言葉は、俺の想定外だった。
「はーっ、あの彼女さんはあの男と付き合っていたわけじゃないの?」
いかん。ちょっと間抜けな声が出たかもしれない。
「ああっ、俺たちが声を掛ける前に、あのチャラいヤリサー、まあやりまんサークルだな。に掴まっちゃって、あのままだったら新歓コンパで酒を飲まされ、とんでもない目にあっているところだ」
「え、あいつらってヤリサーのメンバーだったんだ」
「ああっ、校内では結構有名でね。君に絡まれておとなしく引き下がったのは、こんなところでトラブルになって目立つことを避けたんだろう」
「そうです。私も無理やり腕を取られて、絶対に嫌な予感がしていました。ほんとに助かりました」
さっきの女の子が俺に訴えてくる。
「いや、まあ助けたわけじゃないんだけど……。というか、君のことは目に入ってなかった。むしゃくしゃしている時に、たまたま、あいつがぶつかってきたから……。あの時は、腕を掴まえられていたことには気が付かなかった」
そういうと、俺は彼女と未だに腕を掴んでいる男の顔を交互に見た。
「あの……、これも違うんです。たまたま私の高校の先輩で、あなたが行ってしまった後、先輩に掴まって、それで、あなたを探すと言ったので、私も先輩から事情を聞いて、お礼もしないとって思って先輩たちに付いてきたんです」
そういうと、彼女は掴まれていた手を振り払った。振り払われた男は名残惜しそうにしている。
なにか? 彼女の話を整理すると、俺は彼女がヤリサーの毒牙にかかるところを偶然助けたということか? じゃあこの世紀末ジャンキーもとい鈴木っていう男たちはなんで俺に用があるんだ?
「うちらの心霊スポット研究会に入ってもらおう思うてんねん」
いきなり、隣に座っていた女性に声を掛けられた。ちょうど、鈴木という人に声を掛けられた時ぐらいから、そんなに混んでいないのにわざわざ隣に座ってきたので気になっていたんだ。
話し掛けてきた子は茶髪をポニーテールにして、切れ長の目を持つクールビューティ系、人目を惹く美しい顔に似合わず大阪弁を話す違和感は減点要因なんだが。
それからその隣に座っている子は、病的なまでに肌が青白く、肩までのストレートの髪と黒めがちな大きな瞳は、どこまでも漆黒で、コントラストの利いた影のある美人っていう感じだ。
実はさっきから平静を装いながら、チラチラと様子を窺(うかが)っていて、今の話がすめば、彼女たちに話し掛けてみようと考えていたのだ。
もちろんそこは考えていただけで、スラスラ会話ができるようなら、今朝のような一大決心などしないわけなんだが……。
もっとも、俺目当てで、隣に座ったと思うのは、自意識過剰すぎるだろうとあえて考えないようにしていたんだ。まさかのサークル勧誘、心霊スポット研究会の関係者だったとは。
「なんや、驚いた顔して? 麗(れい)の推薦やから勧誘したったのに。でなかったら自分みたいな目つきの悪い男に話かけるかいな。殴り込み寸前って雰囲気だしとるで」
俺の目つきの悪さについてそこまで言われたことはなかったのに。今まで女性に話し掛けられなかったのはこれが原因か? ならば、こんな俺に興味を持ってくれた女の子って?
「レイさん? 推薦?」
「ああっ、隣の子なんやけど」
「待て待て、部長の俺を置いて話を進めるな」
俺の正面に座っている鈴木と名乗った男が、会話のイニチアチブを取ろうとして、俺と女性たちの会話に口を挟んできた。
「君の隣に座っている女性は藤井彩(ふじい あや)さんと沢登麗(さわのぼり れい)さんだ」
「ほな、あらためて自己紹介すんで! うちは藤井彩、経済学部二年や、言葉からわかるように関西出身、ゼニの話が大好きやから経済学部にいんねん。後、現実主義者の関西人には珍しく幽霊ちゅうもんに興味があって、ほら、ホラーには、グロとギャグは付もんやん」
「……いや、それは……」
俺自身はグロとエロを押したいところだが、ここは突っ込むべきか? そんなことを考えていると、藤井さんの隣の子が口を開いた。
「私は沢登麗(さわのぼり れい)。理工学部二年、地元出身」
ぽつりぽつりと言葉を切る聞き取りづらい喋り方をする人だ。すごくぶっきらぼうな感じだ。
「沢登さんですか……」会話に動詞がない……。エクスキューズがないと会話を続けられないよ。すると、藤井さんが助け舟を出してくれた。
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