第20話 ギルド長とダルス
冒険者ギルドの2階にあるギルド長の私室
そこにテーブルを向かい合わせるは鋼牙隊隊長ダルスとギルド長グモニ
ダルスはソファーに寄りかかり、足を組んで鼻毛を抜いた
「で?早朝から何の用だ?日課の散歩を切り上げて来てやったんだ・・・くだらねえ内容ならぶっ殺すぞ?」
「ええ・・・毎日見回りありがとうございます・・・昨晩の事なのですが、実は『土狼』を討伐して来た者がおりまして・・・」
「『土狼』?・・・詳しく聞かせろや」
興味無さそうにしていたダルスが身を乗り出して尋ねる。その変化に少し驚きながらもグモニは頷き話を続けた
「はい。『土狼』は全部で15匹・・・それも驚きではあったのですが、その中に『土魔狼』が・・・現地に確認行かせました所、間違いなく『土魔狼』だったようです」
「討伐したのは?」
「アタル・・・という新人冒険者です。どこから現れたのか・・・新人の割には歳をとっていまして・・・ダルスさん?・・・ああ!?鼻毛をそこらに捨てないで!」
「細けえ事は気にすんな・・・それで?」
「・・・随分嬉しそうですね・・・ご存知の通り『土狼』は人を喰らい『土魔狼』に進化する・・・しかしこの町で最近行方不明になった者は?」
「・・・居ねえな・・・俺の知る限りじゃな・・・となると『土魔狼』はどうやって『土魔狼』になった・・・って事か」
「ええ・・・『土狼』は落とし穴に落ちた者を襲う・・・ですが、この町で行方不明になった者が居ないとなると・・・」
「他所から流れて来たか・・・だが、縄張りを変えるってのはあまり聞いた事がねえな・・・外を出歩く『土狼』なんてレア中のレアだぜ?」
「そうなんです。それともうひとつ・・・巣窟を調べに行ったら更に奥深くへと繋がる穴があったようなのです。物を落としても下に到達しない程の深き穴が」
「・・・まさか奈落・・・か?」
「分かりません・・・しかし、最近の魔物の増加に加えて『土魔狼』の出現・・・偶然とは思えないくらい時期が重なり過ぎています」
「確かにな・・・で、国には?」
「報告し、調査隊の派遣依頼を・・・あれは町で調査するには危険過ぎる・・・何も無ければいいのですが・・・」
「フッ・・・」
「・・・何がおかしいので?」
「いやぁな、この前ある小僧に聞かれたんだ・・・魔王が町を襲ったらどうするのかって」
「・・・どう答えたんです?」
「クソ喰らえだって言ってやったよ・・・心配すんな・・・この町はエリゼの愛した町だ・・・俺が必ず守ってやる」
「エリゼさんに感謝ですね・・・そう言えば近頃スカウトされたとか・・・」
「耳聰いな・・・シューリーくんだりまで来て欲しいだとよ・・・何でも道場同士の争いに助っ人としてな・・・」
「行くんですか?」
「行くかよ!あんな所まで・・・自分達の力で何とかしろって言って追い返してやったわい・・・それでもしつこく言ってきてるがな」
「なかなか・・・後釜が育たないですね」
「・・・まあな。レギンは腕はいいが性格に難がある・・・俺の目が届かない所に行くと何しやがるか分かったもんじゃねえ・・・おもしれえ奴はいるが・・・」
「ほう・・・鋼拳の目に止まる者が・・・」
「そんなんじゃねえ・・・ただ底は知れねえ・・・そいつを見た時のさぶいぼを見せてやりたかったぜ」
「それほどの者が・・・その者の名は?」
「お前も知ってる奴だよ・・・『土魔狼』を倒した・・・」
「・・・アタル・・・」
グモニが名を言うとダルスがニカッと笑い立ち上がった
「用は済んだろ?日課の散歩がまだ途中だ・・・もう行くぞ」
「はい・・・今晩でも1杯どうですか?」
「残念・・・先約がある」
「それは残念・・・また・・・」
「お前も来るか?今お前が最も興味を持ってる相手だぞ?」
「・・・是非」
「決まりだ。討伐報酬で奢らせるつもりだったが、お前の奢りな!」
「えっ!?ちょっとそれは・・・」
「経費だ経費!じゃっ!迎えに行くから金だけ忘れんなよ!」
「ちょっと!ダルスさん・・・」
ダルスは聞く耳持たず部屋から出て行ってしまう。残されたグモニはソファーにもたれ掛かり天井を見上げてため息をついた
「・・・落ちるかな・・・経費で・・・」
「・・・って聞いてる?アタルさん!」
「はい・・・耳の穴かっぽじって聞いてます」
「アタルさんは嘘を付いて危険な場所に1人で行ったんですよ!誰にも場所を告げずに・・・もし何かあった時どうするつもりですか!?」
「はい・・・誠に申し訳ありません」
昨日の夜は疲れていたせいか夜飯食ってすぐに寝てしまった。で、今日の朝起きるとシーナからの説教が始まった・・・いや、俺が悪いから仕方ないんだけどね・・・
怒られながらぼーっと考えるのは昨日のレギンを殴った時の事
拳が痛くないのは何故だったのだろう・・・拳はレギンの頬に触れた感触はあった・・・あれだけ吹っ飛んだのだからそれ相応の感触や痛みがあるはず・・・でも全くと言っていいほど痛みはない
念動力の新たな力?
でも改めて考えると『理力斬』もおかしな話だ。手刀であれだけ斬れるのに、手に感触がない。何となく出来るじゃこの先・・・
「聞いてる?・・・もしかして何か後遺症が・・・」
「えっ!?・・・いや、聞いてたよ!仰る通りで・・・」
「じゃあ、今から行こう!本当は受け取りたくなかったけど、エマから前の討伐の報酬を受け取ってくれてお父さんに渡してくれたでしょ?そのお金があるから・・・」
「行くってどこに?」
「ほら聞いてない!いつまでもそんな血だらけの格好じゃダメだから服を買いに行こうって言ったのに!お父さんにお金貰ってくるからちょっと待ってて」
いつの間にそんな話に・・・改めて見ると確かに犬っころの返り血で服がえらいことに・・・模様には・・・見えないよな・・・
シーナが俺がハムナに渡したお金を受け取りに奥の部屋へ・・・礼拝堂で説教されるってなんか背徳感半端ないなあ・・・懺悔してるみたいな感じ
しばらくするとシーナが戻って来た・・・あれ?何か怒ってないか?
「ア~タ~ル~」
ええ!?なになに・・・俺なんかしたか?って思ったらシーナは2つの袋を持っていた・・・
「どうして報酬が2つあるのかな?お父さんには話して私に話さなかった理由はなんなのかな?」
「いや・・・それには深い理由が・・・」
「・・・何ですか?その理由と言うのは」
「・・・なんでしょう?」
おぉ・・・燃えとる・・・シーナの背後に怒りの炎が見える・・・
「これはテムラの分の報酬ですよね?それをアタルさんに渡した理由は?お父さんはそこまで聞いてないって言ってるけど・・・なんでテムラはアタルさんに自分の報酬を?」
「・・・なんでだっけなぁ・・・思い出せないなあ・・・」
「テムラがアタルさんを殴った・・・で、お金を渡した・・・大方このお金を持って町から出て行け・・・そんな所ではないでしょうか?」
ニッコリ笑うシーナだったが、目だけは笑ってはいなかった・・・怖い・・・
嘘をつくのはやぶ蛇だ・・・かと言ってこれ以上死体蹴りするのも・・・ここはひとつ穏便に・・・
「シーナ・・・確かに俺はテムラに殴られた・・・シーナの言う通り金を渡され町を出ていけとも言われた・・・でも、それはテムラが・・・シーナを心配しての行動なんだ。俺みたいな素性の知れない奴が・・・その・・・知り合いの家に居候してる・・・俺ももし自分の知り合いがそんな状況だったら気が気でないし、テムラと同じような事をしたかもしれない・・・いや、きっとするだろう・・・だからテムラを責めるのは・・・」
「誰かが心配だから、誰かを傷付けて良いと?」
「いや・・・でも、誰かを守る為に仕方なくってのは・・・ほら、昨日のレギンの件みたいな事もあるし・・・」
「・・・あれはあの人がアタルさんを斬ろうと剣に手をかけているのを私も見ました・・・正当防衛だと思います・・・私も助けてもらいましたし・・・でも、アタルさんはテムラに何かしましたか?」
「・・・いや・・・」
「無抵抗の人に暴行する・・・それはどんな理由があろうとも非人道的だと思います・・・」
「・・・そうかもしれない・・・でも・・・大事な人を守る為に自分が悪になる時も・・・時には必要なんじゃないかな?」
「・・・大事な人?」
「だって・・・さっきも言ったけど、俺みたいな素性の知れない奴が・・・もしレギンみたいな奴だったら・・・それが大事な人だったら尚更・・・」
「・・・つまりテムラはアタルさんがあの人みたいな人かもしれないと思い、私を守る為にアタルさんを殴りお金を渡して私から離そうとしたと?」
「そうそう!」
「で、アタルさんも私が他の人といたらテムラと同じように気が気でないと?」
「うん?・・・まあ、そうだね・・・」
「もしエマが他の人と居たら・・・アタルさんは?」
「エマ?ああ、魔法少女か・・・いや、特には・・・」
「つまりエマは他の人と居ても気にならないけど、私が他の人と居ると気が気でないと?」
「え?・・・まあ・・・うん」
なんか話がズレていってるような・・・あれ?そういう話だったっけ?
「だったらいいです・・・テムラの事は許す気はないですけど」
許さんのかい!俺は何の為に・・・てか、何がいいって事になったんだ??
「早く行きましょ!服を買って、ランチして・・・ギルドに行ってお金を受け取らないと!」
「・・・はい」
「それと!もう嘘はつかないで下さいね!次嘘ついたら・・・」
「嘘ついたら?」
「知らない!」
なんじゃそりゃ
俺はシーナに腕を引っ張られ買い物に行く事に・・・それから色々と店を周り着せ替え人形の如く色んな服を着させられ・・・何故かこの世界の美容室的な所にも連れて行かれて頭を切られと髭も剃られ・・・ピッカピカの1年生並に身綺麗にされたのであった
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