第52話 夏休み
中西の誕生日から翌日。今日は一学期最後の日だ。
クラスメイトはようやく夏休みが来たかと言わんばかりに教室内ではしゃぎ回っている。
そんなはしゃぎ回っている奴ら以外にも、夏休みの計画を立てている者もいた。
それは俺も同じだ。昔の俺ならこんな時、一人で机に座りぼーっとしていたに違いない。しかし今の俺にはちゃんとした仲間がいる。
「龍ちゃん夏休みどうするよ」
「師匠! 夏休みはどこかに行きましょう!」
杉山や潮田が俺の席までやって来て夏休みの計画を一緒に立ててくれた。
こんな体験生まれて初めてな俺は当然どんな対応をすれば良いのか分からなくなる。
二人がどんどん話を進める中俺は置いてきぼり。
「プールとかいいじゃんじゃん!」
「夏祭りもいいですよ!」
最初は二人だけで話しているようにも見えたが、ちゃんと俺と目を合わせて会話を進めてくれていることに気づく。
第一印象が悪い奴でも関わってみたら変わるもんだな。
「けど龍ちゃんはやっぱ中西ちゃんだろ?」
急に「中西」という単語が出て来たことに思わず動揺を見せる。
「やっぱそうですよね~。師匠も好きな人と一緒にいたいですよねぇ~」
「好きじゃねえよ!」
俺は潮田の言葉を思い切り否定する。
しかし潮田と杉山は口をポカーンと開けて「何言ってんのこいつ」と言っているように感じた。
「な、何だよ」
俺は少し動揺しながらそう問いただす。
「まったく、龍ちゃん自覚なし?」
「自覚って何だよ」
俺は固唾を呑んで杉山の言葉を待つ。
すると杉山は呆れたような表情で口を開いた。
「龍ちゃん中西ちゃんのこと絶対好きっしょ」
俺はその言葉を聞いて肩をビクッと跳ねさせる。
そんな俺の様子を目にした杉山はニヤッと笑い再び口を開く。
「やっぱその焦りは、絶対好きだな」
「だから俺は中西のことなんか......」
「はいはい分かった分かった。龍ちゃんは気づいてないだけ」
杉山は俺の言葉を遮るようにそう言った。
俺は杉山の言葉に反論すべく口を開こうとするが又しても杉山に阻止される。
「中西ちゃんのことを考えたらどんな気持ちになっちゃうのかな~?」
茶化すようにそう訊いて来る杉山。全くこいつはこんな一面があるからたまにイラっとする。まあ、こいつのこういうところも一つの個性なのかもしれないな。
「どんな気持ちって......そんなの分かんねえ」
「じゃあ今考えてみてよ」
こいつどこか楽しんでないか。俺はそんなことを思いながら頭の中で中西のことを考えてみた。
杉山と潮田の視線が物凄くこちらに向いている。肉食動物に狙われている気分だ。
まず最初は中西の顔が浮かんでくる。その次に中西の色々な表情。そして、首より下の部分が何故か脳内に浮かび上がってきた。
何故か無意識に嫌らしいことがどんどん思い浮かんでくる。
そのせいか俺の顔は真っ赤に染まり頭から湯気が出ている感覚に襲われた。
そんな状態の俺を見た杉山と中西は大声で笑い出す。
「てめえら」
「もうその顔は絶対好きだって! ぶははははははは」
独特な笑いを繰り出す杉山。
「師匠認めましょう。クスクスクスクス」
こちらも独特な笑い方だった。
「クソがぁぁぁぁぁぁ」
俺は真っ赤な顔色のままそんな雄たけびを上げたのだった。
夏休みに入って数日が経った。
俺は朝早くにバタバタ準備をしている。
今日はみんなでプールに行くことになっているからだ。
俺は遅刻が嫌いなので予定より一時間早く集合場所に着くように決めていた。
水着やお金を鞄に入れ、忘れ物がないか確認し家を出る。
待ち合わせ場所は俺がいつも利用している駅の改札口。
いつも学校の登校で使っていて慣れているせいかものすごく早く到着した。
しかしまだ俺以外の人影は見当たらない。そりゃそうだ。一時間も早く来れば俺が一番に決まっている。
寂しさというより誇らしさが勝っていた。
しかし浮かれていた俺のもとに一人の女子が近寄ってきた。
「おはようございます! 龍星さん!」
俺は声のした方に視線を移す。するとそこには中西の姿があった。
「はやぁーーーー!」
話を聞くと中西は俺よりも30分早くここに来ていたらしい。
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