第49話 誕生日

「どうしたの龍ちゃん?」


俺が自分の席で財布の入ったピンク色のラッピング袋を眺めていると杉山が話しかけて来た。


「いや、何でも」


俺の言葉を聞いた杉山はこの場から立ち去ると思ったが、俺の予想とは反対の行動を取った。


「そのピンクの袋何かなぁ~?」


杉山はこの場に残り袋を指さしながらニヤニヤ笑っている。


そんな様子の杉山を見た俺は慌てて袋を鞄の中に隠した。


何かこいつにだけは見つかってはいけない物だった気がする。


しかし俺の慌てた様子を目にした杉山が簡単に見逃すわけもなく俺の方に近づいてきて口を開いた。


「隠すなってぇ~。何か分っちゃったぁ~。それ中西ちゃんに渡すやつだよね?」


「何でお前それを......」


「分かるんだよ~。龍ちゃんがこんな物持ってるのおかしいもん」


杉山はクスクス笑いながらそう口にした。


「はあ。バレてんのかよ。そうだよ、お前の言うとおりだ」


「やっぱね! けど何でプレゼント? 誕生日かなんか?」


杉山は首を傾げてそう問いただしてきた。


何でこいつにそんなことまで教えなきゃならねえんだ、と思ったが隠しても見破られそうだ。それなら隠すより教える方がいいのかもしれん。


「誕生日だ」


それを聞いた瞬間杉山は手で口を隠し目を見開いた。


そんな表情の杉山を見て驚きを隠せないでいる俺。


お互い黙っていることで沈黙の時間が続く。


しかしその沈黙を先に破ったのは杉山だった。


「そっかー誕生日かぁ~。何で龍ちゃんは中西ちゃんにプレゼントを渡そうと思ったの?」


俺はその質問を聞いて黙ってしまう。何度も何度も口を開きかけたがすぐに閉じてしまう。


何て答えればいいのか分からないからだ。


本当に何で俺は中西にプレゼントを渡そうと思ったのだろうか。


両親がいなくて可哀想だから。それもあると思う。けどそれ以外に何か違う思いがあった。


その思いが何なのか俺にはまだ分からない。


色々迷った結果俺が口にした言葉はこれだ。


「分かんね」


そんな一言を聞いた杉山はニコッと笑って口を開いた。


「そっか。分からないか! 俺は分かるんだけどな......」


杉山の言った最後の言葉が上手く聞き取れなかった。


「何だって?」


俺の言葉を聞いた杉山は満面の笑みを浮かべて口を開く。


「何でもない子ちゃんだぜ! まあ、頑張れよ龍ちゃん!」


グッドポーズをしてウインクをした杉山。


何を頑張るのかいまいち分からなかったが、この場での頑張れはプレゼントを渡すことを頑張れという意味だろう。


「あ、ああ」


杉山は満面の笑みを浮かべてこの場から去って行った。


「師匠それは絶対......」


離れた場所から潮田がそう口にしたことを俺は知る由もなかった。






学校が終わってプレゼントを渡そうと思ったが生憎今日はバイトだ。


だから俺は中西のこのようなメールを送っておいた。


『今日お前に用事があるから9時にいつもの駅に来てくれ。バイトが終わったらすぐに行く』


このメールの返事がこうだ。


『駅じゃなくて龍星さんのバイト先まで行きますよ!』


わざわざ家から遠いバイト先まで来てくれるらしい。


何度も駅でいいと送ったが中西は諦めが悪く結局俺のバイト先になった。


このようなメールをして4時間が経った。


「お疲れっすぼっち先輩!」


あの事件の前まで林は、バイト先で俺のことをぼっち後輩と呼んでいたが、あの事件以降林はバイト先で俺のことをぼっち先輩と呼ぶようになった。


『ぼっち』が付いていることに変わりはないが、先輩って呼ぶようになったってことは少し俺の見方が変わったのだろう。


少しムカッとするが少し嬉しい気もする。


そんなことを考え黙り込んでいる俺を林は不審に思ったのか気持ち悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「どうしたの? 何か考えてるみたいだけど」


「何でもねえよ」


俺はそう言って制服に着替えるべく鞄を開ける。


するとその瞬間林が大声を上げた。


「あっ! 何その嫌らしい色をした袋は!」


「何っ⁉」


——しまった。鞄からはみ出した袋を林に見られた......。


こいつにだけは見られたくなかったのだが......見られてしまった。


俺は鋭い目つきで林を睨む。袋の件には触れるなという意思を込めて。


しかし林には何も通じなかったらしく、俺にとって都合の悪い言葉を口にしてしまった。


「それプレゼントだよねぇ~。誰に~?」


とての興味津々そうにそう訊いて来る。


けど俺はそんな簡単に教えてやるほど優しくない。


「お前には教えねえよ」


「何でだよぉ~」


林はしょんぼりとして俯いた。


ふざけているのかと思ったが本当に落ち込んでいるらしい。


「何で急に元気なくなるんだよ」


「だってぼっち先輩が教えてくれないもん」


林は頬をぷくーっと膨らませてそう言った。


しかし俺はそんな顔を見せられても教えるほど甘くない。


「だっててめえすぐに言いふらすじゃねえか」


「言いふらさないって!」


「でもなぁ」


「言わない!」


真剣な眼差しを俺に向けてくる。絶対に言わないと言っているが信用していいのだろうか。


もういいか。隠し通すのも結構疲れるし。


結局俺が折れて林に詳しく説明した。


話を聞き終えた林は一時何も言わなかった。


俺はこの静けさに耐えられなくなり思わず口を開いてしまう。


「どうしたんだよ。やっぱおかしいか?」


俺がそう言うと林は、はっとして我に返り慌てて口を開く。


「ぜ、全然おかしくないし! めっちゃいいと思う! ぼっち先輩にしてはいいことするじゃん!」


「何だよぼっち先輩にしてはって」


俺が怪訝そうな顔をしいると林は大笑いを起こし口を開いた。


「絶対喜ぶよ! 頑張れよぼっち先輩!」


林も杉山と同様にグッドポーズをした。


「何だお前にしては優しいじゃねえか」


俺はそんな林に見送られ店を後にした。


ここを出たら中西がいる。


それより気になっていたが、今から告白するみたいな空気になっているのは気のせいいだろうか。


そんなことを感じながら俺は中西の方に向かったのだった。





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