第62話 「スマホ」だって、使い方次第

 「じゃあ、上本君、どうぞ」

 今度はたまきちゃんが、上本君に話を振る。ぼくらの息子よりいくらか年下の今時の大学生は、どんなことを考えているのだろうか。


 上本健太と申します。

 諸先輩方の素晴らしいお話ばかり拝聴して、私ごときがここでお話していいのかとも思うのですが、お言葉に甘えまして、お話させていただきます。


 かなり背伸びした挨拶をしたようだが、話し始めれば、いかにも今どきの青年らしい話をしてくれた。実は、その話に一番興味深く耳を傾けているのは、ぼくらおじさんたちよりもむしろ、はーちゃんだ。これまで「大学の講義」みたいな話を聞かされているような思いで話を聞いていただろう彼女の眼が、少しばかり輝きを帯び始めた。たまきちゃんに言わせれば、はーちゃん、上本君がどんな青年か、前日からかなり興味を持って、根掘り葉掘り聞いていたとのこと。米河サンに聞きなさいよというと、「鉄道マニア」としての上本君じゃなくて、同級生としての上本君がどんな人か知りたいんです、と言っていたそうな。一方の上本君は、前日にはーちゃんのことをマニア氏とぼくに聞くには聞いてきたが、特に詳しく聞くわけでもなく、出自を聞いて、そうですかと一言言っただけだという。ぼくに対しては、どんな子ですかと少し聞き出そうという感じがするにはしたが、写真を送ってくれとか、そんなことは言ってこなかった。もっとも、彼も前日から、何かを感じていたような雰囲気は感じられたのだが。


 私は中高一貫の板宿中学高校の出身であると申し上げていますけれども、そもそもなぜ、板宿を受験したかというと、鉄道研究部があったからです。ぼくは、米河さんみたいに小学生で大学の鉄研から「スカウト」されるような素質も実力も情熱もありませんけど、中学高校の部活動としてなら、ぼくでも行けば確実に受け入れてくれるなという安心感はありました。小6のとき、いくつかの学校のオープンスクールに行きまして、鉄道研究部がある中高一貫校で、しかもその中でも一番雰囲気がよさそうなのが板宿中学高校でした。今思うと、本当に、板宿中高を卒業できてよかったと思っています。

 うちは男子校ですから、当然、女子はいません。「鉄道研究部」とか「鉄道研究会」なんて名乗ったら、確かに、女子には入りづらいところがあるかなとは思いますけど、うちなんて、はなから男子校ですよ。女子に一切気を使うことなく、活動できましたね。文化祭のときも、他はともかく、うちの展示会場は、女子の来場はあまり期待できませんでしたし、実際よその出し物よりは少なかったように思います。でも、近くの商店街とタイアップしたイベントのときには、プラレールを走らせて、親子連れの子どもさんたちに、非常に喜んでもらえました。トークイベントもありまして、それにも出ましたけど、どんな列車が好きかとか、列車の旅をしてこんな楽しいことがあったとか、そんなことを話したら、皆さんからとても面白かったと、お褒めもいただきました。

 米河さんは、大阪の大学で大阪国大や河内商大の先生方の講演があるからと言って、わりに早く帰られましたけど。その時お話させていただいた時に、かなり昔、


 鉄道「ファン」=暗い人たち、鉄道「趣味」=暗い趣味


というイメージを持たれていた時期があるという話もお聞きしますけど、ぼくには、そういう実感は、ないですね。そんなふうに見られていた時期があるなんて、2年前の文化祭で米河さんからお聞きして、初めて知ったほどですよ。


 「上本君が鉄道ファンだとしても、「暗い」人には、全然思えないけど・・・」

 はーちゃんが、ここで一言。上本君の顔色が少し赤身を帯びた気がしたが、これは、おそらく、下種の勘繰りというものであろう。

 たまきちゃんもそのとき、はーちゃんに目をやり、何やら感じたそうだが、それについてはあえて申し上げないでおきます。


 先ほどから、いささかスマホが悪く言われているようですけど、ぼくは、スマホ自体に罪があるとは思っていません。スマホを持っている人の「すべて」が、目の前で起こっていることに興味も示さずスマホ画面ばかり見ているなんてこと、ないでしょう。確かにそういう人がいるのは事実ですが。ぼくは、青春18きっぷなどを使ってあちこちを「旅して」回りました。

 中学以来の6年と、大学に入って1年と何か月かの間ですから、先輩方ほどの経験もしてはいませんし、大きなことは語れません。確かに、旅先で会った人と話したり、まして住所を交換したり、そういうことをする機会は、先輩方よりも少ないでしょうが、SNSのアドレス交換は、時々、していますよ。正直、先輩方のお話を聞いていて、うらやましいところもありますけど、私たちの世代も、先輩方の世代に負けないほど、人とのつながりを作っていく自信はあります。

  

 スマホも、うまく使えば、ぼくらだって、先輩方ができないような、いい意味での人とのつながりを作って、維持していけると、ぼくは思っています。

 確かに、スマホは犯罪とか、良からぬ人とのつながりを作ってしまうリスクはあります。その啓発と対策は、確かに大事です。

 しかし、それ以上に、人とのつながりをいい意味で、作り損ねることなく人と人とをつなぎ、できたつながりを維持していくためのツールになる可能性を秘めているのではないかと思うんですけど、どうでしょうか?


 ここでマニア氏が、満面の笑みを浮かべ、口を開いた。


 上本君の主張は、実にバランスも良く、現実に即していると思われます。簡潔かつ明瞭、筋も通っています。

 スマホもそうですが、各種SNSにもね、私は、同じ可能性があると常々考えていますがね、より効果的な活用法も含めて。私はね、こういう若い人がいる限り、日本も捨てたものではないと思っております。スマホの可能性、いやこれはね、ほぼイコールでネット社会の可能性だと思われます。

 ネット社会が、これまでの活字社会を大いに変革しているのです。40年も前なら「活字」にするということは、単なる「手書き」から、公に出すための大きな作業の意味合いがありましたけれど、今は、誰もが気軽に、それこそ「カジュアル」に、「活字」を使いこなせる時代です。

 そういう時代ですから、使うか使わないかに関わらず、スマホことスマートフォンの持つ特性と、その可能性について、私たちは真剣に考えないといけなませんな。

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