第67話 まさかの関係に
あぁ、ドキドキする本当に大丈夫かな?
ミューリィさんは、リルを逃がしたふりをしたらすぐに姿が消えた。だから報告に戻っていると思われるからリルをどうしたか知っているはず。
魔法は発動していると思うんだけど、ポーチの中にいるリルが僕には見えるんだよね。部屋が作られただけで見えちゃっているのではないのかと心配なんだ。
『大丈夫だろう。もし不安なら言う前にポーチを見せて反応を見ればいい』
え~! もしそれでポーチに居るリルが見えたらどうするのさ!
『そうしたら逃がしたふりをしましたって言えばいい。あいつらは、それで納得すると思うぞ』
納得するの? 変に思われると思うけど。というか、僕ってそんなに頭悪く思われているの!?
『そういう天然キャラだと思われていると思うと言っている。心配するな』
ひどい……。
『まあ最悪リルが見えたとしても彼らは取り上げたりはしない』
本当? リルはバレたら困る存在なんでしょ? ニーナにリトラさんとかが預けに行くかもしれないじゃないか。
『いや君を怒らせる事はしないだろう。なにせ君の凄さを目の当たりにしているからな』
凄さ? それどんなの? 僕は今、魔法がない状態って事になっているんだけど?
『君がもし負の遺産を手にした時、呪いを受けず扱える人物だって事をだ。凄い力を呪いを受けずに使えるんだ、脅威だろう。だが君はそういう考えに及ばない人物だと相手はわかっている。しかし人は、呪いを受けずとも負の感情で動けば何をするかわからない。それもわかっているからな』
つまり、お人よしの僕でも怒りを買えば、歯向かうかもしれないって事を言いたいの?
『そういう事だ。しかもディルダスは、私が君の中に居るのを知っている。今回逃がせと言ったのも私だと気が付くだろう』
わかったよ。とりあえずそうやって確認するしかなさそうだし。
はぁ……。
僕は、パーティーギルドの建物の前で大きなため息をついたのだった。
◇
トントントン。
「入れ」
ギルドマスターの部屋をノックすると、誰かも確認せずに返事が返ってきた。
「戻りました……」
ぼそっと呟くように言って僕は部屋の中に入った。思った通りミューリィさんがいた。キモンさんも戻ってきている。
「魔狼はどうしました?」
キモンさんが聞いてきた。それに反応したかのように手をポーチに持っていく。
「あ、えーと……」
全員、ポーチに視線が集まった。そして、ハッとしたようにミューリィさんがポーチを覗き込んだ。
「……いないわ」
ボソッとつぶやく。
どうやらミューリィさんには見えないらしい。
『もしかしたら魔素が見える者が部屋の中を見る事ができるのかもな。だったらここの奴らには見えないだろう』
あ、なるほど。ならいいか。
僕はホッと安堵する。
「あの、すみません。逃がしました」
僕は謝った。
ミューリィさんが見ていなかったとしても確認をすれば、渡したかどうかはすぐにわかる。それに渡したと嘘を言ってもニーナに迷惑をかけるからね。
はぁ。っと、全員ため息をついた。
「どうして逃がしたのだ?」
「その方が、リルにとっていいと思ったからです。普通の犬に見えるのだから捕まる事もないですよね?」
ディルダスさんの問いにそう答えた。
実際、リルが魔狼だと知っている者が探さない限り、犬に鑑定などしない。ディルダスさんが探さない限り、リルは見つからないという事になる。
「なるほどな。まあいいだろう。この後、調査隊の調査が入るだろうが、君には三角関係になってもらう」
「え? どういう事?」
「チェミンとレモンス、それと君が三角関係だ」
「え~~!!」
あり得ないんだけど!!
『あははは。面白い事を考えるものだな。いいではないか乗ってやれ』
他人事だと思って!
ディルダスさんの作戦に協力したいけど無理があると思う。
「嫌そうな顔をしているが、君がとった行動をそうしないと説明できないからな」
「僕がとった行動?」
「何もできないと思われている君が、街へ向かったのだ。どう説明する気だ? 好きな娘を助けに走ったという筋書きしかないだろうに」
「………」
そうだった。魔素を消してスライムを倒せるのが僕しかいないと思って、街へ向かったんだ。それをジグルさん達は見ている。
『確かに彼らを説得するのにはそう説明するしかないだろうな。逆に全員そう思わせれば、疑われる心配もない。街での活躍は、誰も知るところではないのだからな』
僕が魔法を使ってスライムを核にした事を隠すにはこれしかないの? そんなぁ。またあの親子に関わる事になるのか……。
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