第39話 彼の夢

 『騙したのは悪かったが、別に変な事をさせようと思ったわけではない』


 じゃ何をさせようとしたの? って本当はどうして死んだの?


 『私を取り込む者の条件を作る為、魔眼を利用した』


 あ、MPの最大値?


 『そうだ。まさか呪い耐性がある者に取得されるとは思わなかったがな。呪いを受けないと知り、私が作った魔法を取得させることにしたのだ』


 え? なんの為に?


 『もちろん、大魔導士になってもらう為にな』


 はぁ? 何それ!


 『私の夢だ。いくら作っても呪いの魔法しか出来なかった。だから前世では諦めた。知識を持って体を得る為に考えついたのが、魔眼だったのだ。呪いの耐性があるのなら、どうせなら自分の魔法を回収したいと思うだろう、普通は!』

 「な、なんて迷惑な!」

 「誰と話している?」

 「え……」


 やばい。

 凄い鋭い目つきで見つめている。片目なのに眼力が凄いんだけど。


 「何となくだが、君以外の人格があるのではないか? そう感じる時があった」

 「う……」


 鋭すぎる。


 『さて、どうする? 私は、別にどちらでもよい』


 ずるい! いつもはこうしたほうがいいって言うくせに!


 「キモンは、君の一人芝居だと睨んでいるようだったがな」

 「ひ、一人芝居?」

 「偶然を装い洞窟に行き魔素の充満した洞窟を発見。その後、その魔素を回収し、自分の仕業ですという。そして、襲われた事にしてあたかも違う真犯人がいるかのように見せかける」


 何それ……。


 『本気でここに閉じ込める気だったようだな。しかし、何の為にペラペラと情報を我々に話したのだ?』

 「どうして僕にその話をするんですか?」

 「俺はそう思ってはいないからだ。キモンは、魔狼まで手懐けている君に警戒していた。だが違う人格が潜んでいるとまでは気づいていないようだ」

 『どうやら彼の中では、私が君の中にいる事は、先ほどので確信にかわったようだな』


 もう隠しても無駄って事ね。


 「信じてくれるかどうかわかりませんが、先ほど名が出てきたリレイスタルさんが僕の中にいます」

 「何!? 彼が? だとしたら彼と直接話せるか?」

 「直接って?」

 「君を通さずにだ」


 それって僕が乗っ取られるって事じゃないか!


 『大丈夫だ。そんな事が出来るのなら既にしている』


 よかった。


 「できないみたいです」

 「そうか。できないか。では、彼だという証拠は何かないか?」

 「え?」


 他の人格がいるって思っているけどリレイスタルさんだとは思ってないって事?


 『確証がほしいのだろう。でなければ、キモンを納得させる事が出来ないのではないか』


 そっか。で、あるの?


 『うーん。まだ今現在の状況把握も全てできていないし、時代が変わりすぎている』


 僕に話した事って本当なの?


 『あぁ。ただ軍事的な事にも協力しろと言われそれから逃れる為に、自分を封印したという事が違う。だいたい、君が知らなくて彼が知っている私の事など、どう証明すれというのだ』

 「……ないそうです」


 確かにそうなんだよね。僕が語るんだからそうなるよね。


 「やはりそうか。では今回の件、魔導士から見てどう思う?」

 『なるほど、そうきたか。面白い受けて立ってやる』


 あのね、喧嘩じゃないでしょうに。


 『私に挑んできたのだ。答えてやろう。スライムはカモフラージュ』


 そういえばさっきそんな事を言っていたっけ?


 『本当の狙いは、リルに君を殺させる事だ。魔素耐性があるのはわかっているはずだからな。リルの封印を解き来たのだ。スライムと格闘している隙に君は、魔素酔いした魔狼のリルに殺される予定だった。見ていたと言っても洞窟の外でだろう。どうやって魔素を取り除き、呪いを解除したのかまでは知らないはずだ』


 そっか。魔素耐性がなければ、長い間は居られない。


 『あぁ。どうやって魔法陣を元の方に描いたかは謎だが、あの洞窟は描き終わってから魔素が流れてくるからな。充満する前に出れば済むことだ。モンスターは、魔素を充満させる前に鈴の音を使って、洞窟に誘導させておけばいいのだからな』


 スライムはいいとしても、ゴブリンの時はどうするの? 冒険者が居てもあの数は無理じゃない?


 『何かんたんな事だ。まずゴブリンキングを魔素酔いさせる。その場に留まらせるマジックアイテムがあればできる。これは戦闘用に私の時代でも作られていた物だ。後は簡単だ。ゴブリン達は、ゴブリンキングに従う。一応、ゴブリン達も魔素酔いさせる為一時的にでも魔素の中に居させたのだろう。その後、夜に大移動させた』


 それなら可能かもね。スライムを50体、あの草原まで移動させてきたのだから出来るかもしれない。


 「おい、マルリード!」

 「あ……すみません。話し合いに夢中になってました」


 僕がそう謝ると、あきれられてしまった。

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