第36話 意外な刺客

 リーン。リーン。

 うん? 鈴の音?


 『おい、起きろ!』

 「うん? 何?」

 『魔眼を使ってテントの外を見れるか?』


 テントの外?

 そう魔眼の凄いところは、テントぐらいなら外の魔素も感知できるって事。昼間だとやりづらいんだけど、暗いと勝手に魔眼を使って見ているから今も暗く感じない。


 テントの外は……何これ!?


 僕は、がばっと体を起こした。


 『囲まれているな』


 人影が一つ。たぶん、その人が鈴を鳴らしている。そして、その鈴の音に誘導されたのだろうモンスターが草むらにいた!

 数は50体はいる。ただし、フォルムからいうとスライムだ。


 「え? スライムを連れてきたの?」

 『ただのスライムではないだろう。この濃さ。魔素酔いしているだろう』

 「……それって」

 『あぁ、これで移動方法がわかったな』


 この鈴の音で誘導していたんだ。魔素酔いさせた理由もこれでわかった。どういう仕組みかわからないけど、鈴の音で魔素酔いしたモンスターを操っているに違いない!


 『たぶん、鈴の音が鳴りやむと魔素酔いしたモンスターが、本来の様に暴れだすのだろう』


 って、スライムだといえ、50体が一斉に襲って来るって事だよね!


 『そうだな』


 僕は、慌ててテントの外に出た。

 遠くに人が見え、慌てて去って行く。そして、鈴の音が鳴りやんだ。


 がさ。ぴょ~ん。


 「うわー!」


 突然スライムが突進してきた。何とかかわし剣を手に構える。


 『しかし、なぜ君が狙われたのだ? どこかであの時、見ていたか?』


 かもしれないね!


 ぴょ~ん。


 「てい!」


 カキン!


 「え……硬いんだけど!」


 一般人でも倒せるはずのスライムは、ロングソードで切れない程堅くなっていた。


 『百発百中だ! 剣が通れば倒せるのだから』


 だね!


 「百発百中!」


 ざん! べちゃ!


 「ぎゃ~! 何これ!!」


 スライムは切れて倒すことはできたけど、ねっとりした液体になって僕にかかった。切ったら飛び散ったんだ。


 『そういえば、スライム系は魔素酔いするとなぜか、ねっとりした液状化になるというのを聞いた事がある』

 「気持ち悪いんだけど!」

 『そんな事を言っていると、テントを狙われるぞ。自分に引き付けないとリルがやられるぞ』


 そうだった!!


 「もう! 百発百中!」


 こうやって僕は、夜中に魔素酔いしたスライム退治を繰り広げたのだった。



 「おい! マルリードしっかりしろ!」

 「う、う~ん」

 『呼ばれているぞ。そろそろ起きろ』

 「うん……」


 目を開けると、草が目の前にあった。視線を上げると心配そうに見下ろしているリトラさんだ。


 「何があった?」

 「ここら辺、ねっとりした黒い液体がばらまかれているな」

 「気持ち悪いわ」


 そうだった。夜中にスライムと格闘して疲れ切って寝てしまったんだった。


 「あ! リル!」


 僕は、がばっと起き上がりテントへと走った。中を覗くとリルが嬉しそうに寄って来た。


 「よかった。いた」

 『あの後、消えた人物は現れていない。見にも訪れなかったな。まあ普通は、あんな暗闇じゃ何も見えないからな』

 「そっか……」

 「そっかじゃない。何があったか説明しろって」


 リトラさんが、後ろからそう声を掛けてきた。


 「そうだった。昨日……あ、べちょべちょって、黒いの?」


 色まではっきり暗いとわからないけど、魔素酔いしたスライムは黒っぽくなるみたいだ。体についた液体は黒かった。


 「この液体はなんだ?」

 「スライムです……」


 ロメイトさんに問われたので答えると、三人とも驚いていた。


 「まさか魔素酔いしたスライムに襲われたのか!」


 ロメイトさんが驚いて聞いて来たので、そうだと頷いた。


 「魔素酔いしたスライムは、ねっとしりた液状状態になるとは聞いた事はあったが……どういう事だ?」

 「この量、半端ないわよね? 一体何体いたのよ」

 「たぶん50体くらいです」

 「それって、君が狙われたって事か?」

 「たぶん」


 ロメイトさんの問いに頷いて答え、改めて自分の姿を見ると真っ黒だ。


 「まずは、クリーンしてもらえ」

 「はい」


 自分でできるけど、ここはしてもらいに行こう。


 「まずい、ここを離れるぞ」

 「魔素酔いする前にそうしよう」

 「そうね」

 「え! これで魔素酔いするの?」

 「耐性があると言っていたのは、本当だったようだな。一晩この中にいて平気なのだからな」

 「うらやましいぜ」


 そうなのか……リルをテント内に残しておいてよかったよ。

 僕は、リルをいったんリトラさんに預けてクリーンをかけてもらい、ロメイトさんがダリリンスさん達に草原の後処理をお願いした。

 どうしてこうなったと問われたらしいけど、スライムに襲われたとだけしか言えなかった。

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