第23話 到着3日目・夜


 シンデレイラ家の方々が皆さん賛同したので、スエノさんは『右翼の塔』の地下室、宝物殿でもありますが、ここで過ごすことになりました。


 この部屋の鍵はパパデスさんが持っているものひとつしかなく、マスターキーでも開かないということなので、スエノさんが人狼であった場合は誰も犠牲になることはないでしょうし、スエノさんが人狼じゃなかった場合でもスエノさんは安全だと言えます。


 ジニアスさんもスエノさんが安全なら逆にありかもしれないと、渋々、了承したのです。




 昼食も夕食もスエノさんは『右翼の塔』の地下で済ますことになり、ジニアスさんとシープさんが付き添いで一緒に過ごされました。


 私たちはダイニングルームで遅い朝食、昼食かもしれませんが、それをいただきました。


 その後は自由に過ごし、またダイニングルームに集まり、夕食を済ませました。




 メッシュさんの料理は本当に美味しくて、こんな暗い雰囲気の中、一条の光と言えますね。


 新鮮なロブスターがたっぷりのったロブスターロールが本当に美味しかったですね。あの「赤毛のアン」で有名なプリンス・エドワード島の名物で、プリップリのロブスターは、一口食べると口の中ではじけるような食感で、もう最高!


 本当にこのロブスターを食べるととても元気になれました。




 また、この山荘のあるカナダは新鮮な魚介類の宝庫として知られており、特にサーモンは有名です。そんなシーフードをふんだんに使ったカナダ料理が美味なんですよね。


 カナダを代表する魚、サーモンのグリルがまた美味しかったのです。カナダのサーモンは日本とは違い養殖ではなくロイス湖で穫れた天然もので、そのため味がしっかりして肉厚があり、付け合わせのアスパラガスや、マッシュポテト、メッシュさんのオリジナルソースと一緒に食べると絶品でした。




 そして、今度は夜の過ごし方について検討がなされました。



 「各自が部屋に閉じこもるというので、問題ないのでは?」


 ジェニー警視もスエノさんを怪しんでいたようで、もう問題は起きないと思ってらっしゃるみたいです。




 「まあ。それしかないでしょう。」


 パパデスさんも賛同の意を示した。



 「念の為、本当に出ないでいただきたい。特に昨晩夜に部屋を出られた方……。アネノさん。あなたもですよ? 例外なくお願いしたい。」


 「わ……、わかったわよ。仕方ないわ。まあ、どうせスエノさえ閉じ込めておけば安心だと思いますけどね。」


 コンジ先生がアネノさんに釘を刺したみたいです。




 「ワタシは神に祈祷をしまショウ! 必ずや主は我らを救ってくださるデショウ!」



 アレクサンダー神父はまたお祈りを捧げに『左翼の塔』に閉じこもるようです。


 まあ、完璧に神父さんは容疑の外なんですけど、逆にそのお祈りも何の役にも立っていない気がするんですけど……。




 「さて、今日はワタクシもシャワーは遠慮して、部屋に戻らせてもらいますよ。」


 ビジューさんもさすがに人狼の存在を知って警戒をしているようです。



 「それでは、僕も……。部屋にいることにするよ。」


 ジニアスさんは元気がない様子でした。


 それもそっか。恋仲になったスエノさんが第一容疑者になっている状況なのですから。






 「じゃあ、俺も今日はおとなしくさせてもらうとしますよ。まあ、来る女性がいたら……。拒まないけどね?」


 「イーロウ!?」


 「おっと。冗談ですよ。冗談。」


 イーロウさんの軽口に、アネノさんも驚いて反応した。



 イーロウさんも今日はおとなしく部屋にいてくれればいいのですけど……。


 ホント、チャラいヤツ……っていうのがぴったりだわ。




 「私たちももちろん今日は部屋で過ごしますよ。ねぇ? アネノ?」


 「もう! ママったら。今日はおとなしくするってば。ねえ?ジジョーノも言っておやりなさい。」


 「そ……そうよ。おとなしく部屋にいますよ。姉さんもね?」


 「そうよ。そうよ。」


 「もちろん私もシュジイ医師に診てもらった後はすぐに寝るとするよ。」


 「はい。パパデス様。」



 パパデスさん、ママハッハさん、アネノさん、ジジョーノさん、シュジイ医師もそれぞれ部屋に戻っていった。




 メッシュさんとシープさんが夕食の後片付けをしていた。


 そこで、私はコンジ先生に聞いてみた。




 「コンジ先生。先生は本当にスエノさんが怪しいと思ってます?」


 「ジョシュア。君はどう思ってるんだい?」


 「うーん。たしかに深夜のエラリーンさん、カンさんの死亡推定時刻に、うろうろしていたのは怪しくは思いますけど……。それだけで犯人とは決めつけられないのかなぁ……って。」


 「ふむふむ。」




 「他にアリバイがない人もいますので、あ、もちろん、私やコンジ先生もですけど。」


 「そうだね。アレクサンダー神父、アネノさん、イーロウさんの三人以外には、機会は等しくあったろうね。」


 「ですよね。他にいるんじゃあないのかなって思いますけど。」


 「なるほどね。僕も実はジニアスさんやスエノさんは違うんじゃないかな……とは思ってる。」




 コンジ先生はスエノさん、ジニアスさんも違うと考えているのか……。



 「え? スエノさんもジニアスさんもですか?」


 「ああ。もし彼らのうちのどちらかが人狼だったとしたら、昨夜は互いを襲うのに絶好の機会だったと思わないか?」


 「ああ! たしかに!」




 言われてみればそうですよね。


 スエノさんが犯人なら、ジニアスさんを襲うことは簡単だったでしょうし、その逆もそうです。



 「でも、なぜ、それをおっしゃらなかったのですか?」


 「ああ。それはスエノさんの身は安全になるのは間違いないからね。それと……。他に人狼がいるのなら、今晩は動けないんじゃないかと踏んでいるんだ。」


 「え? どうしてですか?」


 「うん。まあそのためにも君には頼みたいことがあるんだ。同じことをシープさんにもさっき頼んだからね。」


 「何でしょう? 私にできることですか?」


 「まあね。」




 ボソボソ……



 「ええ!? それ、私がやるんですかぁ? コンジ先生やってくださいよー。」


 「いや、ほら。僕はちゃんと睡眠取らないと、頭脳が働かなくなるからね。君はいいだろう? どうせいつも働かない頭なんだから。」


 「いやいや。乙女の肌は徹夜に悪いんですからね!」


 「ん? 気にするな。どうせ君の肌なんて誰も気にしていないだろうから問題ない。」


 「いや! それ、ちょっと乙女心が傷つくんですけどぉ!」







 こうして私たちも部屋に戻り、私はだんだんと眠くなってきましたけど、コンジ先生に頼まれたことをしっかりやり通しますよ。


 ええ。もう、本当に助手使いが荒い先生ですこと。








 ◇◇◇◇





 ~人狼サイド視点~



 はぁ……。はぁ……。はぁ……。




 頭が割れそうだ。


 この心の奥底から湧き上がってくる欲望は……またか!?


 そして、血の渇望……。




 苦しい……。


 胸の鼓動がそして異常に大きく、心臓が張り裂けんばかりに叫んでいる。


 そして、全身の細胞という細胞が、それに応えるのだ……。





 『喰らえ!!』



 ……と。




 おのれの心から湧き上がるこの狂い悶そうな感情。


 これは愛……なのであろうか?


 結婚していたことはあったが、そこに愛はなかった。




 そして、知っためくるめく淫靡な時間。


 誰にも取られたくない。


 私だけのものにするのだ。




 「君は……!?」



 男は驚いた。彼女の顔を見て、欲情しているのだとすぐにわかった。



 「しかし……。そんなバカな…・・・!?」




 人狼は男にむさぼりついた。


 何度も何度も何度も……。





 いくほどか時間が経っただろうか?


 扉をノックする音が聞こえる。



 「ごめんなさい。来ちゃった……。」






 訪ねてきたのは女だった。


 すぐに男に化けた人狼は何食わぬ顔をして、その女を部屋に招き入れた。




 そして、女を抱きしめる。



 その手にはべっとりとさきほど喰らった男の血がついているのだったー。





 女は言った。



 「ああ……。幸せ……。」





 男に化けた人狼は言った。



 「ああ。幸せだね……。」






 そして、その牙の生えた口を大きく開いた。





 惨劇の『或雪山山荘』での宿泊は4日目へと移る―。






 ~続く~


※参照したお店と料理

レストランCactus Club Cafe (カクタスクラブ カフェ)の・GRILLED SALMON(グリルドサーモン)

また下記のサイトを参考にさせていただきました。

「TABIPPO」さんのカナダの絶品グルメ11選

https://tabippo.net/canada_gourmet/





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る