第22話 到着3日目・昼その5
ダイニングルームに集まったみなさんの視線がイーロウさんに集まっていた。
イーロウさんはエラリーンさんと交際していたのは周知の事実だったのですが、アネノさんが昨夜イーロウさんと一晩を一緒に過ごしたと告白したのです。
そんな中、イーロウさんが、やれやれと言った表情で肩をすくめてみせた。
「まぁ……。バレちゃあ仕方がないですね。そうですよ! たしかに俺は、昨夜はアネノさんと一緒でしたよ。」
「ほう? 認めるんだな? イーロウさん。それが本当なら、何時から一緒にいたんだね?」
ジェニー警視が聞く。
「深夜……、1時過ぎにアネノさんが俺の部屋を訪ねてきました。それから……、朝まで一緒でしたよ。」
「そうよ! 朝、みなさんが事件を発見して騒ぎになった時に、私たちも起きましたの。それから部屋を出て、着替えてからここに集まりましたのよ。」
アネノさんも追従する。
どうやら、本当のようですね。
そして、それが事実なら、アネノさん、イーロウさんはお互いのアリバイを証明しているので、容疑から外れるということになります。
それはコンジ先生もわかっているようで、なにか考えている様子で黙ったままでした。
「ふん……。それが本当ならアネノさんはアリバイがあるということになるな。」
ビジューさんが冷静に発言をした。
「ま……、まぁ、この際、アネノ。そのぉ……、イーロウさんとのことは置いておくとして、アネノは人狼ではないと証明されたということね?」
ママハッハさんが、娘であるアネノさんとイーロウさんの交際の是非はともあれ、アネノさんの容疑が晴れたことに関して言及した。
「まあ、そうなりますね。エラリーンさんとカンさんの死亡推定時刻は深夜2時から4時まで。この間ずっと、アネノさんとイーロウさんはお互い一緒だったと証言しているんですからね。」
コンジ先生もそこははっきりと認められました。
「他の方々の行動をまとめると……。」
ジェニー警視のまとめによると、シンデレイラ家の方々はアネノさん以外はアリバイなし。
パパデスさん、ママハッハさん、ジジョーノさんは自室でずっと寝ていたとおっしゃってますが、証言者はいません。
スエノさんは1時過ぎにアネノさんに目撃されてから、3時頃まではジニアスさんと一緒だったと証言されています。
……ですが、3時過ぎ以降、ジニアスさんの部屋を出られてからは自室に戻ったと本人の証言があるのみです。
メッシュさんの昨夜の行動は、夕食の後片付けをした後は自室で就寝され、朝5時にキッチンへ行き、朝食の支度をされていて、その後、6時過ぎにカンさんの死体を発見した。
シープさんは、昨夜シュジイさんと一緒にパパデスさんのシャワーの付き添いの後、コンジ先生を呼びに行き、パパデスさんの部屋で警備体制の相談をした後、自室に戻ったと。その後は、朝まで自室で就寝されていて、朝6時ごろ、イーロウさんがエラリーンさんの死体を発見した際、コンジ先生、ジェニー警視、私が現場に駆けつけた後、顔を見せています。
シュジイさんはシープさんと同様に昨夜はパパデスさんの部屋でシャワー付き添いをし、その後自室で就寝。やはし、朝まで眠られていて、朝、エラリーンさんの部屋に、シープさんの後に姿を見せていました。
他の方は、イーロウさんはジニアスさん、ビジューさん、イーロウさんとともにシャワーを浴びられた後に、深夜1時過ぎまで自室で過ごし、アネノさんとその後朝まで一緒だったと言うことで、完全にアリバイありですね。
アレクサンダー神父は昨夜に引き続き、『左翼の塔』で祈祷されていて、アリバイは完璧ですね。
ビジューさんはシャワーの後は自室にいたということでアリバイ証言はなし。
ジニアスさんはシャワーの後、スエノさんと深夜1時過ぎから3時頃まで過ごし、その後は、朝、現場にシュジイ医師の後に顔を見せていました。
私とコンジ先生、ジェニー警視は似たようなもので、昨晩、自室に戻ってからはアリバイなし。朝、イーロウさんの叫び声で、現場にいち早く駆けつけました。
犠牲者のエラリーンさんは自室で眠る前にはイーロウさんと一緒だったそうです。
イーロウさんは、朝になってエラリーンさんの様子を見に行かれたところで、死体を発見したという……。
また、カンさんはキッチンで後片付けを手伝った後、自室に戻ったそうです。
メッシュさんが最後を見たそうです。
どちらの被害者も最後に見た人が第一発見者とは皮肉なものですね。
つまり、深夜2時から4時までの間の時間、アリバイがあるのは……。
アレクサンダー神父、イーロウさん、アネノさんの3名。
他の方はアリバイなしとなりますが……。
「スエノに化けているんだわ! 人狼は!」
アネノさんがふたたび、スエノさんに疑惑の目を向ける。
「そ……そんなっ!? ち……違います!」
スエノさんも同じく否定する。
「化けの皮を剥がしてあげるわ!」
そう言ってアネノさんが嘱託を掴み、その蝋燭の火をスエノさんに近づけた!
「熱っ……!」
スエノさんは腕を押さえた。
少し赤くなって見える。やけどしたのかもしれない。
「何をするんだっ!?」
ジニアスさんが叫んでアネノさんを制止した。
「アレクサンダー神父! 人狼は昼間は人間に完璧に化けているのでしたわよね?」
アネノさんが神父さんに質問をした。
「オオ……。ソレは間違いありまセン! 記憶までコピーしているのデス! 見破る手段はないデショウ!」
アレクサンダー神父が断言する。
「ならば、このスエノを閉じ込めておけばいいわ! それなら、もう被害に遭うことはないはずよっ!!」
「そ……、そうよ! スエノを閉じ込めておけばいいのよ!」
「そうね。一番怪しいのはスエノ。あなたよ。怪しい者を拘束しておけば、わたくしたちの身の安全も図れるわ!」
ジジョーノさんもママハッハさんもアネノさんに賛成のようです。
「し……しかし、閉じ込めておくと言っても、いったいどこにだね?」
パパデスさんはがおどおどと言う。
ああ、どうもパパデスさんのこのシンデレイラ家での立場は低いようですね。
女性陣が強い……。
そうか。スエノさんだけ母親が違うということでしたね。
すると、浮気の子がスエノさんなのか。
どうりでみなさんのスエノさんへの当たりがきついと思ったわ。
「スエノお嬢様が……? カンのヤツを……? 信じられない……。」
メッシュさんがぶつぶつとつぶやいている。
「さしでがましいようですが、ワタクシが聞いておりますところでは、『右翼の塔』には地下の部屋があるということですなぁ。そこにかの巨匠レオナルホド・ダ・ビュッフェの『モナリザの最後の晩餐』が保管されているとか……?」
ビジューさんがここで口を挟んできた。
あわよくば、『モナリザの最後の晩餐』を拝みたいという下心がミエミエなんですよ!
しかし、このビジューさんの発言により、その地下室へ鍵をかけてスエノさんを閉じ込めておけば良いのでは? という空気になったのでした。
「お父様! その部屋にスエノを閉じ込めておいていいですよね?」
「あなた? その絵画は金庫に入っているのでしょ? ならその部屋にスエノを入れておくだけならよろしいのでは?」
「美術品の保管をしているのですから、空調も万全ですわね?」
ああ、この女性陣たちの怒涛の猛攻にあわれパパデスさんは反論の余地はないようでした。
それに、スエノさんもこう言ってのけたのです。
「それで……。お姉さまたちが納得されるのなら、私はかまいません。」
「スエノさん! そんな! それで本当にいいのかい!?」
ジニアスさんは最後までかばっておいででいらっしゃいましたが……。
「コンジ先生……? 本当にスエノさんなんでしょうか?」
「うーむ。まだ僕にも断定はできないし、否定もできない。だが、もし、スエノさんが犯人でなかったなら、逆にスエノさんの身は安全だろうね……。」
「あ……! そっか。」
そうです。スエノさんを閉じ込めておくと言っても逆にその部屋に誰も入れないということ。
つまり、スエノさんの身は守られるということにもなるのですね。
あとでこっそり、ジニアスさんに教えて差し上げましょうか。
彼もそうしたら、安心されるとは思います。
まだこの雪で閉ざされた館に、惨劇は続くのでしょうか?
それは狼だけが知っているのでしょう……。
~続く~
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