第17話 到着2日目・夜



 夕食の時間が終わり、パパデスさんからみなさんに部屋の鍵をしっかりとかけ、夜には部屋の外に出ないように呼びかけがあった。


 ジェニー警視もそれに賛同し、シャワーに行くのは3名以上で行くことが提案された。2名が脱衣所で待機して1名がシャワーをするようにしたのです。


 みなさんに説明したのは、獣がどこに潜んでいるかわからないから念の為と言っていましたが、私やコンジ先生など人狼のことを知っている者は二人きりにならないようにという差配だとわかっていた。




 「はいはーい。じゃあ、女性陣はわたくしのところに集合してねぇ~」


 エラリーンさんが呼びかける。


 私とジェニー警視はその後、一緒にエラリーンさんの部屋を訪ね、シャワーを浴びに行く。


 アネノさんとジジョーノさん、ママハッハさんは私たちの後に浴びるとのことでしたが、スエノさんはシャワーを浴びないとのことで、自室にすでに引っ込んでいた。




 男性陣はジニアスさん、ビジューさん、イーロウさんが一緒に行くことにして、カンさんとメッシュさん、シープさんは今日はシャワーを遠慮するようでした。


 パパデスさんはご自身の部屋でシュジイさんとシープさんの付添でシャワーを浴びられるとのこと。また、早いですが今日の診察をそこで済ませ、就寝するとのことでした。


 アレクサンダー神父は今日ももちろん祈祷されるとのことで、『左翼の塔』にこもりっきりでした。





 夕食の後片付けは、カンさんとメッシュさんの二人になってしまうところでしたが、コンジ先生が一緒に片付けを手伝うと言って3名体制になりました。


 さすがコンジ先生。……でも、人狼が化けているとしたら可能性の高いカンさんやメッシュさんと一緒にいるのも心配なんですけど……。


 そこで、私はシャワーをいち早く終えた後、すぐにダイニングルームへ向かいました。


 でももうダイニングルームの後片付けは終わっていたので、すぐにキッチンへ行ったのです。






 キッチンにはカンさんとメッシュさんの二人がいましたが、コンジ先生の姿は見えません。



 「あれ? メッシュさん……。コンジ先生は見かけませんでしたか?」


 「ああ……。ダイニングルームの片付けが終わったころ、シープさんがキノノウ様を呼びに来られたのでそっちへ行きましたよ。」


 「ジョシュア様……。それは、さきほどの夕食の残り物でございますよ?」



 「え……? あれ? 気がついたらこのじゃがいもが勝手に口の中にぃーーーっ!?」




 私ってば、なんてこと……。ま、まあ、それより、コンジ先生、どこ行っちゃったの! もう……。



 「コンジ先生とシープさん、どこに行ったのかしら?」


 「さぁ……。そこまではあっしは知りませんで。」


 「私も正確には聞いてはいませんが、おそらくパパデス様のお部屋ではないかと思います……。」




 「わかりました! ありがとうございま……モグモグ……。」



 私はふかし芋をほおばりながら、キッチンを後にした。


 階段を登って3階へ着いたときに、ふと私の頭の中に浮かんだことがありました。




 たしか、容疑度最上位が、カンさん、メッシュさん……でしたよね?


 もし……、彼らのうちのどちらかが人狼が化けている化け物だったとしたら……?


 彼らは、今、二人きり……じゃあないですか……。





 「まさか!?」



 私はそこで1階のキッチンへ引き返すか迷いました。


 もし、私が想像した通りであれば、彼らのどちらかが犠牲者となってしまいます。


 ですが、もしそうなら、私が今ここでキッチンに駆けつけたとして、私も襲われてしまうのでは?




 血に飢えた化け物の犠牲になってしまう……。


 でも、カンさんかメッシュさんかどちらかが本当に人狼だったら……。


 ここで私が行かなければ、見殺しにしてしまうことにもなってしまう。


 だって、メッシュさんは人狼の存在を教えられていないのですから。




 「君ぃ? ここで何をしているんだ? 一人になったら危ないだろう? 死にたいのかい?」


 

 パパデスさんの部屋から出てきたその人は私に声をかけてきた。



 「コンジ先生!! もう! 心配しましたよ!」


 それはコンジ先生でした。




 「いや……。今、心配しているのは僕の方で、僕が声をかけたんだが?」


 「コンジ先生! だって! カンさんとメッシュさんが危険じゃあないんですか!?」


 「ちっちっ! 君も単純だなぁ。カンさんは人狼について知っているんだよ? 危険があるようなら持っているハンドガンで抵抗するだろうさ。」


 「え? カンさんって拳銃持ってるの?」


 「ああ。僕がキッチンを離れる際、カンさんに渡しておいたよ。」




 そっか……。なら、安心か。っていや、カンさんが人狼だった場合は危ないんじゃあないでしょうか。



 「カンさんが人狼だった場合はどうなるんですか!?」


 「まあ。そうなるが……。それはないと踏んでいる。」


 「カンさんは怪しくないというのですか?」




 「いや、そうじゃあなくて、カンさんが人狼ならこのタイミングでは襲わないってことさ。」


 「どうしてですか?」


 「そりゃ、僕たちが人狼の存在に気づいていることはカンさんはわかっているわけだろ? 今、メッシュさんが襲われたらカンさんが犯人だと認めたも同然になる。」


 「でもでも! それでも襲うかもしれないじゃないですか!」




 「人狼は昨日の事件を鑑みても、非常に慎重だ。決して正体を知られるようなしっぽを掴ませないだろう。臆病なのだ。」


 「臆病……ですかね? 化け物なのに。」


 「化け物は化け物で人間がこわいんだよ。だから、おそらくカンさんが人狼だとしても今は動かない。罠に嵌りに行くようなものだ。人狼はもっと用心深い。」




 その後、私とコンジ先生は一応、キッチンへ様子を見に行きましたが、二人は片付けをしていました。


 片付けが終わったら、カンさんはそのまま戸締まりの見回りに、メッシュさんは自室に引っ込みました。


 コンジ先生から必ず部屋の鍵をかけるよう徹底しろと言われ、私もコンジ先生に同じことを言ってそれぞれの自室に戻りました。



 そう。特に何も起きなくて私もホッとしていました。





 ひょっとしたら、人狼はもう館から逃げ出していて、誰にも化けたりなんかしてなくて、このまま平和に1週間過ぎたりするんじゃないかなって考えているとだんだんと眠くなってきましたよ。







 ◇◇◇◇





 ~人狼サイド視点~



 はぁ……。はぁ……。はぁ……。




 頭が割れそうだ。


 この心の奥底から湧き上がってくる興奮はいったいなんだ……?


 そして、欲望……。




 熱くてたまらない。


 鼓動がそして異常に大きく、体の中を伝わって脳に直接響く。


 そして、全身の細胞という細胞が、訴えてくるのだ……。





 『喰らえ!!』



 ……と。




 彼女には、以前から目をつけていたのだ。


 絶対、成り上がってやる。


 たとえ、大きな罪を犯しても、叶えたいことがあるのだ。




 そっと部屋の扉を開けようとするが、鍵がかかっている。


 やはり、そうか。


 その前にあそこへ行くしかあるまい。



 そこへ声をかけてきたものがいる。




 「あれ? あなたは……!? ま……、まさか……!? 死んだはずでは?」


 化け物はここで人狼へと完全に姿を変えていく……。


 身の丈はほとんど変わらないが、オオカミの頭、鋭い爪、そしてその大きな口に生えた牙!


 獰猛で巨大な肉食獣が、二本足で立ち、その獲物を見定めている。




 「ぐるるる……。」


 「うわっ! この化け物め!」


 その男は銃を構えた……が、一瞬早く人狼がその男の横をすりぬけた。






 「あ……。あ……。」



 ピュピュッピュゥピュゥウウウーーー……



 その首筋から噴水のように鮮血が吹き出す。




 「鍵は……頂いていく。」



 そして、人狼は当初の目的の、彼女の部屋へと急ぐのだったー。






 館の外は、吹雪がさらに勢いを増して荒れ狂い、この隔絶したこの館を取り巻いて、包み込み夜は更けていくのであった―。





 惨劇の『或雪山山荘』での宿泊は3日目へと移る―。







 ~続く~




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