第12話 到着2日目・昼その3



 パパデスさんの部屋に集まった私たちは彼が語るこの地方に伝わる人狼伝説の話を聞いた。



 遠い昔、ある村で狼と思われる獣による獣害事件が起きたという。


 それだけなら、よくあること……って言ってしまうのもなんですけど、いたましい事件だが、不思議なことはない。


 だが、この事件を皮切りに、その村では次々と犠牲者が出ることとなったという……。




 しかも村の中を村の住民総出で探索したにもかかわらず、獣は発見できず、夜になると犠牲者が出る。


 そんな中、生き延びた一人の村民の目撃談により、その村民の父親が狼に変貌を遂げ襲ってきたことが判明した。狼がその村民の家族になりすましていたという衝撃の事実が明るみになったのだった。


 隣の人が狼が化けた人狼かもしれない……。誰もが疑心暗鬼になり、お互いがお互いを信じられなくなったその村……。




 村民たちは教会から神父を呼び、神父は村民に化けた人狼を突き止め、悪魔祓いに成功し、村は危機を脱したというのだ。



 その事件以降、村ではこう囁かれるようになったという……。




 狼の哭く夜は恐ろしい……。決して他人を信じるな。家族でさえも信じるな。


 自分自身でさえも信じられるものは何もない……と。



 そこまでパパデスさんが語り終えたその時に、アレクサンダー神父がみんなにこう言った。




 「今回、ワタシが呼ばれたのはこの悪魔の獣・ジンロウを退治するためデス!」


 驚きの発言をする神父さん。



 「そのとおりだ。1週間前に、実は……、麓の村で狼の目撃があったのだよ。それも、尋常じゃない動きをする狼だったと。」


 「ハイ。そこでワタシは教会本部からの要請で、この地にやってきマシタ!」





 そこまで聞いていたコンジ先生が彼らに向かって指を振った。


 

 「なるほどね。それで、こういった化け物に興味を持っている名探偵の僕と、スコットランドヤードの警視も呼び寄せたということですか……。」


 「そ……そのとおりじゃ。犠牲者が出てからでは遅いと思ったのでな。まあ、すでに遅きに失した感はあるがな……。」



 たしかに……。もう犠牲者は出てしまっているのだ。




 「気になるのは、麓の村……ではなく、この館に我々を集めたっていう点だが?」


 「おお! ソレはワタシが説明しまショウ! 麓の村にはすでに我々教会の者が派遣されておりマース! 同時に警戒をしているのデース!」



 ええ!? あの麓の村はすでに警戒の体勢に入っていたというのですか!




 「なるほどな。どおりで我々に接触してきたのがあの婆さんただ一人だったわけだ。」


 「あ……! そう言えば……。たしかに私たち、あの村に一昨晩、泊まらせてもらいましたけど、あのおばあさんとだけしか話をしてなかったわ!」



 コンジ先生の指摘の通り、私たちは一昨晩あの村に滞在したけど、村民の方は私たちにまったくと言っていいほど接触してこなかった……。


 すでに戒厳令が出ていた……というわけか。




 「しかし……。村に現れるならいざ知らず……。この『或雪山山荘』に現れるとはな……。」


 パパデスさんもショックを受けている様子です。


 コンジ先生は眉をピクリとさせましたが、何も言うことはありませんでした。





 「ワターシの所属する教会本部ニハ……! この悪魔の獣についての伝承がありマース!」


 アレクサンダー神父が人狼について説明をする。



 「人狼にはいくつかの習性があるのデース。ジンロウはその血を味わった人間に化けることができマスネ。この獣はその血からその人間の記憶や体質など遺伝子情報まで読み取ってなりきってしまうのデス。それは、親しい人間でさえ、見分けがつきまセーン。そして、この獣はその化けた相手の記憶から、獣として、次の獲物を決めて襲いマス。


 この殺意の衝動が起きるのは夜時間に限られテマース。昼の間はじっと人間に化けたままで、人狼に変身することは無いデショウ!」






 なるほど……。だから、アイティさんは夜に殺されたのですね……。


 そこでコンジ先生が指摘をする。



 「今……、殺意の衝動と言ったが、人狼は知能はなりすました人間のものと同等と考えられるのだろう? ならば、理性があるのではないのか?」


 たしかに! そのとおりですね。人間ってそんな簡単にヒトを襲うようになるものかしら……?


 そこは私も疑問に感じたので、知りたいと思った。




 「ノーノー! このジンロウはその食欲という本能に根ざした行動をとりマース。しかも、その化けた人間の心の底の欲望を混ぜ合わせた『大罪』を犯すのデス!」


 「……『大罪』というと?」


 「そうデスネー。アナタたちも『七つの大罪』という神に抗う大罪のことは知ってマスカ?」




 神父は私たちの顔を見回した……。


 ジェニー警視がいきんで答える。



 「私は決して信心深いとは言えないが……、さすがに『七つの大罪』くらいは知っている! だが……、それがどうしたというのだ!?」



 「ハイ……。この悪魔の獣は、過去にもこの地方に現れたときも、その殺人の際には必ず『七つの大罪』を犯していたのデス……! つまり、今回のアイティを殺害した際、かの獣は何らかの『大罪』を犯していたと思われマース!」


 「なんだと!?」


 「それは……いったい!?」




 「そうデース! すなわち、傲慢(ごうまん)、嫉妬(しっと)、憤怒(ふんど)、怠惰(たいだ)、強欲(ごうよく)、暴食(ぼうしょく)、色欲(しきよく)のいずれかを!!」



 ちょっと聞いたところだと、荒唐無稽のように聞こえることを言っているのだけど、本人はいたって大真面目に言っているのだ……。


 しかし、コンジ先生は真剣に話を聞いている様子だ。



 「ふむ……。で、神父。今回の犠牲者は、何の動機でアイティ氏を殺害したのかね……?」




 「それは……、『傲慢』デショウ! 今回、この獣は自身の能力を過信しすぎていマース。とにかく堂々と1階ホールに死体を晒す行為は『傲慢』そのものデスネ!」


 傲慢……。神父さんはそう言い放った。


 たしかに、アイティさんはこれでもかと言わんばかりに、あの玄関ホールに無残な姿をさらされていた……。




 「ふーむ……。『傲慢』ねぇ……。仮に神父。君の言う通り、この化け物が『七つの大罪』を動機としていたとしよう……。しかしながら、単なる食欲……つまり『暴食』だったとかいう可能性もあるのではないかい?」


 「フン……。アナタは人間の殺意が単なる食欲から起きるとデモ……?」


 「場合によってはそういうこともあり得ると思うがね……。」



 「イイエ! ワタシにはわかるのデス! かの悪魔の獣が……。『傲慢』であったと……ネ……。」






 神父さんはそれっきり黙ってしまいました。


 しばらく、この部屋の誰もが喋ろうとしなかった……。




 「あーあー。とにかく……。まだ他のみなさんにはこのことは秘密にしておいてください。」


 パパデスさんがそう言うと、コンジ先生が反対した。



 「いや。情報はみんなに公開すべきじゃあないか? なにせ、誰に化けているか今わからないのだ。」


 「それは、部屋の鍵をしっかりかけて夜間に決して外に出なければ防げると思っておる。」




 「そんなぁ……。コンジ先生の言う通りだと思います! 危ないのでは……!?」


 「いや……。逆にみなが疑心暗鬼になり、混乱するだけだと思う。私はパパデスさんに賛成だ。」


 ジェニー警視もパパデスさんに賛成のようだ。





 「……というわけなので、キノノウ先生もジョシュアさんもご協力お願いする。そして、それよりも誰に化けているかわからんこの人狼という化け物を早く探し出してくれたまえ。ジェニー警視も頼んだぞ。」




 「わかった。それは承ろう……。この僕の『黄金脳』にかけてな。」


 「私ももちろんチカラを貸そう。」





 コンジ先生もジェニー警視もこの館に潜む人狼という化け物を追うハンターの目をしていたのでしたー。





 ~続く~




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