第9話 到着1日目・夜


 夕食の時間、私はみなさんに、主にシンデレイラ家の方たちに向けて、『黄金探偵』の活躍の話を語って語って語りまくりました。


 私が必死でお話しているのに、コンジ先生ったらご自身の話をしているのに、横でパクパク食事を楽しんでましたよ。


 うー……。ゆるせん! 私だってもっとゆっくり味わって食事をしたかったですよー。




 まあ、どれだけ時間がなかったとしても、もちろん、完食はしましたけどね。


 そこは譲れません。


 そして、私が必死でお話をしたにも関わらず、褒め称えられるのはコンジ先生で、そんなときだけ、ちゃっかり、みなさんに愛想を振りまくんですから!


 コンジ先生のこの抜け目のなさ……。本当にIQ高いってこういうことなのかしら?




 そして、このときに、パパデスさんから、ビジューさんの画商から、新しい絵画を仕入れる話がまとまったと発表がありました。


 その仲介料だけで、ビジューさんにはなんと、5億円も払われるそうです!


 絵画についてはその名は伏せられましたけど、100億円はくだらないでしょうとビジューさんが自慢げに言ってました。




 「ふん……。お金さえあれば、私だって……。」


 アイティさんは悔しそうな顔をしていましたが、超がつくほどの大富豪のパパデスさんに対抗心を燃やしても無駄だと思うけど……。


 エラリーンさんは率直に褒めてましたね。


 彼女もかなり裕福な方だから、対抗心などないのかもしれません。




 そして、夕食後、解散となりました。



 この後のこの日の夜の行動については、翌日にみなさんからお聞きしたお話をもとに、書きますが、おおむね間違いはないと思われます。





 女性陣はさっさとお風呂に行かせていただくことになり、順番に入らせて頂きました。


 お客様からお先にどうぞと、ママハッハさんからのご厚意もあって、エラリーン夫人、ジェニー警視、そして私ジョシュアの順に入らせて頂きました。




 私がシャワーをした後は、シンデレイラ家のママハッハさん、アネノさん、ジジョーノさん、スエノさんの順だったようです。


 男性陣は適当にバラバラに好きな時間にシャワーをするようで、朝に浴びるから夜はシャワーをしないと、アイティさんは言ってましたね。


 その後の行動はみなさん、バラバラでした。




 遊戯室で、またしてもビリヤードをしていたのは、ジニアスさんとアイティさんでした。


 アイティさんはよほどワイン好きなのか、メッシュさんに頼んで、ワインを飲みながらのゲームをしていました。


 それをシュジイさんが見ていたようですけど、しばらくして、ジェニー警視がシャワーの後にやってきたので、一緒にチェスをしばらくしていたみたいです。


 エラリーン夫人はイーロウさんとエラリーンさんの部屋で何やらお話(?)をしていたとのことでした。




 パパデスさんは部屋でシープさんと何やらお仕事の話をしてから、その後、早めに就寝されたみたい。


 カンさん、メッシュさんは夕食の後片付けの後、メッシュさんは翌日の朝食の仕込みをしてから、深夜みなさんがシャワーを使った後、カンさんと順番にシャワーをしてから眠りについたと後から言っていました。




 アレクサンダー神父は『左翼の塔』でずっと朝まで例の祈祷をしていたとおっしゃってました。


 美術商のビジューさんは、一人で商談の件を書類に書き起こしていたようです。


 アネノさん、ジジョーノさんはアネノさんの部屋で二人で、何やらお話をしてからその後就寝したとのこと。


 スエノさんは書斎で読書していて、深夜には自分の部屋に戻ったとおっしゃっています。




 ジニアスさんは遊戯室で、アイティさんとビリヤードをした後は、シャワーを浴びてから自室に戻ったとのことでした。


 このとき、まだ遊戯室にはアイティさん、シュジイさん、ジェニー警視がいたとみなさん証言されています。


 シュジイさんは、ひとしきり、チェスに興じた後、パパデスさんの寝室に行き、寝る前の診察を終えてから、自室で就寝したと言っております。




 私はシャワーの後、コンジ先生の部屋を片付けて、自室で今日のことをまとめていました。


 日記に近いですが、業務日誌です。


 コンジ先生の部屋を訪ね、なにか用事はないか最後の確認をしたのが夜11時過ぎ、その後、明日の予定をお伝えして、また自室に戻って就寝しました。


 この時、コンジ先生は、なにごとか調べ物をしていらっしゃったようですが、それはあまり関係がないようですね……。




 だって……。


 この夜、初めての犠牲者が出たのですが、それは深夜遅くの出来事だったのですから……。


 みんなが寝静まった真夜中よりも後の時間に、その惨劇は起きたのでした―。






 ◇◇◇◇





 ~人狼サイド視点~



 はぁ……。はぁ……。はぁ……。




 頭が割れそうだ……。


 この心の奥底から湧き上がってくる渇きはいったいなんだ……?


 そして、飢え……。




 やけに熱い……。


 鼓動がそして異常に大きく、体の中を伝わって脳に直接響く。


 そして、全身の細胞という細胞が、訴えてくるのだ……。





 『喰らえ!!』



 ……と。




 行くならあそこしかない……。


 人狼の姿に変わっても、その知識は失われない。


 この化け物は欲望に忠実ではあるが、その欲望はそのなりすました者に由来するのだ。




 はぁ…。はぁ…。はぁ…。


 もうすぐだ。


 もうすぐ目的の場所にたどり着く……。


 すべて食らい付くしてやれ!




 ん? 何者かがいる……。


 なぜ、こんな深夜遅くに?


 いや……。何者であろうと、邪魔はさせない……。





 「あれ? いったい、どうしたんだね? こんな深夜に……。のどでも乾いたのか?」


 その男は声をかけてきた。


 どうやら、化け物はまだ人狼へと変貌を遂げてはいないようだ。





 「私もね。ちょっとね。失敬しているよ。はっはっは……。」


 男はなにも警戒していない様子だ。


 化け物は、ここで異常な欲望の高まりを覚えた。





 「あれ? 君……。どうしたんだい? 具合でも悪いのか……。ま……、まさか……!?」


 ああ、化け物はここで人狼へと完全に姿を変えていく……。


 身の丈はほとんど変わらないが、オオカミの頭、鋭い爪、そしてその大きな口に生えた牙!


 獰猛で巨大な肉食獣が、二本足で立ち、その獲物を見定めている。




 「ぐるるる……。」


 「うわっ! く……来るな! この化け物め!」


 その男は、必死で、廊下に出た。




 「た……たす……!」


 助けを必死で呼ぼうと、声を出しかけたその瞬間!




 ガッ……!!




 後ろからその化け物が、その男の首筋に一瞬で噛み付いたのだ。


 背後から、無抵抗なその男を捕らえ、首筋に噛みつき、そのまま広間の部屋に引きずっていく……。




 首を横からその大きな口で噛みつかれ、のどに食いつかれたその憐れな男は、声を出せなくなり、逆らおうにも力が出ない……。



 「う……。たすけ……。」



 その振り絞る声もかすれ、息が漏れる音でひゅうひゅうとあたりの空気を少し振動させただけにとどまった。




 ずる……。ずる……。ずる……。


 引きずられ、広間の中央に連れられてきた。


 そして……。




 そのやわらかい内臓を引きずり出し……。


 食するという行為自体は、そこに善悪もない。


 まさに生のために、生きるという生命の本能でしかないのだ。



 「ゴボ……。ゴボ……。」


 その男の口から血が溢れ出て、もはや声にならない。




 むさぼり食らわれるその犠牲者を見ていた者たちがいた。


 そう、それはこの部屋に飾ってある絵画に描かれた人物画の人物たち……。



 ゴッホッホ風の人物、マネモネ風の人物、フェアリメール風の人物といった全部が違った作風の人物たちが黙って見つめていた―。





 館の外は吹雪が荒れ狂い、この日の惨劇を覆い隠すか如く、激しくうなり、隔絶したこの館を取り巻いて、包み込むのであった―。





 ついに犠牲者が出てしまった『或雪山山荘』での宿泊は2日目へと移る―。





 ~続く~




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