第6話 到着1日目・昼その6



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 私たちは『左翼の塔』の側の廊下を抜け、階段を3階へ上り、『右翼の塔』へ向かう通路を通る。


 左手側に窓が並び、右手側には、『遊戯室』、『書斎』、『談話室』と並んでいる。




 「アイティさん! あなたの番ですよ?」


 「ああ!! 言わなくてもわかってるさ!」



 「おふたりとも。熱くならないで!」




 『遊戯室』の前を通る時に、部屋の中から声が聞こえた。


 アイティさん、ジニアスさん、あとジェニーさんの声も聞こえた。


 カツンっと、何か玉を突く音が聞こえたので、おそらくビリヤードをやっているのだと思う。




 「ジニアスがアイティに勝ってるな。ジェニーが待機だな。」


 「え? コンジ先生。見てもないのに試合の結果がわかるのですか?」



 「ジョシュア。君……。アイティの言葉に苛立ちが見て取れるだろう? それに比べてジニアスのほうは余裕がある。ジェニーは完全に傍観していて応援しているからな。簡単な心理の読みからの推察だよ。」





 やっぱりコンジ先生はすごいや。


 そんなことを言っている間に書斎の前に着いたので、書斎のドアを私は開けた。


 書斎の中には本が一面に置かれていた。


 本屋さんと言っても遜色ないくらいの蔵書数はあるでしょう。




 「うわぁ! すっごいですねぇ! コンジ先生。本屋さんみたいですね。」


 「これくらい普通だろ。はしゃがないでくれるかな……。」


 「もう! いいじゃないですか!? 素直に感激しただけなんですからぁ!」




 私は少しふくれっ面をして見せる。


 コンジ先生はすたこらと奥の方へ歩いていく。


 コンジ先生お目当ての本は生物の本や、古代の神話や文明の文献などである。


 未知の生物を探して、その存在を証明するのがコンジ先生の趣味なんですよね。




 まあ、私はミステリーとか謎のあるようなジャンルの本が好きなんですけど。


 あ。グルメの本も好きですけどね。


 ここにはさすがになさそうかなぁと思う。


 ざっと見渡した限りでも、なんというかマジメな本というか、難しい内容の本が多そうだった。




 私はミステリーのジャンルが置いてある箇所のところへ棚を見ながら歩いていく。


 ポワロ……。


 シャーロック・ホームズ……。


 エラリー・クイーン……。


 金田一耕助……。


 明智小五郎まで!


 他にもたくさんの古今東西の探偵小説がずらりと揃っていた。




 そして、棚の角を曲がったところ、こちらを怯えたような目で見ている一人の女声の姿が目に入った。


 黒髪の女性で、地味な洋装をしている。




 「あ……! スエノさん? さきほどは挨拶もできなかったですね。私、ジョシュア・ジョシバーナって言います。よろしくお願いします。」


 そう。シンデレイラ家の末娘、スエノ・シンデレイラさんだった。


 スエノさんはたった今まで本を読んでいたのであろう。その手には1冊の本を指を途中のページに挟んだ状態で持っていた。



 読書のお邪魔しちゃったかな……。


 でも、人がいる気配、ぜんせんしなかったな。ちょっとびっくりしちゃった……。




 「よ……よろしく……おねが……します……。」


 スエノさんが、かすれたような小さな声で返事をする。



 「読書のお邪魔、しちゃいましたか? すみません。」


 と、私が迷惑だったのじゃないかと尋ねると、


 「いえ……。だ……だいじょうぶ……です……。」


 と、絞るような声で返してくれた。






 「そうですか!? なら、よかったです。あ! 何を読んでらっしゃったのですか?」


 「はい……。『占星術殺人事件』というミステリー小説です。」


 「ああ! 島田荘司先生の名作ですね! スエノさん、ミステリー好きなのですか?」


 「は……はい! そうなんです! 特にこの新本格物というジャンルが特に好きなんです。古典の本格物の小説ももちろん好きですけど……。」




 スエノさん……。急に饒舌になったな。


 本当にミステリー小説が好きなんだなってわかるね。


 もちろん、私も好きなんですけど。




 「その『占星術殺人事件』は、島田荘司のデビュー作であり、同作家の人気シリーズである御手洗潔シリーズの第1作だな。

1980年に第26回江戸川乱歩賞に応募された『占星術のマジック』を改稿・改題した作品なんだが。 なお、『占星術のマジック』は江戸川乱歩賞の第三次選考にまで残るが落選している。」


 と、うんちくをここぞとばかりにひけらかしてきたのが、我らがコンジ先生です。


 ほら? スエノさん、びっくりしちゃって、かたまってるじゃあないですか!




 「スエノさん。ごめんなさい。こちら、探偵のコンジ・キノノウ先生です。」


 「はい! 存じてます! 『黄金探偵』シリーズ! 全部拝見しています!」


 「わあ! 嬉しいなぁ。あ……! ちなみに私はコンジ先生の助手を務めてます。」


 「ジョシュアさん……って!? あのドジっ子の『役立たずの疫病神・助手』ことジョシュア・ジョシバーナさんですか!?」



 いや、おい! その『異名』……。失礼すぎるでしょ!!




 「あはは……。まあ、役立たずってほどじゃないと思いますよ? それに疫病神って言っても、君子が自ら進んで危うきに近寄って行っているのはコンジ先生なんですけどね……。」


 ここは、きっちりと訂正させていただく。


 ホントですよ? コンジ先生が自ら危険なところに行くから事件に巻き込まれるわけで、私が疫病神などでは決してありません!


 断固として主張しておきたい!




 「そ……そう思わないと生きていけませんものね。お察しします! 私!」


 スエノさんが私の手をとって、力強く握ってきた。



 いやー……。盛大に勘違いしてますね。これ。


 やっぱり今度からもうちょっと私も賢いキャラに脚色して書いちゃおうかな。




 「ジョシュア。君、何かよからぬことを考えただろ? それはやめておいたほうがいいぞ? 真実はいつか明るみに出るものさ!」


 「いやいや! コンジ先生! コンジ先生の真実の姿、ラーの鏡でも持ってこなければ明るみに出ないと思いますけど?」


 「ふーん。君は真実というものは、みんなが望むことこそが真実だって事実を知らないのかい? みんながこうであってほしいということが真実に書き換わっていくのが世の中の常なのだよ。」


 「それ、屁理屈と思いますけど?」


 「あ……あの! キノノウ先生! サインください!」


 「ああ。いいとも。もちろんお安いご用さ。マドモワゼル!」



 スエノさん……。さりげなく入ってきたぁ!!




 コンジ先生もさらっとサインしてあげてるし……。



 「ありがとうございます!」




 「そ……それにしてもスエノさんって読書好きなのですねぇ。じゃあ、ここの書斎にある本はほとんど読んじゃってたりして?」


 「ま……まあ。そうですね。でもミステリーだけですよ。」


 「あ! そういえばお姉さんのアネノさんやジジョーノさんも読書好きだって言ってましたね。」





 私がアネノさんとジジョーノさんの話を持ち出したら、あからさまに顔が曇ったスエノさん。



 「そ……そうですね。姉たちも読書は好きだと思います。あ……! ごゆっくり読書して行ってください。私はこれで。」



 そう言ってスエノさんは足早に部屋から出ていってしまった。


 なにかお姉さんたちと確執があるのでしょうか……。






 「さて。じゃあ、僕はあちらでこの地方の伝承や言い伝えが書いてある『雪山の考古学』の本をじっくり読んでいるので、しばらく声をかけないでくれたまえ。」


 「はぁ。わかりましたよ。じゃあ、私もこのあたりで読書しているので、何か用があれば言ってください。」



 返事の代わりに手をひらひらさせて、奥の方へ消えていくコンジ先生をしばらく見てから、私も読書に取り掛かった。





 このあと、夕食の時間になるまで読書に明け暮れていた私たちでしたが、その間、隣の『遊戯室』では、アイティさんたちはずっとビリヤードをしていたらしい。


 勝敗は、ジニアスさんが一番多く勝利をしていて、ジェニーさんとアイティさんは引き分けだったらしい……。


 アイティさんは本当に悔しそうでした。




 そして、後から知ったのだけど、『書斎』の反対側の『談話室』では大富豪パパデス・シンデレイラさんその人が、エラリーンさんと一緒に、ビジューさんと美術の商談をしていたとのことでした。


 ここで日本円に換算して数億円の取引が行われていたのですが、そんなことはまったく私は気が付きませんでした……。





 ~続く~




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