第4話 到着1日目・昼その4


 『コの字型』の建物で左右に塔があるこの『或雪山山荘(あるゆきやまさんそう)』の正面玄関を背にして左側部分を『左翼』と称し、その先端にある塔が『左翼の塔』である。



 また、周辺は吹雪に荒れやすい特殊なのに、なぜかこの館の周りは、なにかの気流にでも守られているのか雪が降っていない。


 だが、窓の外は曇っていて、遠くまで見渡せないのには変わりがなかった。





 私たちはシープさんの案内で、左翼側の1階の廊下を塔のほうへ進む。


 

 「ああ。こちらに浴場があるんですね。ちゃんと男女で分かれているのか。残念でしたね? コンジ先生!?」


 「は? どうでもいいが?」


 「うむ。俺は残念だったなぁ。君みたいな美しいレディと混浴……なんて最高だったんだけどね。」



 イーロウさんがなぜか私たちの話に割って入ってきた。




 「あはは……。それは残念でしたね……。」


 なんとも言えない適当な返事をして、前を向く。



 シープさんが『左翼の塔』の扉の鍵を取り出し、解錠する。






 「おお! これはすごいな。」


 コンジ先生が抜け目なく一番最初にするりと塔の中に入ってすぐに声をあげた。



 「ひゅう~! すごいものですねぇ……。これほどのものとは……。」


 続いて入ったアイティさんがそう感嘆の感想を漏らした。




 イーロウさんがエラリーンさんをエスコートしながら塔の中へ入っていく。


 ジェニーさん、ジニアスさん、私も続いて入り、シープさんが最後に入ってきて扉を閉める。



 「すご……い……。」



 私は塔の壁に飾ってあった絵を見て、圧倒されてしまった。




 ミケネコランジェロやラファエロスの名前はもちろん知っていたが、その作品をじっくりと見たことはなかった。


 その圧倒的な存在感と、神々しさはまさに宗教画の名画たる威厳を堂々と私たちに知らしめるほどであった。


 そこに飾ってある作品群は、塔の上階に向かって螺旋状に伸びている時計回りの階段の左側の壁に沿って、展開されていた。




 ミケネコランジェロの『マンチェスターの聖猫』や、『キリストの飼い猫の埋葬』、ラファエロスの『聖母の結婚初夜』に『大公の聖母の入浴』、それに『美しき女庭師の水浴び』などなど、学校の教科書でも見たことがある名画が飾ってある。


 また、中央には『ダビデと巨像』で彫刻でも有名なミケネコランジェロの巨大な彫刻『ソバカスのバッカス像』が飾ってあった。


 これは美術に疎い私でも、圧倒されてしまう……。




 「実に美しい!! ブラボー! 素晴らしい!」


 ビジューさんがすごく興奮している。


 やはり、美術商なだけあって、絵画のことは詳しいみたいで、ここにある絵画を説明してくれたのもビジューさんだった。








 「ふん。私もミケネコランジェロは1枚所有しているけどね。まあ、これだけの数はさすがと言っておこう。」


 アイティさんはかなりの成功者なのか……。


 ミケネコランジェロの絵画を持っているだなんてね。




 「おーほっほ。さすがは大富豪シンデレイラさんですわね。まあ、わたくしの邸宅にはミケネコランジェロやラファエロスは置いてございませんわ。


 ま、わたくしはゴッホッホひとすじですからねぇ。」


 「ああ。そうでしたね。エラリーンはゴッホッホの幻の『ひまわり咲いた』を持ってましたね。」


 イーロウがエラリーンにそう言ってご機嫌を取る。




 「ああ。エラリーン様。ぜひ今度ワタクシのオススメの絵画、ゴッホッホはあいにくありませんが、マネモネ作品も一度見てもらいたいものですな。」


 「まぁ。考えておきますわ。ビジューさん。」


 「はい。ありがとうございます。」




 ジニアスさんとジェニーさんも二人でなにごとか話をしながら、絵画鑑賞をしていた。


 コンジ先生は……というと、何やらベタベタと『ソバカスのバッカス像』を触りながら、あーでもないこーでもないと計算をしていた。


 どうやら、神話で語り継がれているバッカスの記述から、忠実に再現しているというミケネコランジェロの彫刻から、身長や体格を割り出して、なにかを導き出そうとしていたようです……。


 後からコンジ先生から聞いた話ですけどね。




 

 しばらく思い思いに鑑賞していたら、1階の塔入り口扉が開いて、二人の女性が入ってきた。


 ふたりとも見事な金髪でドレスが艶やかな青と白で、透き通るような肌の白さでスラリと長身の美人……アネノ・シンデレイラさんとジジョーノ・シンデレイラさんの姉妹だ。


 この館の主人である大富豪パパデス・シンデレイラさんの長女と次女で、さきほど私たちも話をしたので、会釈をしておく。




 「ほら! 早く入りなさいよ! このノロマ!」


 「なにしてるの!? 来なさいよ。スエノ!!」


 二人が扉の外に向かって怒鳴っている。




 おずおずと少し怯えた様子で、塔の中に入ってきたのは二人の姉妹とは髪の色が違う黒髪の少女だった。



 「ああ。みなさん。うちの絵画と、この『ソバカスのバッカス像』はいかがでございますか?」



 アネノがそう言って、ドヤ顔でいじわるそうな笑みを浮かべ、絵画群と彫刻を指差した。




 なんなの……? 入ってきた少女を紹介するではなく、美術品の自慢……!?


 どうやら姉妹の妹らしいですけど、なんだか差別されているようです。


 黒髪の少女は二人の姉妹の後ろで大人しく控えている。




 「これはこれは。アネノ様にジジョーノ様。いつもお美しい……。」


 イーロウがそう言ってすかさず、アネノの手を取りキスをする。


 ジジョーノが少し、きつい目でその二人を睨んだ気がした。




 「イーロウさん。いつも、テレビで拝見してますわ。ご活躍のようでなにより。お父様もお喜びでしょう。」


 「イーロウ様。『権利の上に眠る猫』での助演男優賞、おめでとうございます!」


 「ああ。ありがとうございます。ジジョーノ様! いつも応援ありがとうございます。」



 イーロウがジジョーノの手を取り、キスをした。




 「まぁ……。ポッ……。」


 ジジョーノが顔を赤らめ、下を向いた。



 その空気感を読まずに、ビジューが割り込んで話し出した。




 「いやぁ!! 素晴らしいですな! この『ソバカスのバッカス像』は、巨匠ミケネコランジェロの傑作ですな!」


 ビジューがアネノに向かってこの像を褒め称える。


 ほとんどごますりにしか見えない……。




 シープさんの先導により、一同は螺旋階段をぐるりと登っていき、1階から2階、2階から3階、そして3階から4階へと足を運び、その壁面に飾っている絵画をじっくり鑑賞した。



 1階の入り口を除けば、3階だけ扉があったが、3階の扉は鍵がかかっていて、固く閉ざされていた。


 構造から考えて、3階のその扉の先の部屋は、ママデスさんの部屋になる。


 ママデスさんの部屋側からだとロックを外して出られるようだ。






 右翼の塔側は見ていないけれども、左右対称の造りだとしたら、同じように右翼の塔側はパパデスさんの部屋に通じた扉があるに違いない……。



 「みなさま! 以上で当家の美術鑑賞のお時間は終了させていただきたく存じます。ご堪能いただけましたか?」



 シープさんがみんなに声をかけた。




 「みなさま! まだ滞在の日はありますのよ。また機会を設けて鑑賞会を開かせていただきますわ! これからお茶でもいかがかしら?」



 アネノさんがそう言ってみんなをお茶に誘った。




  これは美味しいお菓子が期待できますね! 私も大賛成です!


 やはり、花より団子、美術品より美味しいスイーツです。



 「ああ。それはいいですね。」


 「それはありがたい。ちょっとのどが渇いてました。」



 みんなが口々に言って塔の1階に降りていく。





 よーし。私も! ……って螺旋の階段を降りようとして、コンジ先生のほうをパッと振り返ったら、なんと!?



 コンジ先生が、みんなと反対に階段を登ろうとしているではないですか!


 

 ちょっとちょっと! コンジ先生? お菓子……食べられなくなっちゃうじゃないですか!?




 「コンジ先生! みなさん、下に降りちゃってますよ? どこ行くんですか!? 反対方向ですよ!」


 私がコンジ先生に言うと、コンジ先生は手招きをした。



 私がコンジ先生のほうへ駆け寄っていくと、コンジ先生が階段の上を指差してこう言ったのです。





 「この塔は5階まであるんだよ……。」



 「そうみたいですね。でもシープさんも美術鑑賞はここまでって言ってたから上には何もないんじゃないですか?」


 と私が言う。





 「ふむ。 じゃあ、あの灯りは何だと思うのかね?」



 そう言ってコンジ先生が指差した階段の上は、仄暗い中に薄明かりが漏れていたのだった……。





 ~続く~




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