番外編~公爵令嬢は悪魔と契約す~

「お前とは婚約破棄だ!イリス・オーエン」

 怒声混じりのそんな叫びが会場を反響した。

「殿下……何故ですか」

 イリス・オーエン公爵令嬢。それが私。

 公爵令嬢として恥じぬよう礼を学び、弁え、殿下との婚約が決定した。

 しかし、それを今殿下自身が破棄しようと訴える。

「何故か?それはお前が一番わかっているのではないか」

 心当たりがまるで無い。

 ただ、最近周りの目がおかしいと感じた。

「沈黙か。アイリス男爵令嬢を陰でいじめ、あまつさえ階段から突き落とそうとしたと聞いた!」

 殿下の声がどんどん荒くなってゆく。

「そんな事っ!私はっ!」

 していない。

 そう続けようとしたけれど、その言葉が出なかった。

 胸が苦しく息が詰まる。

 涙で視界がぼやける。

 これだけ騒いだのだ。ざわざわと周りの声がするはずなのに一切耳に入って来ない。

 嗚呼、誰も私を救ってはくれないのだろう。


 パーティーで婚約破棄され、惨めな姿で立ち去り、帰って来れたは良いけど眠れずに中庭を歩いていた。

「おや、こんな時間にこんな所で女性が独り」

 公爵家の敷地内で私の顔を知らない?

 振り返れば道化の仮面を付けた男が立っていた。

「侵入者っ!誰かっ!!――」

「嗚呼、貴女に危害を加えるつもりはありませんよ。それにしても――酷い顔ですよ」

 男は手鏡を私に向けた。

 分かっている。

 何もかもが嫌になっている顔だ。

 いっそのこと、この侵入者に殺されてしまうぐらいが良いのかもしれない。

「貴方は何者?」

 厳重な警備を潜り抜け、今私の傍にいる。

 腐っても私は公爵家の人間なので、誰かしらの目があるはず。自然に隣にいる事があまりにも不自然なのだ。

 助けを呼んだにも関わらず誰も来る気配が無い。

「これは失礼いたしました。そうですねぇ――しがない魔法研究家。名前はピュグマリオーンと言います」

 ピュグマリオーンと名乗る道化の男は深く礼を行う。

「私はイリス・オーエン。この公爵家の者よ。しがない魔法研究家が何の用?」

 ここは公爵家敷地内。公爵家の財産や地位を揺さぶるものを盗りに来る者はいる。

 地位を揺さぶるとして、今の私では不十分。

 婚約破棄される前の方が価値としてはあった。

 攫うタイミングとしては些か間抜けだろう。

 私を暗殺をするにしてもタイミングは最悪。

 何の得にもならない。

 公爵家に侵入というリスクを冒してまでする事は何か。

「私はただ立ち寄っただけですよ。そもそもここが公爵家敷地内だという事も今知りました」

 この男が何を言っているのか分からない。

 自分から侵入するでもなく、どこからともなく現れたかのような口ぶりだ。

「私を暗殺しに来たとか誘拐しに来たとかではなくて?」

「はっはー。それをするならとっくにしていますよ」

 彼は鼻で笑って一蹴した。

 確かに暗殺するならば目の前に姿を現す事もしない。

 それに彼の方から声をかけてきたのだ。

「それにしても良いですね」

「今宵は新月よ」

 月は見えない。

「嗚呼、この身体はもうボロボロですので」

 高齢と呼ぶには声は若い。

 ボロボロだと言う割にはしっかりとした足取りだ。

「まぁ、私の事は良いんですよ。それより、公爵家のご令嬢がこんな所にいるなんて、悩み事ですかぁ?」

 その言葉に釣られて私はポツリポツリと雨のように婚約破棄の事を話してしまった。


「いやぁ、しかし王太子が男爵令嬢とねぇ。馬鹿っぽいですねぇ」

 殿下に向かって馬鹿と言うには不敬だと思うが、私自身心の内にそう思っている部分があるので反論しなかった。

「そんなに男爵令嬢が好きならば側室として迎え入れれば良かったのに」

 そう。

 別に私は政略結婚の道具でしかない。

 しかし、それさえも叶わなかった。

「それで、公爵令嬢の貴女は過去に戻りたいとか思いませんか?」

 それが――出来るなら苦労しないだろう。

「私は――」

 言葉に詰まる。

 私がしたい事。したかった事。

 望む事。

「出来る事なら……やり直したいわ」

「はっはっはー。良いでしょう。良いでしょう。

 【契約魔法】「我は次に願いを問う。その願いを我が叶えたら悪魔と契約し、貴女の全てを我に捧げよ」

 さぁ、契約に了解すれば次に目を開けたら貴女は過去を見つめ直機会が訪れるでしょう。やり直す上限は百回まで。

「それでは悔いの無いように」

 悪魔のような契約内容だが、今回の事で契約するわけでは無いようだ。

 それに悪魔など見た事もない。ハッタリだろうか。

 私は目を閉じ、頷いて【契約魔法】とやらを了承した。

 一縷の望みをかけて。


 「イリス様。イリスお嬢様起きて下さい」

 目を開けると朝だった。

 私は都合の良い夢でも見ていたのか。

 それだけにショックだったのだろう。

「さぁ、イリスお嬢様。今日から学園生活の始まりですよ」

 侍女の放つその言葉に耳を疑った。

 学園生活など、婚約破棄された身ではとても通えたものではない。

「ねぇルース。流石に学園へ行くのは……」

「何をおっしゃいますか。あれほど入学式が楽しみでしたではありませんか」

 入学式?入学式などとうの昔に――鏡を見ると私は幼くなっていた。

 幼くというのも、少しの変化だ。髪の毛の長さだとか背が短いだとか、些細な変化でしかない。

 けれど、そんな些細な変化がわかった。わかってしまった。ピュグマリオーンが差し向けた鏡に映った私よりも幼い事に。

「嘘よ……戻ってる……」

 ただ前と違う点がある。首には金色の痣が巻き付いている。

「ルース。これどうにかならないかしら」

 金色の痣は首を引っ搔いても無理なようだ。

「イリスお嬢様?そんなに引っ掻いたら傷が付いてしまいますよ」

「これよ!この金色の!」

「何も見えませんが……」

 ルースには見えていない。

 いくら見せようとも違和感すら感じていない。

 私だけの違和感。

 これがあの道化の仮面の男との繋がり。――ピュグマリオーンは本当に時を戻したとでもいうの?

 そんな魔法は……神にでもならないと出来ないというのに。

「さぁ、イリスお嬢様。学園の準備を」

 侍女のルースに流されるまま支度した。

 これから学園が始まる。

 やらなければならない。

 一年後の婚約破棄に向けて。


「お前とは婚約破棄だ!イリス・オーエン」

 怒声混じりのそんな叫びが会場を反響した。

「殿下……何故ですか」

 失敗した。

 一年あって様々な事を変えてみたけれど、結果失敗した。

 結果は同じ。

 殿下はアイリス男爵令嬢を庇い、私と婚約破棄をした。

 私は公爵家に戻り、ピュグマリオーンがいた場所へと向かう。

「おや、こんな時間にこんな所で女性が独り」

 道化の仮面の男が立っていた。

「ねぇ貴方、上限は百回と聞いたのだけれど」

「おや、悔いのある結果となってしまいましたか。それでは二回目、さぁさぁ目を閉じて」

 私は目を閉じ、もう一度開けると朝だった。

 私は都合の良い夢でも見ていたのか。と思わせるかのような清々しい朝だ。

 「さぁ、イリスお嬢様。今日から学園生活の始まりですよ」

 侍女の放つその言葉に不自然なく返事をした。


 二回目、三回目失敗を繰り返した。

 殿下に会わないよう避けたり、逆にアイリス男爵令嬢に近づいたりしたが、失敗した。

 四回目、五回目婚約破棄されるパーティーを欠席したり、殿下の傍に付いていたりしたが失敗した。

 六回目、七回目裏で誰か動いているのかがわかったけれど、失敗した。

 八回目、九回目証拠を掴もうと暗躍するにも失敗した。

 十回目以降は数を覚えていない。

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

「おや、悔いのある結果となってしまいましたか。それでは五十一回目、さぁさぁ目を閉じて。

 嗚呼、どうせ失敗するなら思いっきりその男爵令嬢を陰でいじめ、階段から突き落とそうとしてみては?」

 どうせ失敗するなら。

 そんな悪魔の囁きだ。

 私は目を閉じ、目を開けた。

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。

 もう疲れた。

 心がそう悲鳴を上げている。

 何回目だかにピュグマリオーン言われた言葉を思い出した。

 アイリス男爵令嬢を陰でいじめ、階段から突き落とそうとしてみた。

 それすらも飽き足らず、婚約破棄されるパーティーにナイフを持ってアイリス男爵令嬢を刺そうとまでした。

 しかし、失敗した。

 殿下を守る近衛騎士に身柄を拘束され、幽閉。そして民衆の前で処刑された。

「おや、悔いのある結果となってしまいましたか。しかし、ナイフまで持ち出すなんて愚か素晴らしいじゃあありませんか。

 しかし、少しは気分が晴れたのではないでしょうか」

「最悪の気分ね」

 最期は殿下だけじゃなく、この街の民にさえ裏切られた気分になった。

 しかし、今までより気持ちが楽になった。――いや、気持ちが楽だった。

 最初から張り詰めた気持ちが無かったからか、はたまた失敗するつもりでいたからか。

 私は溜息を吐いて、次の回帰へと臨んだ。

 後少し。

 最初よりは上手く出来ている。

 後少しなのに、手を伸ばした先に掴める未来が届かない。

 九十九回目も失敗。

「次で最後ですよ」

「わかっています」

 強気な返事を口にするが、望んだ未来を掴めるか不安だ。

 男爵令嬢を祀り上げた貴族達も分かっている。

 男爵令嬢が流した、私の悪い噂の出所も分かっている。

 殿下が何故婚約破棄を考えたかも知っている。

 私の至らなさや殿下との接触が不足していた事も全て分かっている。

 分かっているのに……届かない。


「お前とは婚約破棄だ!イリス・オーエン」

 怒声混じりのそんな叫びが会場を反響した。

「殿下……何故ですか」

 毎度私の全てを尽くし、結果出た言葉。

 何度やっても、やり直してもアイリス男爵令嬢との仲を引き裂けない。

 何回やっても私が悪者になってしまう。

「何故か?それはお前が一番わかっているのではないか」

 何故こんなにも私は無力なのだろうか。

 全身の力が抜ける。

 嗚呼、百回目の回帰が終わる。


 私は屋敷の中庭にいた。

「これで百回目が終わりましたが、どうでした?望んだものは手に入れられましたか?」

 道化は嗤う。

 どうせ私の事を知っているのだろう。

 ――いや、私の今の顔を見たら誰でもわかるだろう。

「もう、どうでも良くなりましたわ」

 百回もやって何一つ上手くいかなかった。

 もう心が折れた。

 ただ、月の無い夜が流れる。

「そうですか。百回繰り返してスッキリもしませんでしたか」

 スッキリという言葉が引っ掛かった。

 アイリス男爵令嬢を刺そうとした時は少しはスッキリ出来るかと思ったけれど、それさえも上手くいかなかった。

 何もかもが上手くいかなかった。

「さて、貴女の望みを聞く前に言っておきましょう。「全て投げ打って、いなくなりたい」などと言わないで下さいな」

 私の心を読んだかのような言い方だ。

 確かに私は「いなくなりたい」と思っている。

 流石に百回も繰り返して打ち込んだのに全てが無駄だった事に心が折れた。

「どうせならスッキリしましょうよ」

「スッキリ……」

 悪魔のようにピュグマリオーンが囁く。

「貴女の事を見下した人々に痛い目見せてやりませんかぁ?」

「私を見下した人々……」

 アイリス男爵令嬢はもとい、殿下やその周りの貴族、私を投獄した際に石を投げて来た民達が頭に浮かんだ。

「さぁ、貴女の望む事は何でしょう?」

「王都のみんな――みんないなくなればいい!!」

「はっはっはー。正解だとも公爵令嬢!!」

 金色の文字が空中に浮かび上がる。

 私の首にあった痣と重なり収束する。

「貴女の望みを叶えましょう」

 悪魔ピュグマリオーンは深く礼をして私の前から消えた。


 ◆

「さて、まずは王子からいきましょうか」

 公爵令嬢と契約し、ピュグマリオーンは独り言を吐いた。

「そこの者、止まれ!」

 城の前に立った衛兵が呼び止める。

「夜分失礼します。イリス・オーエン公爵令嬢から殿下に対してお手紙をお持ちしました」

 衛兵が手紙を確認しようと開いた瞬間に魔術が発動する。

「確認シタ。入レ」

 衛兵が確認した手紙の中には、ピュグマリオーンが王城へ入るための魔術しか描かれていない。

「さて、ここでしょうか」

 ノックをすると「入れ」と男の声が応えた。

「誰だ?」

 本来なら衛兵やメイドなどの者が入り、要件を伝える。

 しかし、目の前にいるのは見た事の無い男。

「失礼、殿下。イリス公爵令嬢から手紙を預かっております」

 殿下と思わしき人物に要件を伝え、殿下の傍にいる従者へと手紙を渡す。

「イリスからだと?はっ!くだらん」

 殿下は手紙をその場で破り捨てた。

「実に扱いやすいいい。素晴らしい!」

 破り捨てられた手紙から黒いモヤが発生する。

「貴様!何をした!?」

 従者が外の衛兵を呼ぼうとドアへ向かって走るが、ドアは開かない。

 ドアを叩いて「誰か!」と大声で叫ぶが、誰も反応しない。

 それもその筈。この部屋には防音の魔術がかかって良いる。

 外とは遮音され、気付く事はない。

 黒いモヤは殿下に纏わり付き、振り払おうとする動きを封じた。

「殿下!」

 従者が黒いモヤを取り払おうとするが、従者にも纏わり付いて動きを封じた。

「殿下これは呪いです」

 手紙にかけられた呪い。

 呪いのモヤからは「オシタイシテオリマス」と声が聞こえる。

 手紙と呪いは相性が良い。書く側は気持ちを込める。手紙には気持ちがこもる。そしてよどむ。

 この手紙に書かれたものイリスの直筆ではあるが、呪いはイリスがかけたものではない。

 呪いの手紙【火恋禍ひれんか】というアイテムを使用し、利用したにすぎない。

「この呪いは読まずに破り捨てられたら発動します。ええ。ええ。実に扱いやすく、素晴らしいお方だ」

 道化はわらう。

『オシタイシテオリマス。オ死体シテオリマス。恋焦ガレ妬ケルワ。自棄ヤケテ、ケテシマウワ』

「許さんぞォ!!イリィィス・オォォォーエェェェン!!!」

 殿下は黒いモヤに飲みこまれ、焦げ臭いにおいが部屋の中に充満すると殿下と従者だった“モノ”が転がった。

「許すも何も自業自得でしょうに。傷心した女性の恨みで焼身するなんてわらえませんねぇ」

 道化は遺体を横目で見てから部屋の隅に置かれた玉を見つけた。

「よく録れていたら良いですねぇ」

 一通り咲った道化は部屋を出た。

「見張りご苦労様」

 衛兵が扉の前に立って敬礼をしている。中の惨状に気付く事はない。

「嗚呼、アレを捨てておいてくれ。イリス公爵令嬢の使用人だ」

「し、承知しました。殿

 衛兵たちは道化を殿下と思わせるよう魔法がかかっている。また、部屋の惨状すら言われないと気付く事すら出来ないほど判断力が鈍っている。

「簡単なお仕事だ」

 道化は咲いながら次の目的地へと向かった。


 扉をノックすると「はい」と応えが返って来たので中に入る。

「あら、貴方のおかげで王妃になれそうよ」

 アイリス男爵令嬢はニヤリと笑みを溢す。

「いやぁ、それはそれは良かった」

 道化も咲う。

「では、契約内容の確認を――」

「わかっているわ」

 アイリスは道化の言葉を遮って頷く。

「殿下と私が結婚したら、私に出来る事で貴方の願いを一つだけ叶える」

得意げに答えたが、道化は首を横に振る。

「結婚ではなく婚約ですよ」

 アイリスは「ここまで来たらどちらも同じじゃない」とごちる。

「なので、あのパーティーで婚約なされたとの事で契約完了と致します」

 道化は深々と礼をする。

「あら、もう知っていたの。なら、祝い言でも言うべきじゃない?」

「……ご婚約おめでとうございます」

 道化はまたも礼をする。

「それで?契約が完了したから願いを叶えろって言いに来たの?」

「ええ。ええ。その通りで御座います」

「まだ婚約したばかりで権力もお金も無いわ。また来てくれる?今は幸せを噛み締めていたいの」

 アイリスは道化をシッシと追い払うように手を振る。

「大丈夫ですとも」

 道化は機嫌が良さそうにアイリスの目の前に立った。

「お金も権力も必要ございません」

「どういう事?」

 アイリスは道化と真逆の機嫌で道化を睨む。

「お命頂戴いたします」

「は?」

 アイリスは道化が振りかざした剣を咄嗟に回避する。

「何でよっ!アンタは私と殿下が結婚するように仕向けたんでしょ!?それを何で……」

「新たな契約者の望みです」

 道化はクルクルと投げナイフを宙に浮かべ、アイリスへ向かって投げる。

 アイリスは悲鳴をあげて逃げ回るが、衣服と大腿にナイフが刺さって動きを封じられた。

「貴女は私の器にはなれません」

「……器?」

 ナイフの刺さった衣服を引きちぎりながらも、疑問が言葉として出てしまっていた。

「ええ。貴女では魔力が低すぎる。素材として不十分」

「そんな事っ!わかってるわよ!」

 アイリスは床に刺さったナイフを抜いて道化へ向かって投げた。

 戦闘能力があるはずもなく、アイリスの投げたナイフは簡単に避けられた。

 アイリス自身も簡単に避けられる事は理解していた。

 自身の魔力が少ないコンプレックスからの不満と、この不条理な状況をナイフに込めただけだ。

 ただ、そのナイフを避ける事で生まれた隙をアイリスは逃さなかった。

 大腿に刺さったナイフを引き抜き、手で押さえながらも逃げ出した。

「逃げられませんよ。契約ですから」

 身体に巻き付いていた金色の【契約魔法】がアイリスの目の前で展開された。

 “私はこの国の殿下と側室じゃなく、正妻として婚約したい。婚約さえしたら私が出来る範囲のものを一つだけ叶えるわ”

「我、契約は完了した。我、望むは貴女の命なり」

 アイリスの目の前に展開された【契約魔法】が黒く染まり、鎖のようになってアイリスの首に巻き付いた。

「何よコレっっ!く、!離……」

 首に巻き付いた【契約魔法】を首から外そうともがくが、触れる事すら出来ない。

 首を引っ掻くような姿、苦悩に満ちた顔でアイリスは事切れた。

「二人目完了」

 道化はアイリス男爵令嬢の首を落とし、麻袋に詰めた。


「御機嫌如何でしょう」

 ヘラヘラとした声が何処からともなく聞こえて来た。

「私の気分が良いと?」

 公爵令嬢の顔は険しい。

 眠れなかったのだろう。目の下にクマが見える。

「はっはっはー。これは手厳しい」

 イリス公爵令嬢と道化の温度差が、よりイリスを苛立たせる。

「それで?」

 道化は返事をせずにテーブルを出して並べた。

「それでは、ショータイムです」

 空中に浮かんだ黒いもやからテーブルへと何かが落ちた。

 イリスは直視してはいなかった。

 ただ、道化が何か嫌な事をしでかしたと感じたからだ。

 しかし、並べられたテーブルから落ちる液体が視界の端に入った。

 ポタポタと落ちる液体。

 そして嫌な臭いが鼻を抜けたので、やっとテーブルに目を移した。

「きゃぁぁぁぁ」

 思わず口から悲鳴が出てしまった。

 公爵令嬢として多少の事なら我慢出来ていたはず。

 心労の疲れからか、それともが瞬時に何かがしまったからなのかは分からない。

 テーブルに並べられていたのは首。首。首。

 血と脂の臭いが鼻について喉奥に充満する。

 ストレスで荒れた胃と臭いが混じって胃の中の物を押し上げた。

「おやおや、大丈夫ですか?」

 吐瀉物で汚れた床を気にするように道化は座った。

「――大丈夫なわけ……」

 返事をしようと口を開くと、また胃酸と共に湧き上がって来た。


 胃から全て吐き出し、肩で息をするようになった時には血の臭いなど気にならなくなった。

 それよりもが鮮明に見えるまでに回復してしまった。

「さぁさぁお立合い。これよりご覧頂くのは貴女を断罪したメンバーだ」

 ふざけたようにテーブルの前でクルクルと踊り出した道化には似合わなさすぎるほどの悲惨な光景。

「まず、こちら。騎士団長の息子であるアレル・キシライト様です」

 私を断罪した時に抵抗出来ないように拘束した人物。殿下の取り巻きであり、護衛役それがアレル・キシライト様。

 その首がテーブルに置かれている。

「次は宰相の息子。ケイ・サンスー様です」

 殿下の右腕であり、現宰相の息子で頭の切れる人物。ケイ・サンスー様。

 その首がアレル様の隣にあった。

「そのお隣。他国との門。外相大臣の息子。エウィーゴ・ハッセル様」

 同じ公爵家出で外相大臣の息子。エウィーゴ・ハッセル様の首までもがある。

 誰もが私の断罪メンバーだ。

「さぁさぁ、まだいきますよ――」

 殿下の取り巻き三人、その周りにいた人物の首が紹介されていく。

「さぁ、これが最後。貴女が一番羨んだ恨病んだアイリス男爵令嬢だ」

 アイリス男爵令嬢の苦悩に満ちた顔。それを見て、妬ましい想いや悔しい想いは全て無くなり、「ここまでして復讐をしたかったのか」と思わざるを得なかった。

 殿下の取り巻き――この国を担う者の御子息達の首が三つ。それと男爵令嬢の首が一つ。

 そこで我に返った。

 取り巻きの首だけしか無いのだ。

「殿下!殿下はどうしたのですッ!?」

 叫ばずにはいられなかった。

 これほどまでに殿下の周りの人間ばかりがされたのだ。

 殿下が無事である保証は無い。

「いやはや、申し訳ございません。殿下は貴女の呪いで黒焦げになってしまいまして――あら?聞いてます?」

 黒焦げ?

 いや、殿下の命が狙われていたのはこのメンバーからは分かっている。

 そうではない。そこではない。

「私の……呪い?」

 手が震えた。

 ――いや、震えている事に今更ながら気付いた。

「いやはや、素晴らしい呪いでした。流石は公爵令嬢ですね」

「違っ!そんなッ!私は……私が殺したみたいな……」

 この首たちに加担した覚えは無い。

「何をおっしゃいますか。殿下に手紙を書かれたじゃあありませんか」

 道化はケラケラと咲うわらう

 冷え切った汗が頬を伝う。

 手紙は書いた。それが呪いだとは知らなかった。

「私はッ!こ、殺してなどいません。呪いだなんて……」

「そうですね。しかし、貴女は願った!“みんないなくなればいい”と!!」

 道化はイリスが加担した事に対する罪などどうでもいいかのように答えた。

 そして、道化はイリスの願いを叶えるためにやっていると言っている風だ。

 中身の無い胃が悲鳴を上げて押し戻そうとしている。

「私の……私のせい」

 汗ばんだ手の平を見つめる。

 キラキラと反射する汗の煌めきが、赤く染まっているように思えた。

「貴女のせいじゃありません。そうですねぇ……悪いのは運でしょうか。運が悪かった!」

「そんなワケっ――!!無いじゃない。貴方は何がしたいのよ」

 罪を背負いきれない。

 けれど、全て自分のせいじゃないと言えない。

 だからイリスは「運が悪かった」などとは言えなかった。

「私は知りたいんですよ。全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全ての事柄を!!」

 やっと道化の仮面の本音本性が見えた気がした。

「イリス公爵令嬢。貴女は魔法が何か理解わかります?」

「魔法は魔力があるヒトがイメージを持って……」

 学園の教科書通りの文を並べた。

 それに対して道化はつまらなさそうに溜息を吐いた。

「では、魔物が魔法を使うのは?」

 イリスは黙った。

 これは「魔物だから」としか言えないからである。

 それは答えになっていない。

「魔物全てには魔力がある。そして魔物もヒトと同じ知能があり、イメージを持って魔法を使う。それなら納得します」

 辻褄が合う。

 けれど道化は首を横に振った。

「魔物には魔力があるのにヒトは限られている。魔力のあるヒト。無いヒト。はっはっはー。それは不思議ですねぇ」

 基本的には貴族が魔力を持ち、平民は魔力が無い。

 だから魔法が使えるのは僅か。

 それが“当たり前”である。

「――誰しもが魔力を持っていますよ。そして、イメージを持って魔法を使う必要性はありません」

 その言葉に思わず顔を上げた。

「魔法は才能。微弱であろうが草木にも魔力がある。魔物がヒトのようにイメージを持って魔法を使う事は無いのが答え」

「それは――嘘よ。本当である証明が出来ないわ」

 もしそれが本当なら、どれだけの領地が発展し、国が栄え、豊かになった事か。

 平民でも魔法が少しでも使えるなら苦労がどれ程無くなったか。

 イリスはそう思ってしまった。

「本当かどうか……それは、私が知っていれば良いんですよ」

 道化は口元に人差し指を当てる。

「まぁ、これを――これだけを知るためだけに百年費やしてしまったわけです」

「百……年?」

 死んでいてもおかしくない。

 いや、二回死んでいても良いほどの年数だ。

「私はもっと知りたい。この世の全てを知って知って知って知って知って知って知って知って知って知って知って知り尽くしてしまいたい。

 けれどね、足りないんですよ。寿命というタイムリミットが!だから必要なんです」

 そう言って道化は私の周りに何かを描き始めた。

「何ッ!?」

 グルグルと円を描く。

 それは――魔法陣。

「さぁ、クライマックスですよ!」


 魔法陣と共に王都全域が光出した。

「何を!!」

「はっはっはー。これからが契約内容ですよイリス・オーエン公爵令嬢」

 イリスの首にある文字が光り出し、契約が露わとなる。

 イリスの願いは“王都のみんながいなくなればいい”であり、それに対するピュグマリオーンの要求は“イリス公爵令嬢の全てと悪魔との契約”である。

 契約が完了されるには願いが叶わなければならない。

 王都の光が消え、魔法陣の大きな光がイリスを包み込む。

「さぁ、ショータイム!!!」

 道化がイリスに対して頭を下げて礼をする。

「何をしたの!?」

 イリスが言葉を発すると同時に巨大な魔力と光が波となってイリスを巻き込んだ。

 それは竜巻のような、はたまた荒波のようなもので、イリスの身体を持ち上げては口や耳から身体の中へ入っていった。吸収というよりネジ込んだともいえる。

「な……に……を……」

 息するのも困難ともいえる表情で道化に訴え掛けた。

「この街の住民全てを捧げたのです。半分は貴女に。そして、もう半分は――」

 魔法陣が光り、頭は牛骨、人間のような胴体と牡牛の胴体が合わさり、グリフォンのような翼を持ち、四本腕の何かが現れた。

『ンん〜?オマエはアレか?もしかして、もしかするとピュグマリオーンか?ヴァハッハ。歳をとったものよのぅ』

 何かはわからないがピュグマリオーンの顔見知りのようだ。

今日も贄が多くて結構。ンん?我を召喚したのはオマエでは無く、この小娘か』

 何かは息を整えているイリスに牛骨のような顔を向けた。

『そうか。そうか。悪いヤツだなピュグマリオーン!!ンん??』

「私はこのイリス公爵令嬢と契約したまでです」

 どちらも笑ってはいるが、笑い事では無い。

「貴方は何!?何なの!?」

 その何かはニヤリと牙を剥き出して嗤った。

『ンん?我は悪魔。ハーゲンティだ。こやつに錬金術を教えた者だ』

 イリスは絶句した。

 悪魔と呼ばれる存在は知っている。しかし、それは誰もが知る御伽話の中――空想上のものでしかないと思っていたからだ。

 しかも、その悪魔が錬金術を教えるなどと、聞いたことも無かった。

「さぁ、イリス公爵令嬢。悪魔と契約して下さい」

 優しく囀るかのように道化がそう言うと開きたくも無い口が開いた。

「私の……全てを……彼に捧げます」

『よかろう。契約成立だ。ンん?そうなると、我の取り分が少ないな。なら、契約者が死んだ時に魂を貰い受けるとしよう』

 悪魔ハーゲンティが出した黒い鎖がイリスの身体を貫く。

 イリスの口が開き、言葉を発する前に身体から鎖に繋がれたイリスが出てきた。

『これは良い魂だ。純粋で愚か。実に素晴らしい』

『この鎖は何!?何をしたの!?』

 フワフワと鎖に繋がれたイリスが叫ぶが、身体の方は動く気配が無い。

『ンん?お前の魂を引き抜いたのだ。そして、この鎖はお前の魂を縛るちぎりだ。死んだ時に我が魂を奪う為のな』

 ハーゲンティが道化を指差すと男の魂が浮かび、瞬時にイリスの身体へ入れ込んだ。

『さぁ、お前はこっちだ』

 黒い鎖を強く引いてイリスの魂を道化の身体に入れ込んだ。

 道化の首に鎖模様が浮かび上がる。

「なっ!何なの!?」

 道化が慌てふためくが、仕草が女性らしい。

「おやおや、――いや、これはこれは、の姿で変な仕草をしないで下さい」

「あ、貴女――貴方はピュグマリオーンなの!?」

 自分の身体から聞き覚えのある話し方が聞こえる。

 そして自分の声が男の――ピュグマリオーンの声がした。

『イリスとやらとピュグマリオーンの身体を交換したのだ。これで全てが手に入っただろう?ンん?』

 ピュグマリオーンがハーゲンティに不敵な笑みを浮かべる。

「ええ。ええ。とても素晴らしい。魔力の器も、何百の魂からなる生命の力も。全て!!」

 イリスの身体でピュグマリオーンは「はっはっはー」と咲う。

 何百の魂からなる生命の力。それを聞いてイリスはハッとした。

「何百の魂からなる生命の力って、何!?」

 イリスは願った。“みんないなくなればいい”と。

 そして契約が実行され、ピュグマリオーンに全てを捧げた。

『ンん?そりゃあ、みんな死んじまったんだよ。アンタの身体の養分としてなぁ!!そして半分は我が戴いた』

「そんな……」

 涙が仮面を伝って零れ落ちるのがわかる。

『ンん?知らなかったみたいだなァ。そうかそうか。なら、ネタバラシといこうじゃあないか。ンん?』

「いやはや、意地が悪い悪魔だ」


 ◆

 ネタバラシと聞いても何の事だか分からずに涙が溢れるばかりだった。

 しかし、イリスはハーゲンティの“犠牲となったヤツ等のためにも”という言葉に反応して耳を傾けた。

『魂を入れ替える時に見たが、全部仕組まれてたんだよ。此奴ピュグマリオーンになぁ!!』

 悪魔は嗤いながらもピュグマリオーンを指さした。

「仕組ま……れ……全……部……?」

 声が出ない。

 そんなはずは無い。そうは思うが、頭が回らない。

『そうさ。恋敵を仕組み、アンタを蹴落とし、“アンタと我を契約する”という契約をする。そう。全部だ!!』

「そ……ん……な……」

 蚊の鳴くような声しか出ない。

 これが全て嘘だと――出鱈目であったらと願ってしまう。

 しかし、そうはいかなかった。

「はっはっはー。本当に趣味の悪い悪魔だ。私が隠し通していたのにバラしてしまうなんて」

「嘘……だって、百回もチャンスを……」

 イリスの手が震える。

 裏切られた――最初から仕組まれていた事に動揺が隠せない。

『ンん?アレは【魔法】だ。百回悪夢を見せる魔法。アンタは夢を見ていたんだ』

「夢……しかしっ!真相に近づいてッ――!!」

 イリスの言葉を聞いてハーゲンティは嬉しそうに嗤う。

『アンタに良い事を教えよう』

 ハーゲンティは「これはサービスだ」と言って人差し指を立てた。

『ヒトの記憶は面白いモンでなぁ、目の端に映ったモノさえ記憶されるワケだ。

 アンタは目の端に映ったモノを意識をせずにに関して思い浮かべたり、詩を詠んだりした覚えはないか?

 改めて考えてみたら視界に入ったに関した事柄だった覚えは?』

 ハーゲンティは翼から「羽根」を手にすると「これを視界に入れたら鳥や空などを浮かべたりなぁ」と言って羽根を放り投げた。

 イリスはその言葉に思い当たる節があった。

 星をかたどった彫刻を視界に入れた後に「夜の詩」を思い浮かべていた事があった。

 特に星をかたどった彫刻を意識して見たわけではないのに。

『そこでだ。その悪夢は自分の記憶から推理していったわけだ。目の端に映った情報を基にしてな』

 ハーゲンティは「所詮は記憶。真実正解にたどり着くハズが無いのになぁ!」と嗤う。

「では……では!アイリス男爵令嬢を裏で操っていたと――」

「はっはっはー。黒い帽子に髭を生やした細身の男性だろう?」

 ピュグマリオーンがイリスの言葉を遮った。

 その言葉はイリスが言おうとしていた男性の特徴だ。

「何……で……知って……」

「それは私がそう見せたからだとも」

 いつの間にか壁にその人物が映っていた。

 そして、私の身体と同じポーズを写した。

「そして、投影先は私だよ」

 ピュグマリオーンはピュグマリオーンの身体であるイリスを指さし、イリスの顔でわらった。

「それ……では……」

『最初から仕組まれていたってワケだ。そして魔力量の多いアンタに目を付け、国民の命を糧に増やし、身体を乗っ取ったワケだ』

 ハーゲンティ「おわかり?」とイリスを指さした。

「さて、イリス嬢お疲れ様でした。貴女の命はそう長くは無いでしょう。仮面を外せば、ほぼ何も見えないほどの道化の身体。随分とガタが来てしまっていますから」

 イリスは項垂れながら「私が……私が……私が……私が……私が……」とつぶやいている。

『さてと、契約者様はもう壊れたようになっちまったが、ピュグマリオーンはどうするんだ?ンん?』

「若返り、性別も変わりましたからね。慣れるまで記憶喪失のフリでもして何処かの国でゆっくりしますとも。

 先ずは、この都にいなかった者が帰って来るまでに去らなければなりませんね」

 ピュグマリオーンは頭を下げようとしたが、途中でカーテシーに切り替えて「ごきげんよう」と闇夜に消え去った。


 ◆ エピローグ ◆

「なぁなぁ、知ってるか?王都の生き物全てが一夜にして亡くなったってヤツ」

「知ってる。なんだか道化の仮面の男がやったという噂だ」

「如何にも怪しいな」

「そうなんだよ。王都にいた唯一の生き残りだと」

「だけど、それじゃあ証拠も無いだろ」

「いや、王子殿下を殺した映像が王家にあった魔道具で残っていたらしい」

「本当かよ。映像記録の魔道具があるなんて流石は王家だ。映像記録の魔道具なんて金貨何枚あっても手が出ない代物だろ」

「音声までは記録出来ないらしいが、証拠としては十分だろ」

「けれど王都の生き物全てを殺して回ったのによく捕まったモンだ」

「なんだか分からないが、捕らえた時には放心状態だったらしい“悪魔がやった”だとか“身体を返して”だとか呟いてたとか」

「怖いな。精神イカれちまったヤツの犠牲になったのか」

「そうらしいな。冒険者が依頼から帰って来た時には皆殺しだそうだ」

「悲惨だな」

「そんな事もあってか、運良く生き残った公爵令嬢は記憶すらトんじまったらしい」

「そりゃあ、ショックだろう」

「イリス公爵令嬢っていうんだが、拾われて今はこの国に滞在してるらしい」

「そうか。そんなお貴族様がなぁ。早く回復すると良いが」

「記憶はほとんどないらしいが、研究熱心らしい」

「気を紛らわせたいんだろ。良くある話だ」

「まぁな。自害しなかっただけマシかもな」

「立ち直るまで時間かかるだろうよ」

「そうだな。さて、仕事始めるか」

「おう」

 数ヶ月に道化の仮面男は処刑され、悪魔と共に闇へと引きずり込まれていったという。

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