第十九章~吸血鬼~
私の手の平に広がる真っ赤な液体を見て思った。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――と。
いや、ネタが古すぎて分からない人が多いんじゃないかと思う。
昭和時代の年齢なら……いや、昭和育ちを非難してるわけでないのだけれど。
笑える知識が多い方が良い。ええ。
小説でワンセグをネタにして、コミカライズされた時には時代が進んでオチがないってなる事もある世の中だから。
あらら怖い話ですこと。
心の中で叫んだ事は少し後悔している。
いや、異世界なのでネタをわかる人がいないのは仕方がないのはわかります。
口に出さなくて良かったと思う反面、逆にストレスとなってしまったな~と思うわけですよ。
吠えたかった。
月に吠えるのが狼、
因果関係として最高だと思ったのだけれど。
まぁ、こうなるまでの経緯を話す事にしましょうかね。
◆
「天気が怪しいですね」
『雪でも降りそうですね』
季節は冬。
天気は曇天。
重く黒色の雲が日を遮るかのように天を広がる。字の如く曇天。
私とシルキーさんは少し遠出の散歩中。
リアカーを木製から、街で買った金属を使って金属製へとグレードアップした。
私自身の力量もそうだが、この世界では木製となると使用が限られてくる事が分かった。
薄々気が付いていたが、もう「分かった」のだ。
「耐久性の最低ラインは鉄なのだ」
木製じゃ無理だ。
木製風力旋盤も金属製にした。
旋盤を金属製にするとどうなるか。
重くなる。重くなると風力はキツイ。
しかし、シルキーさんは流石風の精霊。
石を流すかの如く強い風を出す事が出来る。
シルキーさんがいれば発電いらず。
いや、発電なんてタービンを回す事で発電するのだから、風の精霊がいればエコロジー発電が可能!
異世界なのだから電気を直接出せよって?……そうですね。
そんなこんなで旋盤が出来上がり、リアカーを作り、今は耐久テスト中。
異世界らしく最初から一気に【錬金術】でリアカーを作ろうとしたが、逆に面倒になった。
魔術の陣と設計を文字化し、バランスを気にして組み立てる。
三次元の設計ソフトでやるより、二次元の設計ソフトでやった方が速い現象。
便利なものは遠回りになる可能性があるから気を付けよう。
それで、素材から鉄パイプにするのと溶接部分は【錬金術】でやり、切ったり何だりは旋盤でやった。
鉄パイプは厚肉薄めではあるが強度が欲しいので、中に六角パイプを仕込んでいる。
普通はやらない事を【錬金術】でやってみる事にした。
六角パイプだけにしない理由として、T字にくっつけるとした時に面倒だからだ。
円なら横縦を気にせずくっつけられる。
「中がハニカム構造だから縦揺れにも強くて良いですね」
『凄いですね』
「凄いのは蜂ですよ。強度ある巣の作り方を最初から知っていたのですから」
ヒトは蜂から学んだに過ぎない。
生物から学べる事は色々ある。
カタツムリの殻が汚れていない事に気付いたヒトは、それを真似してヨーグルトの蓋の内側を真似てみた。
すると、蓋の裏にベッタリ付着していたヨーグルトがなくなった。
飛行機の騒音を軽減する為に
生き物を観察し、アイデアが浮かべば物凄い発見になるかもしれない。
これからの未来、切削加工では出来なかった方法が“出来る”時代だ。それによってもっと応用出来るだろう。
夢のある話だ。
まぁ、こちとら異世界なので【錬金術】があり、コストの削減や溶接時の歪みが無いという未来を超える世界だ。
溶接での歪みで苦労した人が多かったろうに。
パイプの肉厚が薄いのに壊れない。
まぁ、今回は少し板バネも仕込んであるので、そう簡単には壊れないはずだ。
思ったが、どうにもこの世界はバランスが悪い。
私の握力を含めた身体能力が高いのが原因の一つではあるのだけれど、木材でどうにか出来る事が金属でなければならなかったり、簡単な物を作るのに手間が必要だったりと、試作すら困難になる場合がある。
そうなる事で、コストが上がり、技術の進歩が遅れているような気がする。
ただ素材のみで強度を上げるなら問題は無いのだけれど、今回のように構造で強度を上げたりするには模索するしか無い。
技術開発は時間のかかるもの。
しかし、魔法・魔力が邪魔をしている。
人間、便利なものがあればそちらを使ってしまう。
便利なものは複雑であるのに対し、不便なものはシンプルな構造が多い。
シンプルな構造を理解する事で、技術発展する事が多いのだけれど、この世界はそれが無いのでバランスが悪い。
医学だとポーションや回復魔法があり、外科手術などは遅れている。
もしもの時にポーションなどがあれば問題無いが、それが手に入らない場合の技術は誰も持っていない。
それをティマイオスの街で理解した。
正規ルートを通らずに歩んでいる感覚だ。
基礎がわからないと応用が難しくなる。
バランスが悪い為に発展が遅くなる。難しいものだ。
魔法ありき、魔物ありきの独自路線を進めれば良いが、茨の道だろう。
「人類の発展は難しいですね」
『お嬢様がそう仰るのですね』
私は首を傾げた。
私が知っているのは知っている事だけだ。
それ以外は空論で空想で妄想なのだ。
合っていれば事実となる。
リアカーを走らせていると、ふと目の端に何かが映った。
「お!ローズマリーですね」
ローズマリー。シソ科に属する常緑性低木。
香辛料やハーブとして用いられる。
ヨーロッパでは生者、死者を悪魔から守る神秘的な力を持つと言われた。
薬としても使うので、そういうイメージなのだろう。
『ハーブでしょうか』
「そうですね。香草……香辛料でもあります」
花言葉は“追憶”とかだっただろうか。
「少し葉を摘んでいきましょう」
ローズマリーがあれば肉や魚の臭み消しとして使える。
また、アルコールと抽出すれば高い抗ウイルス活性、抗酸化活性があるとされる。
異世界の病気とか洒落にならないので、予防として必要だろう。
甜菜糖を発酵させて強いアルコールが出来そうなので、それを使う。
私はアルコールを飲むのが苦手なので、そういう活用法にする。
正直、発酵物は運要素が大きい。
酒蔵などでは蔵自体に菌がいて、それが助けになっていたりしたそうだ。
最初に一から菌による発酵なんぞ茨の道でしかないのだけれど、アルコールは比較的作りやすい。
炭水化物などを糖へ変えたら酵母と呼ばれる菌が糖分が分解し、アルコールと炭酸ガスが作り出される。
作りやすいと言えども失敗するだろう。
造酒は一つ成功すれば他も成功する可能性は高く、一つ失敗すれば全滅になる事が多い。
日本のように清潔な環境で、作っているならそのリスクは減るのだろうが、無理だろう。
酒造りも偶然と努力の結晶である。
「人類はアルコールに支配でもされているんですかねぇ」
私は独り言を呟きながらもローズマリーを摘んでいく。
『お嬢様、綺麗な花が咲いています』
シルキーさんが指さす先にはピンク色のヒガンバナ科が咲いていた。
「これはネリネですかね」
ネリネ。別名ダイヤモンドリリー。
ギリシャ神話の水の神々 “ネレイデス”からつけられたとされる。南アフリカ原産の植物だ。
『白やピンクなど色々と種類があるのですね』
「種類が豊富な花でもありますからね」
現在およそ三十種もあり、栽培や交配によってその数は増えていくであろう。
ヒガンバナっぽいものや花弁が細かったり、百合のようなものまで様々だ。
「ネリネと言ったらシャッフルか……」
『何かを混ぜ合わせるのでしょうか』
独り言を聞いたシルキーさんが質問してきたが、私は首を横に振って「何でもありませんよ」と返した。
あのゲームは植物の名前と花言葉が関係しているからか、つい口に出してしまった。
シルキーさんの前であまり口に出さない方が良さそうだしなぁ。後が恐い。
「ネリネが咲いていますし、冬ですねぇ」
空は相変わらず曇天。雪でも降りそうである。
イギリスや日本海側の曇天っぷりだ。
「そろそろ帰りましょうか」
『そうですね。雪の心配もあります』
風の精霊なので天気予報とか出来るのだろうか。
家に着いた瞬間にチラチラと雪が降り始めた。
「うわー洗濯物とか取り込まないと」
干してある食材もあるので、二人でせっせと家に荷物を運び込んだ。
『ゴーレム達は何を?』
外のゴーレムは肩をつかみ合い、円陣を組むよう玄関前に立たせている。
「雪が積もって外に出られなくなったら困るので、雪除けとして立ってもらってます」
この世界――いや、この地域でどのくらい雪が積もるか分からない。
朝起きたらドアから出られませんでした。なんて洒落にならない。
とりあえず雪をどかせるようにする。
頑張れば魔法でどうにでもなるが、家が焼けたりしては怖いので外に出られるようにしたい。
『雪があまり積もらなければ良いのですが』
念の為に雪かきスコップを作っておこう。
雪は重いので、支点となる部分が弱いとすぐに折れる。
柄が木のスコップだと腐ってしまい、いざ使おうとした時に使えない場合がある。
全金属製はスコップが重く、雪かきに向かない。
だが、私はやるね!この馬鹿みたいな力があるなら全て金属製でも勝てる!
『お嬢様、何を?』
「雪かきスコップを作ってきます。夕飯頼みましたよ」
私は工房へと向かった。
『夕餉が出来ました。お嬢様、それは……』
シルキーさんがノックして工房へ入ると私がスコップを磨いていた所だった。
磨いていた。というより、研磨していた。
『それは武器でしょうか』
「いいえ。スコップです」
ディスイズアペン!みたいな。教科書の一文のような会話だ。
『えぇと、よく切れそうですが』
「雪は氷になるんですよ。凍った雪は硬いので、これで仕留めようと思います」
スコップの先端はギザギザにしており、刺さるようにしてある。
そして、スコップの先端から刃が飛び出してくるようなギミックにしてみた。
「最初はアイスピックみたいな針状にしようかと思ったんですけどね。攻撃範囲が狭いかと思いまして」
『戦いのようですね』
雪とは戦いだ。
子どもの頃は呑気でいられるが、大人になったら降雪は開戦合図だ。
「スコップの先端で人も
『お嬢様だけだと思いますけれど』
私とシルキーさんとでは屋内と屋外のような温度差があるようだ。
「まぁ、とりあえずご飯にしましょう」
『そうですね。今日は干し肉と乾燥果実の――』
◆
お嬢様はスコップを完成させてからご就寝なさいました。
あれは……雪に暴力をぶつけるおつもりでしょうか。
雪があまり降らなければ良いと思いましたが、私の思いとは裏腹に外は吹雪いてきました。
お嬢様は寒さ、暑さに耐性があるので体調を崩すとは考えられませんが、念の為に暖かい空気を送っています。
私が薪で暖をとる必要性は無いので、微々たる温かさですが無いよりはマシでしょう。
お嬢様は「夜は薪を使って良いですからね」と仰ってくださましたが、無くても良いので油のランプのみです。
『天気が悪くなければ月明かりで済むのですが』
パラパラと製作者様の本をめくる。
その音さえも雪を運ぶ風でかき消される。
時折窓やドアがガタガタと揺れる音に集中力をかき乱されては、また本の内容へと潜ってゆく。
それを幾度か繰り返し、時を忘れかけていた時にドアがドンドンと揺れた音がした。
一瞬頭を上げ、また視線を下ろそうとしたらまたドアが響いた。
「す、すみません。あ、あの、どなたかいらっしゃいませんか?」
ドアの向こうから声が聞こえた。
ここは結界内。下手な害あるものは近づかない。
それに声は言語を話している。
『こんな夜更けにヒトの子でしょうか』
外はまだ吹雪いている。
念の為に魔力を練って、ドアを少し開ける。
「あ、あの、どなたか……す、すみません。こんな吹雪の夜に。雪が止むまで泊めて……いただけないでしょうか」
黒いマントを羽織ったヒトの子。
女性。
身体には雪が白く積もっている。
『すみません。この家の主人に聞いて来ますので、少々お待ちください』
一度扉を閉める。
敵意は無いように見える。
だが、その余裕が無いだけかもしれない。
家に招き入れて回復した後に豹変する可能性もある。
とりあえずお嬢様にお伺いをたてないといけない。
『お嬢様、失礼します』
扉を開け、行儀よく眠っているお嬢様に見惚れながらも軽く身体を揺さぶり起こす。
「あれ?朝ですか?」
『寝ぼけまなこのお嬢様。嗚呼、なんと愛おし……いえ、来客でございます』
「来客?うわぁ。吹雪いてるぅ」
お嬢様は起き上がり、外を見るなりに眉をひそめた。
『雪が止むまで宿泊を希望していますが、どういたしましょう』
「ん~。良いですよ。あ、明日の朝までシルキーさんが面倒を見てもらって良いですか」
『それは大丈夫ですが……』
私は言葉に詰まった。
ここで『敵でしたらどうしましょう』と言いたいのですが、私はそれをこらえた。
「何かあればシルキーさんが私を守ってくれるのですよね」
そう笑ったお嬢様に私は目を奪われた。
『はい!この身が――』
「おやすみなさい」
私が忠誠の言葉を口にする前にお嬢様は床に入られてしまいました。
扉を開け、一礼して『おやすみなさいませ』と小声で言うと、扉を閉める瞬間にお嬢様が手を振った気がした。
『まったく、寝たふりですか』
『許可が出ました。お入りください』
玄関のドアを開けると先程より身体が震えているヒトの子が佇んでいた。
お嬢様のゴーレムがいるので雪の寒さは幾分マシだろう。
「あ、ありがとうございます」
ヒトの子は身体に積もった雪を落として私の後を付いて来る。
暖炉に薪と火を入れ、お嬢様が編んだ布をヒトの子に渡す。
『寝る前に暖をとった方が良いでしょう』
お嬢様が前に「ヒトは……というより、生き物は寒すぎても暑すぎても死んでしまうから、正常な体温になるまで回復させないと駄目なんですよ」と仰っていました。
あれはハーブを採っている時に「熱中症」という病の事を聞いた時でしたね。
「あ、ありがとう……ご、ございます」
暖炉に火をくべたけれど、暖まるには時間がかかる。
お嬢様が編んだ布は【魔力紡績】による魔力糸と毛皮の混合。
作られてお嬢様は「あまりに不格好」と言っては無下に椅子へ掛けていらしたが、品としては素晴らしかった。
頑丈で風を通しにくく、流石はお嬢様と言いたい。
他の布でも良かったのですが、客人としてもてなすならばこの布が最適でしょう。
部屋が暖まるよりも早く湯が沸きそうですね。
火に風を送って、強くするのは簡単でも部屋全体を暖めるには風を通さなければならない。
しかし――それよりヒトの子に温風を当てた方が良さそうですね。
私は【下級風魔法】で火力と温風操作を行った。
『それで、この元魔王領であるこの地に何の御用が』
ハーブティーを渡しながら、ヒトの子に尋ねる。
敵であると判断したなら容赦はしない。
「あ、ありがとうございます。え、と、用と言いますでしょうか……何と言ったら……」
ヒトの子はハッキリしない物言いだ。
「わ、私、追放……されちゃって……」
追放。それは群れから突き放されるという事。
『それは――どういう?』
「え、えっと……それは――」
◆
「それで、貴族社会の権力争いで巻き込まれて追放された。と、いう事ですか」
権力争いなぞ阿保らしい。と口に出そうになったが抑えた。
朝起きて、客人である少女とシルキーさんがいるところに出くわしたので、改めて挨拶をした。
この少女はローズマリーという名で、元男爵家。成り上がりの成り下がりだ。
彼女の髪や肌は白く、瞳孔の色も薄い。
「両親は他界して、力を持たないローズマリーさんは追放ねぇ」
なんとも運が悪いというべきか。
「す、少しの間で良いので泊めてくれる……いただけると……幸いです」
『そもそも、追放後はどちらで寝泊まりを?』
「え、えっと……木の
嗚呼。健気。
「いつまでもいて良いですよ。ただ、何か――」
「手伝います。ゆ、雪かきでも何でもします!」
今「何でも」って言った?いや――積極的。というより必死と言うべきだろうか。
必ず死ぬと書いて必死。ここに泊まる事が出来ない場合は死ぬだろう。
「まぁ、何日かは客人という事で大丈夫ですよ」
いきなり客人に雪かきさせるわけにはいかない。
「い、良いの?あ、あの!私
ん?ローズマリーさん泣いて喜んでいるけど、サラっと重要な事を言いませんでした?
「あのぉ?吸血鬼?」
「は、はい。私、
私は立ち上がり、ローズマリーさんの間に結界を張る。
簡易的ものでそれほど強力ではない。
「あ、あの……やっぱり吸血鬼はお嫌い……でしょうか」
言葉が尻すぼみしてゆく。
結界の隔たりの向こうから俯いた頭が見える。
「あぁ~、違うんですよ。何というか確認しておきたい事が複数ありまして。危険が無いとわかれば解きますから」
シルキーさんに水をコップに入れて貰い、ローズマリーさんに差し出す。
「これからする質問に正直に答えて頂きます。それが、ここに泊める条件です」
「は、はい」
ローズマリーさんは涙ながらも覚悟を決めた顔で私を見る。
「では、水は怖くありませんか?」
私は差し出したコップを指さす。
「み、水ですか?お、泳げないけど、こ、怖いとは思った事はありません」
シルキーさんに頼んで風でコップを倒して貰う。
「あぁ、何か拭く物!あ、ありがとうございます」
コップが倒れたのに驚くが、恐れる様子はない。
シルキーさんが布巾をローズマリーさんに渡すと、こぼれた水を拭いた。
嘘偽りは無いようだ。
私は安堵し、溜息をもらす。
「では次に、吸血鬼は血液を吸って仲間を増やすのですか?」
「そ、それはどちらとも……言えます」
『というと?』
「き、吸血鬼の真祖様はそれが出来ますが、私達には不可能です。わ、私達が出来るのは食事と模倣です」
「模倣?」
意外な言葉が出てきた。
食事は吸血鬼としてのアイデンティティだからわかる。
しかし、模倣とな。
「わ、私達が血液を吸ったヒトは泥人形で再現出来ます。それが【模倣】です。こ、高貴な吸血鬼であればあるほど高精度な模倣が可能です」
コピー人形か。
吸血鬼が吸った人間は吸血鬼になるわけじゃなく、コピー人形が仲間として動くのか。
納得。
「なら、
ローズマリーさんは俯きながらも首を縦に振った。
「こ、今回の騒動はそれが原因でした。す、“全て吸血派”と“生き長らえさせる派”の派閥争いです。“全て吸血派”は無差別に吸血しきり、人形に
それは、どちらも吸われる側にしたらたまったものではないのだけれど。
「そ、それで、“全て吸血派”が優勢になって、奴隷の医療を生業としていた私は追放されちゃいました」
吸血鬼の未来は明るくなさそうだ。
圧倒的にヒトと敵対するつもりならヒト側も黙っていないだろう。
「……そうですか。吸血されたヒトに病が
「え、えっとね……下手な吸血方法や、失敗、吸血鬼自身が病気でないなら少ない……です」
吸血に下手とか……あるか。採血が下手な看護師がいるのだから。何事も上手い下手はあるだろう。
しかし、病があるにはあるか。破傷風とかだろうか。住血吸虫症とか
類鼻祖は最悪四十八時間程度で死亡する。
「ローズマリーさんに持病などは?」
「な、ない……です。け、健康だと……思います」
あの吹雪の中、風邪をひいていないくらいだ。健康なのかもしれない。
「では、心臓に銀の杭や弾丸を受ければ死にますか?」
「え?いや、あの……え?ふ、普通に死んじゃいます。ほ、殆どの生き物はそうだと思います」
まぁ、そうですよね。
ローズマリーさんを困らせてしまったようだ。
「いやぁ、死にそうにないヒトに心当たりがありまして」
「し、真祖様でしょうか……けど、真祖様でもそれは……」
「嗚呼、気にしないでください」
心臓に銀の杭や弾丸を受けても死にそうにない奴はどこのどいつだ~い?アタシだよ!!
私は心臓を刺されても死にそうにない。
そうか。吸血鬼の真祖様でも無理か。
私はヒトなのだろうか。怪しくなってきた。
考えないようにしよう。
「では、ニンニクや十字架が苦手というのは?」
「ニ、ニンニクですか?えっと……吸血鬼は嗅覚が良いので、ニオイが強いものは好きじゃないヒトが多いです」
まぁ、先程の質問と同じく質問の仕方を間違えた。
まず、「ニンニクが苦手か」というより、「ニンニクが大丈夫か」と訊いた方が良かったのだ。
何故ならニンニクが平気な動物の方が珍しい。
ニンニクは他の動物からしたら毒である。
ヒト以外にニンニクが入ったものをむやみやたらに食べさせようとしてはいけない。
嗅覚で感じ取って食べないと思うが、食べてしまったら吐いたりする。
人間でもニンニクの食べ過ぎは毒であり、嘔吐などの症状が出る。
そうなるとネギ属も苦手そうだ。
街に日本にある長ネギは無かったが、リーキのような太くて重いタイプのネギなら売っていた。
リーキは西洋品種のネギだ。
ヨーロッパにはリーキやチャイブなどの種類がある。
リーキは下仁田ネギに似ていて、チャイブはイトネギと呼ばれるネギ、アサツキに似ている。
「じ、十字架は特に大丈夫です。た、ただ、闇の神を崇敬していますので、他宗教を蔑視している方が多いです」
闇の神の狂信者か。そんな中に「ローズマリー」という名前は良いのだろうか。いや……花言葉に「あなたは私を蘇らせる」とかあったような気がするから良いのか。
「吸血鬼は髪と肌が白く、薄い青眼の方が多いですか?」
「え、ええ」
そうか。ならば闇を慕う理由もわかる。
アルビノだ。
メラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体だ。
ウーパールーパーの白いものはアルビノであり、メキシコサラマンダーの幼形成熟個体である。
あの白は人為的な交配により作られたものだ。
白い兎や鼠もアルビノであり、意外と知られているようで知られていない。
意外と人々は「そういうもの」だと思っている。
身近にあるのに「何故」が出ない。なんと嘆かわしいものか。
アルビノはメラニンが欠乏することで虹彩に色素が少ないために遮光性が不十分となり、光を非常に眩しく感じる。
また、短時間でも日光に当たると皮膚が赤くなる日焼けをしてしまう。
だから陽の光を好まない傾向にあるのだろう。
「さて、なら大丈夫そうですかね」
私は結界を解除する。
ここでグサリとされたら困るが、シルキーさんが睨みをきかせているから大丈夫だろう。
『お嬢様、質問があります』
「どうぞ」
結界の後片付けをして、ゴミ箱へ捨てているとシルキーさんが手を挙げた。
『最初の“水が怖いか”というのは何でしょうか。他は何となく理解出来たのですが』
最初の「水が怖いか」は私が一方的に納得した形で終わったので、シルキーさんとして腑に落ちなかったのだろう。
「それは吸血鬼がある病気じゃないかという説から来ています」
『病気……でしょうか』
「狂犬病と言いまして、発症すればほぼ確実に死ぬ病です」
「『!?』」
シルキーさんとローズマリーさんが驚いているのも無理はない。
日本でも「狂犬病が治った」と言ったら凄い発見なのだ。
それほど恐ろしいものだ。
「私の知っている吸血鬼の知識は“噛めば相手は吸血鬼になる”とか“流水が怖い”だとかあるのですが、狂犬病は狂犬病にかかった動物……主に犬に咬まれた部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入し感染します。また、狂犬病の症状として水が怖くなると言われています」
『確かに似た部分がありますね』
狂犬病でもヒトからヒトへは感染しないとされるが、ここは異世界。何があるか分からない。
また、
「ただ、吸血鬼が――ローズマリーさんが狂犬病の疑いは晴れましたので安心して下さい」
ホッとしたのか彼女は「ふう」と息を大きく吐いた。
まぁ、ヒトであるなら私に襲い掛かるより狂犬病に発症して死ぬ方が先だろう。
『それと、お嬢様が吸血鬼の容姿を当てた事が気になります』
「そうですね、それはアルビノといって――」
◆
色々説明していたら昼になりそうだった。
「そういえば、ローズマリーさんは私の血を吸うおつもりですか?」
この質問をした時の場の静まり具合が恐ろしかった。
吹雪よりも冷え冷えしていただろう。
シルキーさんはローズマリーさんに殺気を放ち、ローズマリーさんは困惑している。
「そ、そうですね。少し分けて頂けると嬉しい……かな」
「シルキーさんヤメなさい」
シルキーさん顔が恐いよ。
『失礼しました』
シルキーさんはパッパとエプロンを
「わ、私は“全て吸血派”ではないので大丈夫です。ただ、最初は一滴で良いので頂けたら」
「一滴で良いんですか」
もっと飲むものだと思っていた。
ここで「ワシの血が飲めねえってのかい。まだまだ絶対いけるでのぅ」とか言ったらパワハラだろう。
「え、ええ。角兎などからは摂取していましたけど、ヒトからは久しぶりなので、大量ですとお腹が吃驚しちゃうと思うので」
断食後の食事みたいなものだろうか。
いきなり食べるとお腹を壊すので、徐々に慣らしていくような感じ。
「んじゃ、口を開けて下さい」
咬まれるのは衛生上良くないので、口の上で指を切って飲ませるとしよう。
ローズマリーさんの口の上で指を切る。
何だろうこの
ドキドキする。
指を……切った。――いや、斬れた。
完全に力加減を間違えてしまった。
背徳感とかドキドキとかそんな事を考えていたからだろう。
指の先一センチメートル切り落としてしまった。
「痛ぁぁぁい!!」
一滴以上の血液と指先の肉がローズマリーさんの口に転がる。
そして冒頭部分へ戻る。
シルキーさんが直ぐに私の元へ駆け寄り、ローズマリーさんを手にかけようとするが、私がそれを阻止する。
「違うんです。私がちょっと力加減を間違えただけで……あ、ローズマリーさん。口の中に入った物ペッって出して下さい」
指先の血肉など異物混入でしかない。
昔の食品加工工場での事故じゃあるまいし。
ローズマリーさんを見ると固まっていた。
ショッキングなのはわかるのだけれど、口の中に指入ってるのは吐き出して下さいよ。
「ローズマリーさーん」
目の前で手を振る。見ると、斬った指は完全に再生している。
「っは!!はい!!」
ローズマリーさんは正気に戻ったようだ。
「あの、口の中に斬った指が入ってしまったようで、吐き出して下さいね」
骨までは届いていないが、爪までは入っているだろう。不快だろうに。
「あ、飲んでしまいました」
『鼻にもお嬢様の血液が飛び散っていますね。これでお拭きなさい』
シルキーさんはローズマリーさんに布を渡すと、それで顔を拭いた。
「こ、こんな血液は初めて。の、濃厚で魔力も濃く滑らかな舌触り。お、恐ろしい程にガツンと喉に来るのにも関わらず、鼻に抜ける爽やかな余韻」
何だ?豚骨ラーメンの食レポか?それは私の血液だ。
血液に「濃厚」とか良くない印象なのだけれど。
せめて「さらさら」とか言って欲しい。
「ク、クルス様は本当にヒトなの?……ですか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?私ホムンクルスなんですよ」
「あ、嗚呼、だからあの時変な容器に入っていたのですね」
ん?あの時?
容器に入っていた時?そんな時はここに転生した時ぐらいだ。
「意識の無い時の私を知っているのですか?」
「あ、ハイ。え、と……この前の冬も吹雪いていて、ここに避難したの。け、けれど、クルス様は変な容器に入っていて、死んだヒトがいて……あまりにもお腹が空いていたので」
製作者様の血液を吸ったと。
だから製作者様はミイラのように干からびていたのか。
普通の環境なら例え乾燥した冬だろうとあそこまで干からびない。
しかし、私が覚醒した後にローズマリーさんは居なかった。
やはり律儀で健気なのだろう。
「す、すみません。すでに死んでいたので、助からないと思って」
ローズマリーさんは私に頭を何回も下げる。
構わない。構わないのだけれど。
「心臓が動いていない動物から採血……吸血出来るもんなんですか?」
心臓が停止すると血液の循環が止まる。
そうなると血液凝固が始まる。
死後数時間に出会えば吸血出来るだろう。
そうで無い場合――
「わ、私が殺したんじゃ無くて……え、と……吸血鬼は――私は奴隷の医療やってたので、固まった血液を溶かすポーションを作れるの」
それは!
「血栓融解薬みたいな物ですか!」
心筋梗塞などで血栓が詰まった時に打つ薬のようなものがあるとは!
「あ、あの……怖くないの?き、気持ち悪くないの?」
興奮状態の私にローズマリーさんが俯きながらも聞いてくるが、私は首を横に振る。
「素晴らしいじゃあありませんか!実用的であり、科学……と言って良いかわかりませんが、素晴らしい進歩ですよ」
結果ヒトの為にやっているわけではなく、自分たちの為。
しかし、それがヒトの命を救う可能性があるのだから。
「奴隷医療……そうか。医療従事者か。では、宿と血液を渡す代わりに私に色々と教えて下さいな」
「は、はい」
この世界の病気系統の心配が少し減った。
下手に死ぬ事が出来ない私は病気になった場合に、苦しむ事が続く気がする。
そうならない為に医療系は固めていかないと思っていた。
『お嬢様、顔がにやけていますよ』
シルキーさんに指摘されて顔に手を当て、元に戻しながらも、この雪はいつ止むだろうかと空を眺めた。
◆
ローズマリーさんが来てから一ヶ月が過ぎた。
「雪が続きますねぇ」
空を見上げると雪が降り始めた。
最初の吹雪は三日続き、それから大雪は無いにしても、雪は降ったり止んだり。
最初はちゃんと雪かきをしていた。
降っては雪かき。降っては雪かき。降っては雪かき。降っては……雪より精神が病むわっ!
私は生まれも育ちも関東だったので、かまくらが作れる程の雪はちょっとワクワクしたのさ。
けれども、何日も雪かきしてたら雪の日が辛い事が身に染みる。
雪国の人は本当に凄いと思う。
私は辛くなったので、雪でゴーレムを造り、雪かき専用として働かせる事にした。
最初、【初級氷魔法】で氷のゴーレムを造れば簡単だ!と思ったが、脆い。
スコップで雪を持ち上げようとした腕が取れた。
クラーケンで無理矢理作った槍もすぐに壊れたので、脆いのだなと理解。
なら、雪で造って【初級氷魔法】でコーティングすりゃあ良い。
という事で皆んなで雪だるま造りだ。
ここにいるのは皆女性。しかも、見た目は可憐な少女。私も中身は違うが、見た目は童女。
そんな少女達がキャッキャと雪だるまを造る光景。
良いですね。
私が「大きな雪だるまつくろう〜」と歌って踊って、大きな雪だまを最初は造っていました。
キャッキャと。
しかし、今は皆沈黙。
「精神的に辛いですね」
雪という足場の悪さや雪だまを造る時間など、色々やって大きな雪だるまを一体造った時点で沈黙。
ただ作業と化してしまった。
年相応の遊びじゃない。業務だ。
辛い。辛すぎる。
これから魔法で強度を上げていくことに気が遠くなる。
「これなら最初から木をくり抜いて型をとって造った方が良かったですねぇ」
ローズマリーさんは寒さで震えながらも頷いてくれた。
雪だるまと言っても手は木を刺した物ではなく、雪だまで造っているので余計に大変だ。
「ローズマリーさんは一回暖まって来て下さい」
彼女はもう声すら出せていない。
「シルキーさんはローズマリーさんを頼みます」
『承知致しました』
私は黙々と雪だるま造りを続けた。
「やっと三体目……」
夜が近づき、また雪が降り出した頃に雪だるま造りは終わった。
魔法をかけ、魔力鉱石を入れ、動くようにプログラムを組む。
しんどい。もう無理。
『お疲れ様です』
シルキーさんがハーブティーを持って来てくれた。
あったけぇ。さんずいに心で沁みるよ。
目の前で雪像……雪だるまゴーレムは雪かきをしている。頑張った証拠だ。
雪が融けるようになればゴーレムも消える仕組みだ。
「ローズマリーさんは大丈夫ですか?」
寒さで震えていたので家で休んで貰っていたのだけれど。
「わ、私は大丈夫……です」
一瞬、毛布のゴーレムかと思うぐらいのグルグル巻きの毛布が私の目の前に現れた。
『最高の防寒対策です』
確かにそうかもしれないが、重いだろうに。
ローズマリーさんはフラフラしている。
そのままローズマリーさんは毛布の端を踏んずけて転んだ。
ゴーレムを造った日から数日が経った。
「経過は順調」
私の目の前には齧歯目がいる。
この齧歯目はローズマリーさんが直に吸血したもので、ローズマリーさんに病気などが無い事を証明している。
齧歯目に名前はまだない。
というより、もう用はない。
健康が証明されたのだから無理に飼う必要は無いのだ。
「ち、チャッピー君ご飯だよー」
名前はあったようだ。
ローズマリーさんが齧歯目にエサをやりに来た。
チャッピーは穀物を元気よく食べている。
「この齧歯目の血液を吸って双方異常は無いようなので、私から直接飲んでみますか?」
私は首筋を
「えぇ!?良いの!?吸っちゃって良いの!?」
ローズマリーさんは慌てふためいているが、私としては問題ない。
「そういえば、昆虫の蚊は吸血の際に皮膚に口吻を突き刺し、吸血を容易にする様々なタンパク質などの生理活性物質を含む唾液を注入した後に吸血に入るのですが、この唾液は麻酔効果もあったりするわけで……吸血鬼ってそういうのは無いのですか?」
鋭い犬歯を首筋に刺すのは注射時の「ちょっとチクっとしますねー」じゃ済まない。
結構痛いだろう。
蚊でも上手く刺せない時はチクっとするのだ。
ヒトの犬歯は大きいうえに鋭さも微妙だ。
「えっと、吸血鬼は吸血前に自動で相手を【魅了状態】にさせます。それで相手を逃げられなくするのと同時に麻酔効果もあるのかと……。あっ!痛かったら麻酔持ってる……から……」
ローズマリーさんは手製の鞄から麻酔の小瓶を取り出そうとしている。
獣医的な立ち位置だった為か、色々と医療器具を持っている。
麻酔まで持っているのは凄いが、【毒無効】というスキルがある私に麻酔が効くかどうかは怪しい。
「大丈夫ですよ。とりあえず軽く吸ってみて下さい」
「わ、わかった」
ローズマリーさんが私の眼を見る。
そこでふと私は思った。とある好奇心だ。
私にも【魅了】が出来るので、吸血鬼であるローズマリーさんとどちらが強い【魅了】がかけられるのか。と。
ローズマリーさんは「自動的に」と言っていたので、【魅了】は無意識なのだろう。
そこで私が反抗して逆に【魅了】し返してみたらどうなるのか気になる。
どうせ血液は吸われるのだ。
なんなら魅了して吸血させてみても面白いかもしれない。からかい上手のクルスさんだ。
私は魔眼にて【魅了】を発動した。
「え!?あ、アレ!?嘘!!身体が……」
ローズマリーさんを魅了したようだ。
という事は、私の方が強力なのだろう。
ローズマリーさんとしてはパッシブスキルのようなものだろう。
それを私がやり返したとて私が悦に浸るわけではない。
ただ、気になっただけだ。
「さぁ、私の血液を吸って下さい」
ローズマリーさんは言われるがまま首筋に犬歯を立てた。
正直言って痛い。
鋭利な刃物で刺されても痛いのに、大して鋭利でもない犬歯は流石に痛い。
しかし、プっツンと刺さる感じも無かった。犬歯が鋭く伸びでもしたのだろうか。
霊長類の犬歯であるにも関わらず被害は少ないとみるべきか。
何か別のスキルが発動しているのだろうか。
「ク、クルス様、も、もう無理。もう無理。」
ローズマリーさんは私の背中を叩いた。
そうか。【魅了】で吸わせていたから自分で離せないのか。
私は【魅了】を解いてローズマリーさんから離れた。
ローズマリーさんは後退り、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?」
私はローズマリーさんに対し、手を貸して立たせたが、反応が無い。
「ク、クルス様……いえ、クルスお姉様!」
せっかく立たせたのにまた膝を着き、私に対して祈りでも捧げるかのように手を組んで私の名前を呼んだ。
「えーと……どういう事ですか?」
私は今の状況が分かっていない。
『お嬢様、昼餉の事で……お嬢様、これは一体どういう事でしょうか?』
シルキーさんに運悪くこの状況を見られた。
私でも分からない。状況を説明して欲しい。
ローズマリーさんは未だ私に跪いたままだ。
「ク、クルスお姉様。私達吸血鬼は気高く、貴族社会なの」
前にそう言っていた。
「だ、だから、【魅了】を返して血液を吸わせる事は最高の屈辱なの」
「え!?嘘!!」
『お嬢様。また何かやらかしたのでしょうか』
やってしまった。
ヤバい。変な汗が出ている。
「け、けど、それは貴族内で力を表す事でもあって……屈服させられたら力の証明となるんだよ。相手を服従させられるの」
なら大丈夫か。とはならない。
どっちにしろやってしまった。
「えーと、私はどっちの【魅了】が強いのか気になっただけで……屈服させようとか、服従とかそういうものは……」
私はしどろもどろにローズマリーさんに
「く、屈服させられた吸血鬼は服従し、生涯付き従う事となるんだけど……私クルスお姉様に全てを捧げたい」
ハイ喜んで!
じゃない。そうじゃない。
シルキーさんの目線が痛い。
「えーと、違うんですよ。シルキーさん。これはですね……」
『お嬢様。後でお話しがあります』
「……はい」
無理だ。確実に説教コースだ。
『ヒトの子、ローズマリー。貴女は本当に良いのですか?』
シルキーさんは柔らかくローズマリーさんに話しかける。
「わ、私は追放された身だし、クルスお姉様もシルキーお姉様も素敵な方だから……」
ローズマリーさんは頷いた。
『お嬢様は
シルキーさんの言葉に棘がある。
「は、はい。よろしくお願いいたします」
シルキーさんが溜息を吐く。
『貴女
「?は、はい」
『さて、お嬢様。ローズマリーの事はわかりました。ですが、お嬢様には長い長いお話しが必要です』
今度は私が膝から崩れ落ちた。そのまま二人にDOGEZAだ。
「申し訳ございませんでしたぁー」
この後夕食準備まで説教が続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます