第100話 池谷先輩の誕生日

 ユーカさんの誕生日から4日。今日は12月18日です。そして、池谷先輩の誕生日になります。


 そんな今日は金曜日。私の大学の講義は昼すぎの一コマだけで、そこからは完全なフリーなのです。そこで、私は意を決して、池谷先輩の家を訪ねてみることにしました。


 高校に入ったすぐの頃から付き合っていたとはいえ、なかなか男性の家を訪ねるというのはハードルが高かったのです。


 ですが、別れた今だからこそ訪ねやすいかもしれないと思い、訪ねてみることにしたのです。昨晩に連絡してみたところ、池谷先輩からはオッケーを貰えました。


 そして、電車とバスを乗り継ぎ、今、池谷先輩の家の前にいるというわけです。


 私が池谷先輩の家のインターホンを押すと、以前と変わらないご様子で池谷先輩が玄関から出てこられました。


「千晴か。よく来てくれたな。寒かっただろ?」


「はい、さすがに12月ともなると冷え込みますので……」


 私としても手袋とマフラーまで引っ張り出してきてはいますが、やはり寒いことに変わりありません。


 そうして温かい空気で満たされている池谷先輩の部屋へと通されました。


「そうです、和幸さん。誕生日おめでとうございます」


「ああ、ありがとう」


「突然、尋ねることにしたので、プレゼントも何も用意していないのですが……」


「それは気にしなくてもいい。俺は千晴が来てくれただけで嬉しいからな」


 池谷先輩……和幸さんはニコリと微笑んでおられますが、この部屋と同じくらい温かさのこもった笑顔だと感じました。


「そうです、卒論の方は……?」


「卒論は来月の半ばあたりには提出しないといけないんだ」


「でしたら今はお忙しい時期なのでは……!」


「まあ、忙しいが、たまには息抜きも必要だしな。誕生日くらいはゆっくり休もうと思う」


 別れてからも時々は和幸さんともやり取りをしていたのですが、やはり卒論と就活の話題は切り出しにくかったのです。ですが、和幸さんも頑張っているということで、ホッとしました。


「そうだ、千晴。就活の方も、先月に無事内定が出たぞ」


「そうなのですね……!それは良かったのです!」


 和幸さんの就活が終わった。なんだか、それは自分のことのように嬉しく感じられました。


「これで残るは卒論だけだ。たぶん、二月中には全部終わるだろうな」


「でしたら、春休みあたりはどこか遊びに行きますか?」


「そうだな、3月は引っ越しとかの準備があるから、二月の下旬あたりか三月の上旬くらいなら行けそうだ」


「では、また二月あたりに詳しいことは話し合いましょう!」


「分かった。行けそうな日時はこっちから連絡する」


 ……二月末には和幸さんと遊べます!あまりに久々のことですので、今から楽しみです!


「和幸兄さん、入ってもいいか?」


 そんな時、部屋の外から声がしたのです。ですが、この声をどこかで聞いた覚えがあるように感じたのです。

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