第6話 無理ゲーな出会い
「手伝うって……どうやって? や、やめろよ、いきなりハーレムの中に投げ入れるとか荒療治は……!」
「なに、それ。どうやるの」
一気にカヅキの表情が引きつる。
いや、カヅキなら一声でハーレムとか創れちゃいそうで……。
「陸太もさ、お母さんとか親戚のおばさんとかは平気なんでしょ。女の人でも」
「あ……当たり前だろ! いちいち、朝起きるたび、母ちゃんに絶叫してたら、ぶん殴られるわ」
「つまり」とカヅキは難しい顔して、人差し指をピッと突き立てた。「女性の身体に嫌悪感を抱いているとか、生理的に受け付けないとか、そういうんじゃないんだよね」
「まあ……」
一応、俺も……健全な高校生なりに、女性の身体には興味はある。ただ……今は、二次元に限られているだけで。
「だから……女性恐怖症といっても、女性だからダメ、てわけじゃなくて……もっと精神的なものでさ。陸太の場合、お母さんみたいな――信用できる人なら女性でも大丈夫なんだと思うんだ」
「信用……」
「うん」と力強くカヅキは頷いて、緊張が伺える硬い表情で俺を見つめてきた。「だから……陸太は、信用できる女の子と出会えればいいんだと思う。一人でもいいから……この子は信じて大丈夫だ、て陸太が思えるような女の子が現れたら、少しずつ女性への見方も変わって、恐怖心も和らいでいくじゃないかって――」
「いや――無理じゃね?」
カヅキの熱弁に水を差すのは気が引けたが……言わずにはいられなかった。
え、とショックそうなカヅキの顔が罪悪感を煽る。たまらず、俺は目をそらしていた。
「言いたいことは分かるし、そうかもな……とは思うんだけどさ。どうやって見つけんだよ、そんな子? いきなり、信用できる女の子を探せ、て、無理ゲーすぎんだろ。開始早々、どんだけハードなクエストやらせる気だ」
「あ、それは……」と声を詰まらせるカヅキからは明らかに動揺が感じ取れた。
まさか……そこまで考えてなかった、とか?
さすがに、ちょっと詰めが甘すぎではないでしょうか。
そりゃ、俺だっていたよ。信用できると思った女の子が。誰よりも練習して、誰よりも眩しい笑みを振りまいて、誰よりも美しく氷の上を舞っていた。そんな子がさ、『がんばってくださいね』って、会うたびに言ってくれた。そんなの、本気にするに決まってる。小六だったし……。そりゃあ馬鹿正直に、その言葉を励みに練習したもんだよ。冷たい氷の上で、汗だくになって……必死に、『妖精』の応援に応えようとしてた。『妖精』に負けないくらいがんばろう、て思った。
それなのに……そんな俺たちを『汗臭いから会いたくないんだよね』、て『妖精』は氷の上で言ったんだ。『がんばってくださいね』て言ったその口で……。
ぐっと喉の奥から焼けるような熱がこみ上げてきて、俺は拳を握りしめていた。
「実は、陸太に言わなきゃいけないことがあって……」
「女なんてさ」と冷笑とともに、吐き捨てるような言葉がこぼれ出ていた。「笑顔で平気で嘘つくんだよ。いい顔して、優しい言葉かけて、平然と人を騙すんだ。何考えてんだか分かりゃしねぇ。信用なんてできるか」
勢いのままそう言い切って、ハッと俺は我に返った。
やべ。さすがに言いすぎた? カヅキは俺のために案を考えてくれただけなのに。これじゃ、八つ当たりじゃねぇか。
「でも、会えればいいな、とは思うよ! ありがと……」
慌てて顔を向き直し、俺はぎょっとして言葉を切った。
カヅキが見たことないほど真っ青な顔して固まっていた。見開いた目からはさっきまでの燃えたぎるような眼光は消えていて……。透き通るような瞳は、まるで凍りついてしまったみたいに俺を見つめて動かない。
「ど……どうした、カヅキ!?」
「あ――ううん!」ぱちりとようやく瞬きしたと思えば、カヅキは慌てた様子で首を横に振った。「ごめん、ちょっと……考え事してた」
「考え事……?」
いや……そんな風にはとても見えなかったが。あんな顔で何を考えるっていうんだよ。
俺はじっと疑るようにカヅキを見つめ、「そういえばさ」と慎重に切り出す。
「さっき、何か言いかけてなかったか? 俺に言わなきゃいけないことがあるって……」
すると、カヅキは少し表情を強張らせてから、
「ああ……」と思い出したように言って、さらりと髪をなびかせ微笑んだ。「なんでもない」
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