第30話-落ちる-

 高い所から落ちる夢って見たことあるだろ?

 そうそう、それでびっくりして目が覚めるやつ。

 そんな夢の話なんだけど……。


 ある夜、俺の友達は空から落ちる夢を見た。

 雲一つない青空を落ちているんだけど、いつまで経っても地上が全く見えなくて、そのうちにこれは夢だと気付いたって。


 そしたらその瞬間から、青空に色々なものが浮かびだした。


 実家の両親。

 好きなお菓子。

 小さい頃の思い出。

 昨日見たドラマのワンシーン。


 そんなものが断続的に空に浮かび上がって、その横を高速で落ちていく。


 いつ目覚めるんだろうと思いながら落ち続けていた時。

 久しく見ていなかった顔が見えた気がした。


 一瞬だったけど、間違いない。

 あれは、中学時代の親友の顔だ。


 本当に、久しぶりだった。

 最近では顔もうっすらとしか思い出せなかったから。


 その友達、中学一年の夏休みに事故で亡くなったらしいんだ。

 だから、卒業アルバムとか見ても、写真がほとんど残ってないとか。


 だから懐かしくなって、だんだん涙が溢れてきた。

 そしてそのまま泣きながら目が覚めた。


 数ヶ月の付き合いだったけど、本当に気が合う親友だったからな。

 蓋をしていた辛い記憶が一気に湧き上がって来たんだよ。


 布団から体を起こして、袖で涙を拭う。

 水でも飲もうかと顔を上げた瞬間。


 目の前に、この世に居ないはずの親友が立っていた。

 一瞬で消えたが、間違いない。


 さっき夢の中で見た親友だって、確信したってさ。

 なんで今になって逢いに来たのかと思ったけど、どうやらその日は七回忌の直後だったみたいで。


 まあこれが、去年のお盆の話。


 ほら、今日もお盆だろ?

 もしかしたら、今年も来てるのかもな。

 ……って、さすがにそれはないか?

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