第11話-火車-

 葬式の時、死んだ人の魂を迎えに来る妖怪がいるらしい。

 名前は火車。

 昔から色々な話があって、猫の妖怪だって話もあるらしい。

 猫又とか、多分ああいうの。


 悪人の死体を持って行くんだってさ。

 それで地獄に落とすとかなんとか。


 実は火葬場で働いてた人がそれを見たって話があるんだよ。


 その職員さんは結構肝が据わってる人で、幽霊なんかも信じてないから、心霊的なものに恐怖は抱いたことがないらしい。肝試しとかも平気なタイプだってね。


 ある日いつものように出勤してくると、職場の建物のすぐ横に猫がいたんだ。

 後で気付いたけど、建物の中にある火葬用の炉?かな?のすぐ近くの壁だったらしいんだけど、その時は特に気にも留めなかった。


 いつも通り仕事が始まって、炉の中に遺体を入れる。

 その間、他に用事があって外に出ると、朝に見かけた猫はまだそこにいた。

 たださっきとは違って、じっと壁を睨んでいる。


 その先には……もう分かるよな?


 不意に、猫が笑っているように見えて、その職員は背筋が凍り付いたようにゾッとした。

 恐怖なんかほとんど感じたことが無いのに、小さな猫を遠巻きに眺めただけで心底ビビっちゃったんだ。


 ゆっくりと猫がこっちを向いた。

 ヤバいと思って、そのまま用事もほっぽって目が合う前に逃げちゃった。


 その日はもう震えが止まらなくて早めに帰らせてもらったけど、それからも職場に来るたびそのこと思い出しちゃって、一週間後にとうとう仕事辞めちゃったって。


 バイト先にいるフリーターの先輩から聞いたんだけど、胡散臭い話だよな。

 でも、その話してる時の先輩の顔は……まあ、ね?

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