第2話-ついてくる-

 百物語アプリ。

 飯山啓介が見つけてきたそれが、今日の百物語が開催されるきっかけになった。


 大学でいつも昼食を一緒に取っている四人は、迫る夏休みを目前に遊びの予定を固めていた。

 その中で、啓介がこのアプリの話を持ち出したのだ。


「今時百物語ってどうなんだよ」

 などと馬鹿にしたようなことを言っていた村山涼も、他の三人が意外にも乗り気だったことで渋々参加を承諾した。



「じゃあ、次は俺の番だな」

 始めは乗り気でなかった涼が、楽しそうに言い出す。

 百物語に向けて怪談を調べるうちに興味が湧いてきたようだった。


 楽し気に笑みを浮かべ、ゆっくりと話し始める。


「これは、先輩から聞いた話なんだけどな……」



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 その先輩は結構バイトしてる人で、その日もバイトで帰りが遅くなったらしいんだ。

 夜遅くに一人で帰ることも珍しいことじゃなかったし、男だから誘拐される心配も無いだろーみたいな。そんな感じでのんきに歩いて帰ってたらしいんだ。


 そんでまあ街灯の無い住宅街に差し掛かった時。後ろから、何かが付いてくる気配がしたらしいんだよ。

 その気配はどんどん近づいてきて、ハッキリとした足音になる。

 でも振り返っても誰もいないんだ。


 そんでまあ定番だよ。先輩が走れば足音も走る。先輩が止まれば足音も止まる。

 最初はちょっと不気味だったけど、その先輩肝が据わってるからさ。

 だんだん、興味が湧いてきちゃったらしいんだよ。


 これ「Uターンして足音の方に近づいたらどうなるのか」って。


 足音が遠ざかる?

 それとも、足音の正体に行き当たる?


 色々仮説を立ててたらちょっとワクワクしてきたみたいで、軽く走ってからパッと振り向いて後ろに走り出したんだ。

 ……そしたら、どうなったと思う?


 足音がさ、一瞬で移動したんだよ。

 自分の後ろに。


 ありないと思って同じ方向に走り続けたんだけど、やっぱり足音は後ろから聞こえる。

 それじゃあともう一度振り返って、元の方向に走り出すとまた足音は後ろに移動してる。


 どうしても、絶対に足音は後ろにくっついてきて一定の距離を保ってる。


 これは絶対に人間じゃないって確信した。

 でも、所詮は足音だけだ。何か危害を加えられるわけでもない。


 だからまた悪い癖が出たんだよ。


 これ、「後ろ向きに歩いたらどうなるんだろう」って。


 そのまま先輩は後ろに向かって歩き出した。

 歩いて、歩いて。


 そしたら前に、黒い影みたいなのが見えたらしい。

 人間みたいな形をしてて、後ろ向きに歩いてる。


 ああ、あれが正体かってむしろ安心したらしくてさ。

 危害を加えられるわけじゃねえしって。


 俺がこの話を聞いた時、ここまではちょっとへらへらした感じで話してたんだけどさ。

 でもその直後、先輩が顔を青くしていったんだ。


「俺、気づいちゃったんだよ。ほら、最初に足跡が聞こえたときは、振り返ってもなにもいなかったって言ったろ?足音は、まだ後ろから聞こえ続けてたんだ……」

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