遺跡の最奥にたどり着いたが、真実はいつでも残酷らしい。――13

 魔法の圧力を背中に感じ――


「ご主人さまは傷つけさせない!」


 クゥが『魔法無効』スキルの揺らぎを放った。


 俺たちに向かっていた魔法を、揺らぎがかき消す。


 俺は安堵あんどの息をついた。


「ありがとう、クゥ!」

「助かりました~!」

「反射された魔法はボクに任せて!」


 クゥがフンスと鼻息を荒くし、たわわな胸をグッと張った。頼もしい限りだ。


「――シブトイヤツラメ……今度ハコチラカライクゾ」


 タイタンが両腕を広げ、拳を振るってきた。


 一発一発が砲弾より巨大なパンチ。まともに食らえばひとたまりもない。


 しかし、タイタンが攻撃に回ったことで俺は気づいた。


『絶対防御』スキルには、時間制限がある!


 サシャが突撃したとき、『超越』スキルの使用可能時間は二〇秒残っていた。サシャの接近を、タイタンは『反射』スキルの盾で妨害した。その目的は時間稼ぎだったんだ。


 サシャがタイタンのもとにたどり着くのにようした時間は一〇秒。その時点で、『超越』スキルのタイムリミットまでは一〇秒。


 タイタンは、一〇秒までなら『超越』スキルを用いたサシャの攻撃に耐えられた。。だから、一〇秒の時間稼ぎが必要だったんだ。


『絶対防御』スキルは、一〇秒間しか発動できない。


 そして、五人の魔法攻撃に『反射』スキルで対抗していたのは一〇秒。それが意味するのは、『絶対防御』スキルの使用時間が切れてから、もう一度使用可能になるまでは、一〇秒間のインターバルが必要になること。


 つまり、タイタンの攻勢を一〇秒耐えれば、反撃の機会は訪れる!


 判断し、俺は指示を出した。


「攻撃を中断! 回避に専念!」

「「「「「「はい!」」」」」」


 六人が散らばる。


「――ナニッ!?」


 散開した六人がバラバラに走り回り、タイタンが立ち尽くした。


 タイタンが視線をさまよわせる。狙いを定められず、戸惑っているのだろう。


「――時間稼ギノツモリカ!」

「そうだ。避けきれば、お前を倒すチャンスが訪れるからな」

「――ッ!! 我ノスキルノ制限時間二気ヅイタカ!!」


 タイタンが焦り、視線をララに向けた。


「――ナラ、ティアマトヲ狙ワセテモラウ!」


 ララは俺たちのなかでもっとも身体能力が低い。


 タイタンはララを狙うことで、俺たちの動揺を誘うつもりなのだろう。


 タイタンが両腕を振りかぶり、ララを潰そうと振り下ろした。


 それでも俺は焦らない。


「わかってたよ。ララを狙うことくらい」


 俺は『経験値配分』により、ララに経験値を集めた。


 タイタンの両拳がララに迫り、


「ふっ!!」


 通常の倍以上の速度でララが飛び退り、タイタンの一撃を余裕で回避する。


「――ナン……ダト!?」

「ララは身体能力に優れていない。。簡単に読めたよ」


 わかっているから対処は余裕だった。身体能力が足りないなら、『経験値配分』で補ってあげればいいんだ。


 そしてこの瞬間、『絶対防御』スキルの発動から一〇秒が経過した。『絶対防御』スキルは解除される。


「俺たちのターンだ。最後の、ね」


 勝負を決するべく、俺は声を張り上げた。


「ララ!」

「はい~! 『ライトニングウェーブ』!」


 稲妻の奔流ほんりゅうが放たれた。


 さながらいかずち蟒蛇うわばみ。雷の蟒蛇が大口を開け、タイタンをのみ込まんとする。


「――ヤラレハセヌ!」


 それでもタイタンはあがいた。


『反射』スキルの盾を並べ、雷の蟒蛇を跳ね返そうとする。


「――我ヲ仕留メルホドノ魔法ダ! オマエタチガ食ラエバヒトタマリモナイ! 反射スレバ、我ニモ勝チ目ガアル!」

「いや、俺たちの勝ちだよ」


 なぜなら、


「俺たちの攻撃はまだ終わってないんだから!」

「『グランストリーム』!」


 シュシュが水魔法を行使し、膨大な水流が生まれた。


 一〇〇メートル×二〇メートルもある大部屋の縦横を、埋め尽くすほどの水量。


 その水流が、雷の蟒蛇を取り込み帯電する。


 雷撃の破壊力をまとった大奔流。まさに破壊の濁流タイダルウェーブ


 大部屋の縦横を埋め尽くす水量を、六枚の盾如きで防げるはずがない。『絶対防御』スキルに頼ることもできない。


 つまり――


「お前の負けだ、タイタン!」

「ヌオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 タイタンが破壊の濁流にのみ込まれ、轟々ごうごうと破壊音が響く。


 やがて濁流が収まり――そこにはひとつの魔石だけが残っていた。


「「「「「「やったぁ――――――――っ!!」」」」」」


 二体の魔公を討伐し、六人が喜びを爆発させる。


 だが、俺は六人とともに喜べなかった。


 やるべきことが残っているからだ。


「嬉しいのはわかるけど、セラフィさんを追わないと!」

「そうでした!」

「セ、セラフィさんを、逃がしたら、魔王軍に、加入されてしまいます!」


 ハッとした六人と、俺は大部屋を飛び出した。





 遺跡内をくまなく走り回り、俺たちはセラフィさんを探した。


 しかし、セラフィさんの姿はどこにもなかった。


 俺たちは、セラフィさんを逃してしまったんだ。

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